36.緑妖精装備

「それでね、最後はふたり行動不能にされて、でもボスは全体攻撃をしてくるの。あれは大変だったなぁ」


 午前中の作業を終えたあと、昼ご飯を食べて再度ゲームにログインしていた。

 三時近くまでスキルを鍛えるためのトレーニングをしていると、レイたちゲーム同好会の面々がやってきたのだ。

 どうやら、装備の修理を頼みたかったらしい。

 装備の修理はすぐできるので対応したが、全員かなりの破損具合だった。

 なお、装備の修理が終わって各自に返却したあとは、休憩室でのんびりお茶をしている。

 レイは始まりの試練の内容を身振り手振りを交えて説明してくれているのだ。

 よくわからないけど。


「……とりあえず、大変だったのはわかったよ。それで、なにが言いたいんだ?」

「うーん。できれば、この先はエイト君にも手伝ってほしいんだけど……ダメ?」


 手伝い……手伝いか。

 どうしようかな。


「エイトのことだ。足手まといになるとか思っているのだろうが、気にしないでくれて構わないぞ」


 悩んでいるところ話しかけてきたのはフォレスト先輩だ。

 

「私たちとて、攻略情報もなしに挑んでいるのだ。クエスト失敗が当然、何回もチャレンジして初めてクリアできるものだよ。実際、始まりの試練もクリアまでに四回全滅したからね」

「そう言ってもらえるのはありがたいですが……俺としては、アイテム等のサポートに徹したいですね」

「ふむ、それはそれで構わないさ。君のおかげで装備が強くなり、ボス戦もかなり楽になったからな」


 生産者として、作ったアイテムの効果を実感してもらえるのは素直に嬉しい。

 ただ、やっぱり戦闘コンテンツに顔を出すのは苦手なんだよな。


「……そういえば、緑妖精は手を出していないんですか? 桜竜と一緒に実装されたと聞いてますけど」

「ふむ、情報が早いな。緑妖精も何回か挑んでいるぞ」

「結果は辛勝って感じだけどねー。今度は風属性攻撃がメインだから、それに対応する装備を用意しないと」

「そうなんだよな。紅玉装備は強いけど、風耐性はないからつらいわ」


 先輩方の評価は結構大変、というところか。

 確かに、紅玉装備は火耐性であって風は耐性がないからな。

 ……まあ、そういうことなら話は早いんだけど。


「それで、緑妖精の素材ってないんですか? あれば装備を作れるか確認しますけど」

「その言葉を待っていたよ。素材はまだ入手していない。緑妖精の死体は結晶に変わったので、手分けして持ち帰ってきているからな」

「つまり解体してほしいと」

「君にとってもいいことだろう? 緑妖精の素材が戦わずに手に入るのだからな」


 うん、フォレスト先輩の言う通りなので否やはない。

 というか、すごくありがたい。


「オッケーですよ。それじゃあ、解体部屋に移動しましょうか」

「うむ。それで、今回の費用は?」

「素材をもらえるのでなしで構わないです。……ああ、今回も宝石は回収させてもらいますが」

「承知した。……それにしても、【解体】スキルはレベル7から先がつらいな」

「あ、レベル7までは行ったんですね」


 解体スキルをレベリングしてるのは知ってたけど、ずいぶん早かったな。

 レベル7までは上質なナイフさえあれば、割と簡単なんだけども。


「うむ。私とソードはレベル7まで到達したぞ。ほかの皆ももうすぐ7になりそうだ」

「……ブレン、そんなに鍛えたのか」

「おうよ。まあ、売ってもらったナイフで適当に剥ぎ取りしてたら、いつの間にか上がってた感じだけど」

「……私たちはなんと非効率的なことをやっていたんだろうな」

「職人と強い繋がりのない戦闘系プレイヤーなんてそんなものですって」


 実際、最前線組でも【解体】スキルのレベルは4とかって聞いたしな。

 いまは上級の解体ナイフを使っているので、スキルレベルが上がってきているらしいけど。


「それで、宝石を使った解体ナイフは売ってもらうことはできないかね? 宝石入手のトレーニング項目が厳しいのだが……」


 フォレスト先輩が言いにくそうに告げてきた。

 宝石入手は誰でもつまずくところだよなぁ。


「構いませんけど、高いですよ? それに、宝石ナイフで解体する場合、モンスターの適正属性も知らなくちゃですし」

「……なるほど、思っているより簡単ではない、と」

「ですね。いまはまだ宝石が高騰してますし、のんびり通常ナイフで宝石が出るのを祈っていたほうがいいですよ。……俺も、他人に提供できるほどストックを抱えてないですし」

