34.紅玉の生産道具

 ヘファイストスを結成した翌朝、俺は朝ご飯を食べてゲームにログインする。

 ログイン先はいつも通り自分の工房。

 昨日はここまで帰ってこないで、ゲート付近でログアウトしてたからな。

 正直、歩いて戻ってくるのはめんどくさい。


「さて、ヘファイストスのメンバーは、と。……うん、大分増えているな」


 ギルドに参加できる最大人数を俺は知らないが、いい感じで人数が増えている。

 面識のあるプレイヤーからまったく知らないプレイヤーまで、メンバーリストにはさまざまな名前が載っていた。

 メンバーリストは権限があれば編集できるようで、それぞれのメインスキルごとに区分けされている。

 俺は勿論鍛冶に名前があった。


「こういう細かいことをするのは……若様だろうな。大旦那は各メンバーを誘うのが仕事かな?」


 いつまでもメンバーリストを眺めていても仕方がない。

 ……だが、いまは依頼も引き受けてないんだよな。


「仕方がない。ユニーク装備でも作って、スキルトレーニングをしているか」


 アップデートによって、【鍛冶】スキルも最大レベルが55まで引き上げられているため、トレーニングしてスキルレベルを上げなくちゃいけない。

 ほかにも、【生産の心得】や【装備職人の心得】も最大レベルが引き上げられているようだ。

 それらについてもできる限り早めにスキルレベルを上げたいところ。

 そうと決まれば、早速アイテム作りを開始……と思ってたところにフレンドチャットが届いた。

 相手は……道具職人のフラスコか。

 頼んでいたものができたかな?


『どうしたフラスコ? 頼んでいたものができたのか?』

『……うん、できたよ。……これから届けに行ってもいい?』


 想像以上に完成が早かったな。

 それなりの数を頼んでいたんだけど。


『わかった。俺の工房で待っているからよろしく頼む』

『……了解。すぐに行くね』


 それだけ告げると、フレンドチャットが切れた。

 ……俺もだけど、フラスコも人付き合いが苦手だからなぁ。

 フラスコの工房からここまで十分もかからないから、のんびり待つとしよう。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「お待たせ、エイト。頼まれていたもの、完成したよ」

「助かった、フラスコ。それで、品物は?」

「……これ」


 フラスコから渡されたのは、各種紅幻竜素材を使った生産道具だ。

 周回した結果、素材がかなりの量貯まっていたので、各種生産スキル用の道具一式を依頼したのである。

 勿論、赤妖精道具から強化する形でな。


「……これ、全部紅幻竜じゃなく、紅玉幻竜になった。今回の件、大旦那たちに報告しても?」

「ああ、構わないぞ。……やっぱり紅玉シリーズにするには、赤妖精からの強化が必須かな」

「……よくわからないけど、渡すよ。料金は一式で百万ね」

「かなり安いけど大丈夫か?」

「……素材持ち込み、かつ、身内価格と言うことで。スキルトレーニングもかなり捗ったし」


 安く売ってくれるには越したことがないので、百万Gを支払ってアイテムを受け取る。

 それぞれの道具効果として、『火属性のアイテム生産時に品質を向上』、と言うのが付いている。

 特定属性限定ではあるけど高品質アイテムを作りやすくなった。


「……そういえば、エイト。限定モンスターの再登場と新モンスターの追加って聞いてる?」

「いや、聞いてないな」


 アップデートリストにそんなの書いてあったのだろうか?

 興味のない内容だから読み飛ばしていたかも。


「……若様から聞いた話だけど。まず、桜竜スプリングシャワーが期間限定で帰ってきたって」

「スプリングシャワーか。三月中旬から三月末くらいまでいた奴だよな」

「……うん、そう。作れるアイテムは変わりないみたいだけど、見た目は派手だから欲しがる人がいるかも」


 見た目が桜色で鮮やかな上、桜が舞い散るようなエフェクトが付くからな。

 ユニークアイテム扱いじゃないからかなりの数を作ったけど、いやはや、まだ一カ月程度しか経ってないのに懐かしい。


「そんなこともあったな。それで、新モンスターって?」

「……緑妖精ウィンドスプライトと翠幻竜グリューンヴィンドっていうらしい。名前から察するに、赤妖精の風属性版」

「だなぁ。そうなると、今度は風属性の道具も作れるのかな?」

「……そうにらんでる。と言うわけで、素材が手に入ったらよろしく」

「ああ、了解だ。ありがとう、フラスコ」

「……それじゃ、また」


 手を振りながら帰っていったフラスコを見送り、今度こそ鍛冶作業を始めようとする。

 だが、そこに店の中へ飛び込んできた影があった。

 レイとソード先輩だ。


「あ、今日はいた! おはよう、エイト君!」

「おはよう、エイト。朝から騒々しくてスマン」


 相変わらず、レイは元気があふれているな。

 ソード先輩も大変そうだ。


「……おはよう、レイ、ソード先輩。今日はなんの用事?」

「えっとね、桜竜を倒してきたから、その装備を作ってほしくて」

「……昨日の夜、桜竜を皆で討伐してきてな。その素材で桜装備を作ってほしい、そういうわけだ」


 レイの勢い任せな発言をソード先輩が補足してくれる。

 それにしても、桜装備か。

 タイムリーな話である。


「まあ、構わないぞ。それで、作ってほしい装備は?」

「やったね。レイピアとティアラをお願い。バトルドレスとブーツはエミルさんに頼んであるから」


 手回しのいいことだ。

 エミルも嫌なら断るだろうし、問題ないと言えば問題ないが。


「それじゃあ、素材を頼む。作製費用は……五万ずつってところか」

「やっぱり安いんだね、桜竜。エミルさんも似たような金額だったよ」

「ユニーク装備じゃないからすぐ作れるし、装備としての難易度もそれなりだからな。スキルトレーニングにもなるし、ちょうどいい」


 桜竜装備はギリギリではあるけどスキルトレーニングになる。

 なので、多少安くても引き受けることに問題はないのだ。


「素材も大丈夫だな。装備を作るのに一時間くらいはかかるから……午後にでも取りに来てくれ」

「うん、わかった。……それから、エイト君に相談なんだけど、大丈夫?」


 相談?

 面倒ごとじゃなければいいけど、聞くだけ聞いてみようか。


「話だけなら聞くよ。急ぎの仕事は入ってないし」

「やった。でね、相談事なんだけど……」


 レイは少しためを作ってこう言った。


「ギルドを作りたいんだけど、その手伝いをしてほしいの!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る