72.黄玉幻竜装備作製
「ほい、頼まれていた装備のイメージ画、できたよ」
「ありがとう、エミル。これで、こっちの作業も進むよ」
黄幻竜を討伐に行って数日後、エミルが俺の工房を訪れていた。
目的は、俺が依頼していたイメージ画を渡すためにきてくれたのだ。
「それにしても、完全オリジナルの装備案ってことは、オリジナル装備だよね。今度のコンテスト用?」
「まあ、そういうことだ。エミルは参加しないのか?」
「私は趣味じゃないかなー。オリジナルな服を作るのはいいけど、それに性能まで上乗せさせるとコストがね」
「……まあ、仕方がないところだよな。それじゃ、イラスト、サンキューな」
「こっちこそ面白い仕事だったよ。またねー」
手を振りながら出て行ったエミルに対して、俺もまた手を振り返した。
さて、オリジナル装備の作製も進められるけど、まずはギルドメンバーの黄玉幻竜装備だよな。
素材は十分にあるし、さっさと作ってしまおう。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「へー、これが黄玉幻竜装備なんだ。見た目がピカピカしてるけどかっこいいじゃない」
「うーん、やっぱり全身鎧はゴツゴツしてるんだねー」
夜になってギルドハウスに向かい、完成した黄玉幻竜の装備をそれぞれに渡す。
サイ姉さんは幻竜系装備が初めてということで、なかなか好印象のようだ。
対して、ブルー先輩は……やっぱりかなりごつい全身鎧なのでお気に召さないみたいだな。
「うむ、まあ、見た目は仕方がないではないか。性能的にはどうなんだ、エイト?」
「そうですね、いままでの幻竜装備とほぼ一緒ってところでしょうか。幻竜装備は性能差が無いように調整されたみたいですね、この間のアップデートで」
「そうなんだー。じゃあ、普段は藍玉幻竜の全身鎧を装備しようー」
「それなら、私は紅玉幻竜にします。赤いレイピアってかっこいいですしね!」
夏休み直前のアップデートで幻竜装備の性能差が無くなったことを伝えると、それぞれ好みの装備に切り替え始めた。
いままでは、実装順で多少の性能差があったから、使うのがためらわれてたんだよな。
「ダンナ。噂に聞いたんですが、シリーズ装備を一式装備したらセット効果が発動するって話、本当ですかい?」
装備の交換が一段落ついたところで、ダンが新しい話題をふってくる。
「セット効果か、そんな噂もあったな。でも、今のところ実在していないんじゃないかって言うのが有力説らしいぞ。若様が検証したけど、目に見えてわかるような効果はなかったらしい」
「そうですかい。ひょっとしたら、幻竜装備でもなにかしら効果があると期待したんですが……」
「若様曰く、今後実装予定の話題が先走ってるんじゃないかって言ってたぞ。この間の公式放送では、実際にセット効果の話題に触れていたって話だし」
この辺りが紛らわしくしている要因なんだろうな。
「了解。とりあえず、セット効果は今のところなしって考えておきます」
「うむ、その方がいいだろうな。……さて、エイトよ。今日はこのあとまた依頼対応か?」
「すみませんがそうなりますね。イベントに向けていろいろ買い込んだ結果、結構資金を使いましたからね……」
「なるほどな。……ちなみに、どれくらいの資金を使ったんだね」
「うーん、初期の頃から数えると四百万は使ってるんじゃないですかね。もう、詳しい金額は覚えてませんが」
「……さすがの額だな。そういうことなら仕方がないな。エイトはエイトで頑張ってくれ。なにかリクエストがあったら引き受けるが?」
リクエストか……。
そうだなぁ。
「いまじゃないですけど、手が空いたら色竜を狩りに行きましょう。一色だけじゃなく全色」
「……ずいぶんと大きなリクエストが出たじゃないか」
「大丈夫ですよ。耐性装備は用意しておくので、それがあればなんとでもなります。消耗品も用意しておきますので、よろしくお願いしますね」
「ああ、わかった。……ならば、このあと私たちは属性竜でも狩りに行こうか。色竜の練習にはなるだろう」
「さんせーです! でも、残りのパーティ枠はどうするんですか?」
「ああ、それなら『ヘファイストス』に相談してもらえれば大丈夫だよ。大物を狩りに行くときなら、ってことで人員を借りられるようにしておいたから」
「すまないな、エイト。では、私たちも出発準備だ」
今日の目標が決まって盛り上がっている皆に別れを告げて、自分の工房へと戻っていく。
工房に戻ったら、今日割り当てられている分の依頼をこなさなくちゃな。
若様によれば、数日程度は余裕をみて依頼を持ってきているらしいけど、早くこなす分には問題ないだろう。
あー、早いところ依頼を終わらせてオリジナル装備の作成に取りかかりたい!
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