73.竜魂装備シリーズ

「こんにちは、エイト君。いま、大丈夫?」


 黄玉幻竜の装備一式をギルドの皆に手渡した次の日の午後、レイが俺の工房にやってきた。


「レイか。いま休憩中だから、少しの間でいいならかまわないけど」

「よかった。……ちなみに、いまなにを作ってるの?」

「オリジナルアイテムコンテストに出すアイテムだな。まあ、できたら見せてやるよ」

「ありがとう! それで、今日来た理由なんだけど、属性竜の素材からレイピアって作れないかな?」


 属性竜のレイピアか。

 えーっと、レシピを見る限りだと……。


「作れるな。属性竜ごとに別々のレイピアがあるぞ」

「やった! それじゃあ、手が空いたときでいいからレイピアを作ってくれる? これ、素材ね」


 レイが手渡してきたのは、大量の属性竜素材。

 品質もなかなか上質な状態でそろっている。


「了解だ。といっても、いまいろいろ立て込んでるから、しばらくあとでもかまわないか?」

「大丈夫だよ。なんだったら、夏休み明けでも大丈夫!」

「……つまり、コレクション目的か」

「だって、性能だけ考えると幻竜装備のほうが強いんでしょ?」

「……だな」


 そういえば、属性竜装備って幻竜装備には届かないんだった。

 すっかり忘れてたな。


「そういうわけだから、お願いね!」

「ああ、作業が終わったらしっかり作っておくよ」

「うん、これで属性竜のレイピアもそろいそう。あとは、色竜のレイピアかな?」


 色竜のレイピアか……。

 あれって買うと高いよなぁ。


「そっちも素材を集めてきてもらえれば作るぞ。……フォレスト先輩から聞いてるかは知らないけど、今度色竜は全部討伐に行く予定だし」

「えっ!? エイト君が積極的に狩りに行くなんて珍しいね?」

「ああ、ちょっと訳ありでな。『リーブズメモリーズ』には付き合ってもらうから、そのつもりでいてくれよ」

「うん、わかった。それじゃあ、私はこれで行くね」

「ああ。……その前にちょっといいか」

「うん? なあに?」


 レイを引き留めて一枚のデザイン画を見せる。

 見せたのはレイピアのデザイン画だ。


「オリジナル武器のレイピアだが、このイメージで作ってかまわないか?」

「えっ、オリジナルのレイピア作ってくれるの?」

「ああ、全員分のオリジナル武器は用意するつもりだ」

「やったー! あ、デザインだよね、これでオッケーだよ!」

「わかった。全員分の装備を完成させてから渡すから……一週間程度は待っててくれ」

「うん、了解! 皆には教えていいの?」

「そこは好きにしてもらってかまわないぞ。サプライズでも予告ありでも、どちらでも一緒だし」


 俺としてはどちらでもいいわけだが、レイは違ったらしい。


「そこはサプライズで用意しないと! 私以外で知ってる人は!?」

「あー、多分いないんじゃないかな」

「わかったよ、それじゃあこのことは秘密にしておくね!」


 全員にオリジナル装備を配ることは、秘密にして進めることとなったようだ。

 俄然、テンションが上がったレイが帰って行ったあと、俺は再び工房へとこもる。


「さて、竜魂のインゴットをできるだけ作り貯めておかないとな。試した感じだと、全身鎧は四つ、塔盾とバトルアックスは二つ消費するみたいだし」


 竜魂のインゴットで作る装備は、竜魂のインゴット以外の素材を使用しない謎仕様であった。

 でも、作る装備の大きさで消費するインゴットの個数はしっかり変わるらしい。

 全員分となると、それなり以上の準備が必要なわけだ。


「インゴット一つを作るのに大体一時間、一個作ったら十五分から三十分は休憩しないといけないから……三時間で二個しか作れない計算か」


 午後を目一杯使っても一日四個作るのが限界である。

 仲間の装備を作るだけなら問題ないが……コンテスト後のことはそのときに考えよう。

 レシピを公開すれば、ほかの鍛冶士も作るだろうし。


「さて、作業を再開するか。とりあえず、インゴット十二個を作ってしまってから、個人の装備だ」


 気合いを入れてインゴット作製を始める。

 その日できたのは休憩前に作ったものも含めて、合計三個だった。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「ふーん、それじゃ、仮面のも着々とコンテストの準備は進んでるわけだ」


 インゴット作製が一段落し、装備のほうに取りかかっていたある日、若様が工房にやってきた。

 主な目的は、依頼の受注件数の調整らしいが、それはすぐに済んでしまい、メインは雑談に移っている。

 内容はオリジナルアイテムコンテストについてだ。


「だな。手の内は明かさないけど」

「僕だって聞くつもりはないよっと。ほかにも『ヘファイストス』で参加するってメンバーは何人かいるしねぇ」

「そうか。ちなみに、大旦那は?」

「参加するらしいよ。あっちも手の内は一切教えてくれないけどさ」


 やっぱり大旦那も参加か。

 手強いライバルになりそうだな。


「ほかの生産系ギルドでも大物が参加するって噂だよん。皆、一癖も二癖もあるオリジナルアイテムを持ち出すらしいねぇ」

「……まあ、生産ギルドの上位勢って変わり者が多いから」

「仮面のも含めてね」


 自覚があるから言うな。


「で、仮面の、来週になったら依頼の件数増やしても大丈夫なん?」

「ああ、大丈夫だ。ただ、日によっては受けられないかもだが」

「そこは前もって教えてくれれば調整するよっと。仮面のも学生なんだし、夏休みを楽しみたいよねぇ」


 夏休みか……。

 特に予定はないよなぁ。


「あれ、仮面の、特に予定なし?」

「ぶっちゃけ、出かけるのが面倒」

「……その気持ち、わかるわー」


 VRのオンラインゲームをやっている時点で、いろいろとお察しだろう。

 午前中にやっている勉強は、夏休みの宿題を終えて休み明けの予習に入ってるし問題なし。

 午後はフリーだが、わざわざ暑い中出かける必要もないし……。


「とりあえず、用件は済んだしこれで失礼するよっと。またね、仮面の」

「ああ、またな。……ああ、そうそう。『リーブズメモリーズ』のほうで人員を貸してくれて助かってるよ」

「ああ、それね。こっちとしても、やることのないメンバーが出張しているだけだから気にしないでちょうだいな。属性竜とか幻竜とか素材が美味しいです」

「そう言ってもらえると助かるよ。多分、この先もしばらくお世話になると思うからよろしくな」

「はーい、ほかの皆にそう伝えておくよー」


 さて、若様も帰ったし、竜魂装備を仕上げていくとしよう。

 刀が簡単だったから油断してたけど、全身鎧、めちゃくちゃ時間がかかるぜ……。

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