66.夏休みの到来と姉、襲来
ソード先輩の壮行会が行われた翌日から、待ちに待った夏休みが始まった。
かくいう俺も、夏休みはゲーム三昧……というわけにはいかず、午前中は夏休みの宿題をメインとした勉強、午後からゲームという風に決めている。
ただ、今日は、午後からというわけにも行かないわけで……。
「……北海道とはいえ、夏はやっぱり暑いよなぁ……」
夏休みが始まった北海道、札幌駅。
俺はここで待ち合わせをしていた。
もっとも、待ち合わせの相手は、ゲーム同好会の面々ではないのだが。
「うーん、もらったメールだとそろそろついているはずなんだけどな。一度電話してみるか?」
空港に着いたあとメールをもらって、それから電車に乗り込んだはずなのでそんなに遅れはないはずだ。
駅の電光掲示板でも遅れが出ているという表示はない。
「さて、どうしたものかな。やっぱり、一度連絡……」
「おーい、琉斗! 元気にしてたー?」
連絡しようと思っていた矢先、待ち人が元気にやってきた。
「待ってましたよ、
「お待たせ、琉斗。いやー、空港から電車に乗ろうと思ったら電車が超混んでてさ。一本遅らせたら多少は空くかなと思ったんだけど……」
「この時期は変わらないでしょ」
「正解。結局、遅くなっただけだったね。ごめんごめん」
まったく、この人は。
いっつもこの調子なんだから。
「それで、和也はちゃんと夏期講習に行った?」
「行ったみたいですよ。行かなかったらゲーム没収ですからね」
「なるほど、それならさすがに行くか。我が弟ながら情けない……」
そう、静流姉さんは、和也の姉だ。
俺と和也は幼なじみということで、俺も静流姉さんと呼んでいる……というか、呼ばせられているが、性格はともかく頭のできは似ていない。
静流姉さんは本州にある有名大学に一発合格した才媛でもあるのだ。
「んーさすがに、半年じゃ札幌駅も変わらないわねー」
「そんな頻繁に変わってたら大変ですよ」
「それもそっか。そんなことより、お昼にしましょう、いつものお店でカレーカレー!」
「……相変わらず、食べる量も多いんですね」
静流姉さんの体格だが、身長は165センチほど、体型はほっそりとした、ただしメリハリのある体型だ。
でも、ひたすらよく食べるのだ。
太らないこつは毎日のストレッチだ、と言っているがそれくらいで太らないなら世の中もっと痩せている人が多いだろう。
「おばちゃん、日替わりビッグで!」
「俺は日替わり普通で」
静流姉さんに押し切られてカレーを食べ、帰宅することになった。
食事中はあまりしゃべらず、帰りの地下鉄の中で話すこととなった。
「ふーん、それじゃ、《Braves Beat》じゃそれなりの有名人なんだ、琉斗は」
「そうらしいですね。俺としては、引きこもりの鍛冶士程度の認識なんですが」
「仮面鍛冶士っていえば私でも聞いたことがあるものね。……本名は知らなかったけど」
「そうなんですね。……っていうか、《Braves Beat》やってたんですね」
「大学に入学してある程度落ち着いてからね。結構女友達の間でもはやってて、それならやってみようかと思ったらドハマりしちゃってさー」
「……単位とかは大丈夫ですよね?」
「ドハマりって言っても、大学の授業やアルバイトに穴を開けるようなまねはしてないよ? ちゃんとその辺の節度は守ってるって」
ならいいんだけどな。
静流姉さんも一度ハマると大変な人だから。
「そうそう、私、こっちに戻ってきている間も《Braves Beat》できるようにしてあるからよろしくね」
「……わかりました。それじゃあ、夜にでもゲームの中で会いますか」
「そうしてくれる? 場所はどこがいい?」
「そうですね。シータサーバーのゲート前で待ち合わせはどうでしょう。あそこならそんなに人が多くないので」
「オッケー。琉斗君は仮面鍛冶士、エイト=ダタラだったよね」
「はい。静流姉さんは?」
「斧術士、サイレント=ハリケーンだよ」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
晩ご飯を食べて、約束の時間より少し早めにシータサーバーのゲート前へと向かっておく。
あのあと、装備の詳細も聞いたけど『身の丈サイズのバトルアックスを担いでローブをまとったキャラだから!』とだけ教えられた。
……まあ、それだけ怪しいキャラだったらわかるだろう。
「さて、さすがにまだきていないみたいだな」
約束の時間まではまだ十五分ほどある。
ゲート前広場を見渡しても、バトルアックスおろか、ローブ姿のプレイヤーも見かけない。
さて、時間を潰すにはなにをしていればいいかな?
「あれ、エイトのダンナ。こんなところでなにをしてるんですかい?」
「うん、ダンか。そっちこそどうした?」
なにをしようか迷っていると、ダンから声をかけられた。
……いや、ここはそれなりに人通りがあるシータサーバーのゲート前広場だからおかしくはないのか。
「ちょっと露店を冷やかしにきたんですよ。ダンナは?」
「俺は待ち合わせだよ」
「へぇ。ダンナの店で待ち合わせじゃなく?」
「……あんな奥まった場所で待ち合わせができるとでも?」
「確かにそりゃそうだ」
俺の店、一見さんにはきついからな。
たどり着くのが大変という意味で。
「それじゃあ、ダンナはしばらくここで待ってることになるんですかい」
「そうなるな。ダンはどうするんだ?」
「そうですね。まあ、適当にぶらついたらパーティ募集でも探しに行きますよ」
「そうか。……なら、色竜素材を手に入れたら持ってきてくれないか? 品質はB以上で」
「了解っす」
「あら、色竜の素材を品質B以上で発注なんて結構厳しいんじゃない? エイト君?」
俺とダンの会話に割り込んできた軽やかな声。
振り向いてみると、昼間教えてもらったとおり、巨大なバトルアックスにローブをまとった女性プレイヤーがいた。
もっとも、まとっているローブは裾がボロボロになっていて、幽鬼のようにも見えるのだが。
「待っていましたよ。サイレント=ハリケーンさん」
「ええ、お待たせ、エイト君。私のことはサイ姉さんでいいからね?」
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