47.最後の試練
「それでね、またエイト君の力を貸してほしいの!」
「そう言われてもなぁ……」
順調に第四の試練をクリアしたらしい日の翌日、昼過ぎ。
俺の工房には、レイとフォレスト先輩がやってきていた。
「人数あわせで着いて行くのは構わないんですけど……ちょっと時間が……」
「ふむ、そういえば紅玉装備や翠玉装備の作成も受けているんだったか」
「はい、ヘファイストス経由で。人気に対して、人手不足が深刻みたいですね」
ユニーク装備が作れるようになってから、そちらの依頼が日に日に増していたらしい。
最初のうちはどうにかなっていたものの、いまでは大旦那まで総出で作業に当たっているとか。
そんな状況なので、どれだけ時間がかかるかわからないボス戦に出かけるのはためらわれるのだ。
「……そういえば、精霊って使えないんですか? パーティに欠員がいれば使えるらしいって聞きましたけど」
「精霊か。今回は不可能だな。ギルド結成クエストでは精霊の使用が不可能なのだよ。……使えたとしても、精霊はプレイヤーに劣るのでできれば避けたいのだがな」
「へえ、そうなんですね」
「エイト君は戦闘で精霊って使わないの?」
戦闘で精霊なぁ……。
「使わないぞ。精霊のスキル枠はすべて生産補助スキルで埋めてるから、レベル1のプレイヤーより弱い」
「そうなんだ。生産系のプレイヤーって皆そうなのかな?」
「さあ? 俺が特化しているだけかもしれないな」
ほかのプレイヤーに、精霊のスキル構成なんて聞いたことはないからな。
俺は好き好んで特化型にしてるけど。
「話を戻すが、とにかく精霊の使用は不可能だ。……しかし、依頼が立て込んでいるのでは、エイトの助力は厳しいな」
「済みませんが、そうなりますね。アイテムの提供くらいならできますけど」
「それはそれでお願いするかもしれない。……だが、まずは人数を集めないことにはどうにも、な」
確かに、それはそうだ。
しかし、ひとりだけ臨時募集して行くのもいろいろと揉めそうで嫌だとか。
特に、今回はギルド結成の最終クエストらしいので、報酬の話が厄介なのだそうな。
「ふむ。どこかに都合よく、ソロで活動しているプレイヤーはいないものかな……」
「フォレスト先輩、さすがにそんな簡単に見つからないと思いますよ。ねえ、エイト君?」
「うん? ああ、そうだな」
ソロプレイヤーか、心当たりがあると言えばあるのだが。
せっかくだしダメもとで連絡してみるかな?
そう思っていたとき、店舗部のほうから声が聞こえた。
「おーっす。ダンナ、いるかい?」
お、この声は。
「ダンか。すぐ行く」
都合よく、ダンのヤツがやってきたようだ。
ダンは、基本的に野良パーティを渡り歩くソロプレイヤーだ。
それなら、今回も手伝ってくれるだろう。
「む、客か。それでは私たちはこれで失礼しよう」
「そうですね。またね、エイト君」
「ああ、いや。ふたりも一緒に来てくれ」
「む? 構わないが」
状況を理解していないふたりを伴い、店舗のほうへと移動する。
そこには、やはりダンがひとりで待っていた。
「おっす、ダンナ。……と、ブレンの仲間だったっけ?」
「うむ、フォレストという。こっちはレイだ」
「えーっと、初めまして、でしたっけ?」
「どうだったかな……ブレンからの話で一方的に知っているだけの気もするし、会ったことがあるような気もするし、わからん」
「私もそんなところだな。ブレンが世話になっているようで助かる」
「おう、こっちも楽しませてもらってるし、お互い様だぜ」
ひとしきりレイやフォレスト先輩とダンが挨拶を終える。
そこを見計らって、俺がひとつ提案を挟む。
「ダン、ちょっと頼みたいことがあるんだが」
「お、ダンナから頼み事とは珍しい。素材の採取ですかい?」
「ああ、いや、そっちじゃない。フォレスト先輩たちが、ギルド結成の最終クエストへ挑むのにパーティメンバーがひとり足りないらしいんだ。その手伝いをしてもらえないか?」
俺の提案に、ダンが少し考え込む。
「ふむ、あのクエストか……」
「おや、ダン、知ってるのか?」
「ええ、まあ。野良で行ったこともあるんで。結構、しんどいクエストでしたよ」
まさか、経験者だとは思ってなかった。
そうなれば話は早いか。
「ダン、今度装備を作るから、手伝いを頼めるか?」
「その程度なら無償で手伝うが……そっちはそれで構わないのか?」