「そうか。それならば仕方がないな」


 解体関連の話はこれくらいにして、解体部屋に移動する。

 そこで緑妖精の解体を始めるわけだが……想像通り、緑妖精はエメラルドのナイフでよかったようだ。

 元が風属性なわけだし、それ以外だと当たりを引くのが大変なんだけど。


「……ふむ、【解体】レベルが高いとサクサク上質素材が出るのもわかるが、宝石がこう、なんだ、こんなに簡単に出るのが悔しい」

「フォレスト先輩の気持ちもわかりますけどね……俺も、このレベルまで上げるためにかなりの投資をしてますから」

「むむ……何事も先行投資は必須か」


 フォレスト先輩に言った通り、【解体】のレベル上げにはかなりの金額と手間暇をかけた。

 素材を持ち込んでくれるヘファイストスのサポートメンバーがいなかったら、俺もこんなレベルにはなっていなかっただろう。


「さて、そろそろ緑妖精の解体も終わりますが、ほかに解体するモンスターっていますか?」

「いや、今日は持ってきていないな。……持ち込んだほうがいいのかな?」


 今日はこれ以上の持ち込みなしか。

 それは仕方がない。


「【解体】スキルも上限が上がったんですよね。それで、上位モンスターの持ち込みがあれば歓迎しますよ」

「エイト、上位ってどれくらいからだ?」

「ええと……レベル45以上ですね。持ってますか、ソード先輩?」

「いや、さすがに狩ってこなきゃないな。……スキルレベル上げになるなら今度持ち込むよ」

「お願いしますね。次のレベルになれば、できることが増えるかもですし」


 スキル【解体職人】のおかげで、一度の剥ぎ取りによる素材入手量は増えている。

 ただ、スキルトレーニングに必要な剥ぎ取り回数をこなすのは結構大変なわけで……。

 俺が自分で狩りに行くのは難しいから、持ち込みに頼るしかないんだよな。


「オッケー。今度から持ち込みできるサイズのモンスターは持ち込むようにするね!」

「助かるよ、レイ。【解体】スキルだけは持ち込みが頼りだから」

「どーんと任せてよ。それで、緑妖精の装備ってどんな感じ?」


 ああ、忘れていた。

 そっちを確認しないと。


「……うん、赤妖精の風属性版、って感じかな。見た目と属性は違うけど、基本的な性能は一緒だ」

「そうなんだね。それじゃあ、いつも通りレイピアとティアラをお願いできる?」

「了解。ただ、緑妖精はティアラじゃなくてイヤリングだな」

「わかったよ。ほかの皆は?」


 レイを皮切りに、それぞれ希望の装備を告げてくる。

 基本的に、赤妖精のときと同じなので問題はないかな。

 エミルに割り当てなくちゃいけない装備も一緒だから、そっちはあとで俺も頼みに行こう。


「……これで、注文は大丈夫ですね。素材も預かりましたし、あとは手間賃ですけど」

「うむ、そこは期待しているよ」

「まあ、身内価格ってことで勉強しますよ。スキルトレーニングにもなるし」


 そういうわけで、ゲーム同好会の皆から装備の生産を受注した。

 俺も自分の素材を使って、自分用の装備を作る。

 布装備を頼みに行ったときのエミルが、『エイトも戦闘装備を作るようになったんだ』、というセリフを言ってきたのはちょっと意外ではあった。

 確かに、戦闘に出ない俺が戦闘用装備を作るのもおかしいのかもだけど。

 せっかく素材があるのだから、コレクション代わりに作ってもいいよな。

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