82.コンテスト後の生産者談義

「おう、お疲れさんだ、仮面の」

「ああ、お疲れ様、大旦那。結局、勝てなかったけどな」


 オリジナルアイテムコンテストが終わって、『リーブズメモリーズ』のほうは解散したので『ヘファイストス』に顔を出した。

 そうしたら、大会議室に集まって打ち上げパーティをやっているということなので、よってみることに。

 そこには大旦那を始め、ギルドの主立った面々が揃っていた。


「なにが大旦那には勝てなかった、だよ、仮面の。お前だって二位だろうが」

「そうだよ。なんだよ竜魂装備って。そんなに竜が殺したいのか!」

「大旦那だって滅竜装備でしょう。どんな素材を使ったか気になるわ」


 生産者が集まれば、話題は自然と生産方面に向いていく。

 俺も滅竜装備には興味があるな。


「うん? 滅竜装備か。仮面の、お前はレシピを公開するのか?」

「レシピって、竜魂装備の? 竜魂装備自体のレシピは公開しないけど、素材のレシピは公開するよ」

「……まあ、そこが落としどころだわな。俺もそうすっか」


 大旦那も滅竜装備のレシピを公開する気になってくれたらしい。

 さて、それじゃあ俺も竜魂のインゴットを公開するとしようか。


「……うん、竜魂のインゴットのレシピ、公開完了だ」

「こっちも滅竜水晶のレシピを公開したぞ」

「お、気前がいいね、ふたりとも! さーて、どんなレシピなんだ……」

「……って、お前ら、ふたりとも色竜のハズレレアを使ってたのかよ!」


 ああ、やっぱり大旦那のレシピは竜命脈の結晶が素材か。


「竜の秘宝に竜命脈の結晶なんて使い道がないと思っていたわ……」

「これは即買いに行かないと!」

「早く行かねば売り切れになるぞ!」

「あー、市場にアクセスするなら、ギルドハウスの一階からアクセスできるよん」

「サンクス若様、行くぞ皆!」

「おうよ!」


 喜び勇んで数名が出て行ったのだけど……大丈夫かな?


「うん? あいつらが心配か、仮面の」

「公開してみて初めて知ったけど、推奨鍛冶レベル55の錬金術レベル30ですよ。条件満たしてるのかな、あいつら」

「大丈夫だろ。出て行ったのは、少なくとも鍛冶マスターの連中だけだ。錬金術も……大丈夫じゃないかな」

「そーそー。細かいことは自己責任ってことで、ここは楽しもうぜぃ」


 さっき出て行った職人連中に代わって、若様が俺たちの輪の中に入ってきた。

 その手におつまみとジュースを抱えて上機嫌である。


「あー、これでお酒もあれば最高だったんだけどねー」

「さすがに全年齢向けゲームで酒はないだろう」

「残念、仮面の。あるゲームはあるんだよん。《Braves Beat》ではないんだけど」

「……なあ、仮面の。竜魂のインゴットってどうやってつくるんだ?」


 さっきから黙っていた大旦那だが、どうやら竜魂のインゴットのレシピとにらめっこしていたらしい。

 どうやってと聞かれてもな……。


「手順は公開したとおり、としか言いようがないんだけど」

「いや、しかし、この手順には無理があるぞ。どう頑張っても鍛冶環境をこんな頻繁に変更できない」


 ああ、そこか。


「それは、精霊に頼んで環境変化をさせてるんですよ」

「……その可能性は考えたんだが、この回数を変化させるとなると、精霊に覚えさせている環境変化スキルの数も膨大じゃないか? どうやってこの数を覚えさせた?」

「どうやって、というか。普通に全スキルポイントを環境変化スキルに割り振っただけですよ」

「……それって可能なのか?」

「可能不可能で言うなら実行した実例がいますしできるんでしょうね。その代わり、精霊の戦闘能力がゼロになりますけど」


 俺の場合、精霊が戦えないところで何の問題もないからな。

 喜んで戦闘スキルを切り捨てたよ。


「……ふむ、そう考えるとマスターランクの生産職はそれもありか。今更、精霊に戦闘スキルを覚えさせている意味もないしな……」

「まあ、そんな感じです。便利ですよ、どんな環境でも瞬時に作れるっていうのは」

「仮面のは戦闘スキルを覚えさせるのが面倒だっただけでしょー」

「まあ、そうとも言うな」


 俺は苦笑いを浮かべながら頷いた。

 俺と若様がじゃれている間も大旦那は考え事をしていたが、やがて決心がついたのかサブメニューを操作して課金アイテムを購入したようだ。


「お、大旦那も精霊を特化型にするんだねぃ」

「そうだな。いままでは、半端に戦闘もできるようにしていたが、現状では戦闘の役には立たなくなったからな」

「賢明な判断だと思うぜぃ。それに、大旦那も竜魂のインゴットを作れるようになれば、受注できる数も増えるしねぇ」

「……そっちは仮面のに回すんじゃないのか?」

「……仮面のって夏休み、今日までなんだぜい」

「……そうなのか、仮面の」

「ああ、そうだぞ」


 大旦那の確認に頷きながら返事をする。

 明日からは夏休み明けの二学期が始まるのだ。


「そうなると仮面のの生産力は激減だからねぇ。……あ、仮面の、ちなみに竜魂装備って一日にどれくらい作れるの?」

「そうだな……インゴットひとつで作れる装備なら、一日でひとつ。インゴットをふたつ以上使う装備は、二日かけてひとつだな」

「……わお、想像以上に時間がかかるぞ」

「ちなみに、時間の内訳は?」

「インゴットを作るのに一個一時間程度はかかる。連続して作るのは無理だから少し休憩を挟まないとだめ。で、そこから装備を作成して一時間から二時間ってところだ」

「……確かに、一日に装備ひとつだな」

「あー、ひょっとして、大旦那も似たような感じ?」

「そうだな……俺も一時間かけて滅竜水晶一個が限界だ。そこから装備を作ってとなると、装備ひとつに二~三時間だな」

「うわーい、量産ができないぜー」


 若様は途方に暮れた顔をしているが、できないものはできないのだ。

 ここはほかのメンバーに頑張ってもらうしかない。


「うーん、ほかの皆で量産体制できるかなぁ?」

「どうだろうな? なれれば難しくないと思うんだが」

「レシピも公開したし、独占できるのは最初のうちだけ……と思うぞ」

「だといいけどねぇ」


 その後も生産体制の話をしてみたが……ほかのメンバーが作れるようになるかが勝負と言うことで話はまとまった。

 時間も遅くなってきたのでそろそろおいとましようと思ったとき、大会議室の入り口から若様を呼ぶ声がする。


「おーい、若様。お客さんだぞー。なんでも滅竜装備と竜魂装備の発注だってさ」


 ああ、これはすぐに帰れないやつだ。

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