クリスマス3 プレゼント

「やってらんないわよ。帰ろう、椿つばきっ」

「なんだよ。いろいろ心配してやって損したよ」

 桜宮さくみや先輩と椿先輩は互いに何かぶつぶつ文句を言いながらも、目はにやにや笑って高校の方へと歩き出す。自転車通学の二人は、高校に自転車を停めて歩いて駅まで来ているようだ。


「じゃあね、桃ちゃん。また明日!」

 桜宮先輩は私にだけ手を振る。


「さわるのは手だけにしておけよ、蘇芳すおう

 椿先輩は笑いながら蘇芳先輩に片眼を瞑る。


「……帰ろう」

 ぼそり、と蘇芳先輩が私に促した。


 そのお疲れな様子に、私は噴き出して笑った。蘇芳先輩もつられるように苦笑し、ボストンバック型の防具入れと竹刀袋を揺すり上げるようにして担ぎなおす。


 私はここからバスに乗って帰る。蘇芳先輩は徒歩圏内らしく、いつもバス停まで付き合ってくれて、私がバスに乗るのを見送ってくれていた。


 バス停に向かうために、目の前の二車線道路を二人で渡る。

 交通量が多くて、横断歩道の前に立っても特段車は止まってくれない。


 車が切れたところを見計らい、蘇芳先輩が私の手をとって引っ張りながら歩いてくれる。随分と大きな手で、私は蘇芳先輩に比べたらなんとも小さな手なのだけど。


 お互い、竹刀を握るマメができていることに気づいて、くすり、と笑った。

 道を渡ると、蘇芳先輩はするり、と私から手を離す。


 ……そんな時。

 これは「カノジョだから手を繋いだ」わけではなく、「安全を確保するために手を繋ぎました」と言われているようでちょっとがっかりだ。


 多分、剣道場の小学生の子たちにも同じことをするんだろうな、と思うと、私のライバルは随分と多い。


 バス停までの道を並んで歩きながら、私は手に持っていた椿先輩のプレゼントを見て思い出す。


「蘇芳先輩、ちょっと止まってくださいね」

 歩道の脇に寄りながら、リュックタイプの防具袋を降ろす。蘇芳先輩は不思議そうに私を見ながらも、竹刀袋を持ってくれた。


 私は椿先輩からもらった袋を丁寧に仕舞い、ごそごそと防具袋から紙袋を取り出した。


 もう一度リュックを背負い、蘇芳先輩から竹刀袋を受け取って腕にかけると、「はい」と、紙袋を手渡す。


「クリスマスプレゼントです。明日部活で渡そうかと思ったけれど、からかわれても嫌かな、と思って、今日持ってきたんです」

 結果、別のことではからかわれたんだけど、と内心で付け加える。


「……ありがとう」

 蘇芳先輩は戸惑いながら受け取る。紙袋の中のラッピングされた箱を見ていたけれど、私を見降ろして首を傾げる。


「今、開けてもいいわけ?」


「どうぞどうぞ」

 蘇芳先輩は通行の邪魔にならないように歩道の端っこに移動する。

 かさかさと音を立てながら、慎重にラッピングを外した。


「ああ」

 出てきた品物を見て、蘇芳先輩が笑う。


「ありがとう」

 もう一度そう言ってくれる。


 手の中にあるのは、ステンレスボトルの水筒。


 本当は、バッグとかどうかなぁ、と探していたのだけど、買い物に付き合ってくれたあおいが、『……でも、あんたたち、ずっとあのごつい防具袋担いでるじゃん。使うの?』と言いだして目が醒めた。


 確かにそうかも、と。もう、最近じゃ、あの防具バッグに、なんでも入れて運んでいる。蘇芳先輩だってそうだ。


 で。ふと思い出したのが、先輩のぼこぼこのステンレスの水筒。


 乱雑に扱ったせいなのか、年季が入っているせいのか、本体のステンレス部分が凹んで歪み、すでに立たない状態になっている。


 桜宮先輩も椿先輩からも、『買い替えれば』と言われているけど、『その時期が判らない』と答えて、『もう過ぎてるよっ』と突っ込まれていた。


 それで、今度はお母さんと一緒に買い物に行き、OUTDOORのステンレスボトルを購入。クリスマス用にお店でラッピングしてもらった。


 購入までに散々色で迷い、ブルーがいいか、グリーンがいいかとお母さんに尋ねたら、

『そこの象印の安っすいやつでいいんじゃないの』

 と、うんざりした顔で言われた。


 ……どうも、女の子を一人しか育てていないお母さんは、蘇芳先輩の上背と体格が怖いらしい。


 お父さんにも、

『あんな武道系の男のカノジョにするために、私は娘を大事に育てたんじゃない』

 と、お酒を飲めば愚痴っている。


「よかったら使ってください」

 笑ってそう言うと、「ああ」と返事があった。器用にもまた丁寧にラッピングを戻し、紙袋に品物を戻す蘇芳先輩を確認し、私はバス停に向かって歩き出す。


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