話を黙って聞いていたフォレスト先輩たちに、ダンが確認を取る。
「ああ、手伝ってもらえるなら助かる。それに、経験者ならなおのことだ」
「フォレスト先輩、初見は情報なしで楽しみたいんじゃなかったんですか?」
「レイ、それを言うな。それに、
「うわぁ……そうでした」
中間テストか。
まあ、普段からコツコツ勉強してるし、問題ないだろう。
「それで、クエスト内容を未予習なら、簡単に説明もするぜ?」
「ありがたい。ぜひ教えてくれ」
「わかった。まず、最後の試練のボスだが、光属性と闇属性のボス二匹だ。こいつらを同時に相手するボスバトルだな」
「……二匹同時ということは、パーティをふたつにわけての戦闘か?」
「いや? このクエストは二パーティで同時受注な訳だが?」
あ、そこまで知らなかったのか、フォレスト先輩の顔が引きつってる。
こんな表情の先輩は珍しいかもな。
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「呼ばれて参上、若丸君。いやー、戦闘系のギルド結成クエ、それも最終段階の参加は嬉しいねぇ。情報が全然集まらないんだよ」
さすがに、もう一パーティを組むだけの人数を集めるのは難しい、ということだったので、若様に相談してみた。
そうしたら、すごい勢いで食いついてきて、早速俺の工房にやってきたというわけだ。
「おう、若様、久しぶり」
「おっす、ダン。久しぶりー」
このふたりは知り合い同士なので、挨拶も簡単に済ませてしまう。
さて、ここからが本題だ。
「で、仮面の。そっちの子たちがパーティ足りないんだって?」
「そういうことだ。若様も面識はあったよな」
「そりゃあ、勿論。あの攻略動画をくれた相手だしねぇ。忘れる訳がないよ」
「それは助かる。ちなみに、一パーティ、出してくれることに問題はないか?」
「ないない。ヘファイストスの戦闘班は暇でねー。その分、生産班には全力で働いてもらっているけど」
生産班から素材の発注がない分、戦闘班は暇らしい。
こちらとしてはちょうどいいタイミングだったという訳か。
「たしかにな。それじゃ、後の話はそちらでまとめてもらっても構わないか?」
「オッケーだよん。それじゃあ、よろしくねフォレストさん」
「うむ、よろしくな、若丸」
「若様でいいよん。そっちの子もね」
……さて、あとはあちらで話をまとめてくれるだろう。
俺は一声かけてから作業場のほうに引っ込んだ。
依頼されている装備はまだまだあるからね。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「ふむ、光の粉と闇の粉、か」
「そうだ。装備がこのレベルじゃ、対策アイテムは必須になるな」
いろいろと情報共有をした結果、ゲーム同好会の装備では不安があるらしい。
攻撃力もそうだが、なにより防御力のほうが問題だとか。
「相手の属性は光と闇だからな。普通の属性持ち装備じゃ、無属性装備よりも被ダメージが大きいんだよ」
「……ああ、上位属性がどうこう、って話か」
「そうそう。それで、防御属性を上書きできる、光の粉と闇の粉は用意しておきたいわけだ」
なるほど、それは必要そうだ。
あれ、でも……。
「攻撃属性は大丈夫なのか?」
「そっちも上書きしたいが……ダンナ、光の魔鉱と闇の魔鉱ってすぐに用意できますかい?」
……ああ、それになるのか。
「うん、無理だ。俺の錬金術レベルじゃ、作製が厳しい」
「でしょうね。というわけで、粉だけできる限り作ってほしいんですよ」
「了解した。素材は……大丈夫だと思うから任せてくれ」
「それじゃあ、今日の夜までに生産お願いします。あとの準備はこっちで終わらせておくんで」
「頼んだぞ、ダン」
ダンと一緒に皆が出て行くのを見送り、俺は依頼されたアイテムの作製に入る。
どっちも結構スキルレベルギリギリだから油断はできないし、しっかり作ることにしよう。
そして夜には、ダンとゲーム同好会のメンバー、それからヘファイストスの戦闘班がやってきた
これからクエストに挑んでくるらしいので、作っておいたアイテムを渡す。
今回は見送る側だけど、頑張ってきてほしいね。
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