76.竜魂と銀竜ブリザードドラゴン

「エイトよ、この現象について予測はついていたようだな。説明してもらおうか」


 フォレスト先輩に説明を求められたし説明をしよう。

 求められなくても、説明するつもりではあったけど。


「この装備ですが、『竜魂』の名前が表すとおり、竜の魂を封じることができます。今回の装備の場合、色竜たちの魂ですね」

「……うーん、お姉さんそれだと意味がわからないんだけど」


 そうだろうな、概念的な説明をされても困るだろう。

 ならば、ゲーム的にシステムの説明をしてしまおうか。


「わかりやすく言うと、倒した色竜の属性を竜魂装備に宿して戦うことができるようになっているはずです。理論だけしか試していないので、効果はまだわかってませんけど」

「それってすごいのー?」

「ダンナの説明が確かなら、この装備は色竜を倒すたびに強くなるわけだ。全部の竜を倒せれば、それだけで八属性を使える装備に化けるんだからな」

「ダン、正解。と言うわけで、消耗もそんなにしていないし次に行こう!」


 フレアドラゴン戦は消耗を最低限に抑えることができた。

 さて、次の色竜を倒しに行こうか。


「エイト君、待って! フレアドラゴンの解体がまだだよ!」


 ……ああ、すっかり忘れてた。

 竜魂装備のことで頭がいっぱいだったよ。


「それじゃ、サクサク解体しますか。あ、竜の秘宝と竜命脈の結晶が出たら買い取りますよ」

「……どちらもハズレレアと呼ばれているものだがいいのか?」

「ええ、今後の研究材料なので。市場価格よりも高く買い取りますからご安心を」


 目的のアイテムを買い取る約束をしたら、宣言通り解体をしてしまう。

 解体結果は、全員で竜秘宝が一個、竜命脈の結晶が二個という結果だった。

 ドロップ率を考えれば、十分すぎるほど多いドロップ数なのでほくほくだ。

 それじゃあ、今度こそ次の色竜に挑もう。


「エイト君、次の色竜はなにに挑むの?」

「次か? 次は銀竜ブリザードドラゴンだ!」


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「うー、フレアドラゴンのフィールドは暑かったけど、ブリザードドラゴンのフィールドは寒い!」

「こっちは寒さでスリップダメージが入るからな。対策用の装備は配っただろう?」

「スリップダメージはないけど、やっぱり寒いの!」


 確かに、俺も寒い。

 銀竜ブリザードドラゴンは、その名前の通り氷属性のドラゴン。

 最大の弱点は火属性。

 なので、火の竜魂を吸収したいまの状態なら、割と楽に勝てるはずなのだ。


「エイトよ、ブリザードドラゴンの特徴は覚えているのかね?」

「基本的にはフレアドラゴンと一緒ですね。攻撃よりで防御系は低めです。火の竜魂もありますし、一気に攻めて倒してしまいましょう」

「……それもそうだな。ところで、装備が紅玉幻竜のままだがこれでよかったのか?」

「氷属性の攻撃は火属性で軽減できますから。ああ、ブルー先輩は盾と鎧の竜魂を常に継続できるように気をつけてくださいね」

「わかったよー。がんばるねー」


 フレアドラゴンの解体を終えたあと、竜魂によるバフがどれだけの間続くかを検証してみたが、百二十秒だった。

 消費TPから考えればかなり長めのバフだったので、使い勝手はいい方だろう。

 同じ属性に限るのかはわからないけど、重ねがけをすれば、百八十秒までは延長できるみたいだし。


「それでは、バトルを始めますよ」

「頼んだぜ、ダンナ」


 バトルフィールド内に入ると、はるか彼方からブリザードドラゴンが飛んできた。

 ブリザードドラゴンが着地して雄叫びをあげるところからバトルスタートみたいだな!

 まずは、ブルー先輩が竜魂バフを全開にしてタゲをとり誘導する。

 ブルー先輩をロックオンしているブリザードドラゴンだが……通常攻撃ではまともにダメージを与えられてないな。

 現環境下で実装されているモンスターの中で最強種と呼ばれている、色竜とは思えないほどにダメージが低い。

 これなら特殊攻撃に気をつけるだけで勝てるかもしれないな。


 さて、攻撃陣だが、こちらも火の竜魂バフを使って攻撃を行っている。

 火の竜魂による高い火属性値に加えて滅竜属性も乗った攻撃は、ブリザードドラゴンのHPをガリガリ削っていった。

 もちろん、俺も竜墜砲でブリザードドラゴンを攻撃しているが……竜魂装備に比べると派手さがないな。

 堅実ではあるけど。


「あ、ブルー先輩。直線ブレスです。横に避けてください」

「りょうかーい」


 事前に色竜の動作を勉強している俺にとって、厄介な攻撃の予備動作を見極めるのは楽なものだ。

 今回は直線ブレスという、文字通り一直線にブレス攻撃を仕掛けるものだ。

 一発の威力は拡散ブレスと一緒だが、多段ヒットするため回避推奨なのである。

 横にずれるだけで回避できるし。


「ブレスを撃つモーションって、隙だらけで攻撃しやすいんだよなぁ」


 最大の弱点である逆鱗が見えるので、ここが狙い時である。

 もっとも、竜墜砲は狙いの正確性をかなり犠牲にしているので命中率は非常に低めなのだが……。


 その後も様々な攻撃を仕掛けてきたブリザードドラゴンだったが、ダメージ蓄積によるダウンを奪ったときにはほぼ瀕死で、ダウン時の総攻撃により無事討伐に成功したのだった。


「……なんだ。色竜がここまであっけなく倒せるというのも、思うところがあるな」


 ブリザードドラゴンの解体が終わったあと、フォレスト先輩がそんなことを言い出した。


「そうですか? 装備の相性がよすぎるせいだと思うんですが」

「だとしてもだ。その理論でいけば、大多数のプレイヤーが色竜は倒せてしまうことになるぞ?」


 ああ、そんなことか。


「……フォレスト先輩、色竜って割と倒しやすいモンスターなんですよ。ぶっちゃけ、ボスクラスじゃないんです」

「む、そうなのか?」


 俺のセリフにフォレスト先輩は毒気を抜かれたような顔をする。


「考えてもみてください。フレアドラゴンもブリザードドラゴンも、HPが減ったときの特殊行動ってしてきましたか? ついでに言えば、瀕死時の強化モードもありましたか?」

「……そう言われると、どちらもないな」

「そういうことです。色竜を倒せる人間や色竜素材を取り扱う生産職しか知らないことだったりしますが、色竜はボス扱いじゃないんです。実際には、色竜の上位存在がボスなんです」

「……そんなのがいるのか?」

「今後実装予定のようです。フィールド探索をしていると、それらしき痕跡が見つかるそうなので」

「それは恐ろしいな……いや、エイトからすれば楽しみなのか」


 フォレスト先輩の問いかけに、俺は笑って答える。


「もちろん楽しみですよ。新しい素材とかわくわくするじゃないですか!」

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