クリスマス2 のろけ

 ……とにかく、この先輩、忙しい。


 剣道部の活動だけではなく、剣道場の活動もあるし、それに加え、他部の練習にもつきあっているので、夏休みなど剣道部の部活数時間しか会えなかった。おまけに、塾の特別講習も夜に行っていたようで、めまぐるしい動きをしている。


 長期休暇になったら、時間単位で動くので、通常授業がある日の方がゆっくりしているぐらいだ。


 今回も、冬休みに入った途端、朝はサッカー部の個人練習に早くから付き合い、その後、剣道部の部活に参加。午後はバスケ部かバレー部の練習に付き合い、その後、塾の特別講習に行っているようだ。


 なんとなく。

 クリスマスは会えないだろうな、と思っていたので、あおいに『カラオケ行かない?』と誘ったら、『行く』と返事はくれたものの、

『……ほんとにつきあってんの?』

 と、訝しげに言われた。


 付き合ってる。

 断言できる根拠は、部活帰りにバス停まで二人で歩くとき、ちょっとだけ手をつなだりする、という薄弱なものなんだけど。


 この話をすると、葵には鼻で嗤われた。

 私は考えを切り替えようと、手の中のラッピングを見る。


「もらってもいいんですか?」

 こっそり桜宮さくみや先輩に尋ねると、「毎年なんかくれるの」と、平然と言っている。


「お返しとか……」

 小声で尋ねると、ぎゅっと強い視線を向けられる。


「もらっておけばいいの。これは、私たちが一年間この男たちを世話してきた報酬だと思えばそれでいいの」


「……そ、そうですか」

 あまりの目力に視線をそらし、隣に立つ蘇芳先輩の手元を見ると、先輩にはカロリーメイトがラッピングされていた。


「蘇芳はハンドクリームとかいらないだろ?」

 私が見ていることに気づいたのか、椿つばき先輩がくすりと笑う。


「いらない。ってか、ハンドクリームって必要?」

 蘇芳先輩は、逆に不思議そうに私の手元のハンドクリームを覗き込んだ後、欠伸をかみ殺した。


 大分疲れているらしい。そういえば、閉会式を待つ間、観覧席で蘇芳先輩がうとうと眠っていたのを思い出した。


「いるわよ。普通に塗るわよ」

 桜宮先輩が眼を細めて蘇芳先輩を睨みあげる。


「冬場とか手がかさかさになるので、結構使いますよ」

 私も苦笑すると、素直に納得して蘇芳先輩は頷いた。


 ……多分。

 疲れのせいで、大分油断していたんだと思う。蘇芳先輩。


 自分が『考えていること』と、『口に出したこと』の区別があいまいになっている感じだったに違いない。


 実際。

 なんの意図もなく、ぽろっ、と蘇芳先輩は言った。


「どうりで、桃山の手って、いつさわってもつやつやなんだ」


 私は目を見開いて蘇芳先輩を見上げる。

 なんの爆弾を投下したのか、と思ったのだけど、言った本人は、何かを『話した』意識もないらしく、しばらく私をきょとんと見降ろしていた。


「ちょっと、止めてよ! なんののろけよっ」

 桜宮先輩が悲鳴を上げ、蘇芳先輩の肩を殴る。隣では椿先輩が爆笑していた。


「蘇芳がそんなこと言うとは思わなかった」


「……俺、今、喋った?」

 おそるおそるという風に、蘇芳先輩が私を見る。


 曖昧に笑って頷くと、絶望とはこういう表情なのかという顔でうなだれた。


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