27.作製、紅妖精装備
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本日2話公開の2話目
前話をお読みでない方はそちらからどうぞ
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「ふわぁ……まだ眠い……」
昨日は深夜遅くまでゲームをしていた結果、寝不足という状況である。
全員分の装備素材が揃うまでやる、ということを昨日のうちに決めたのが間違いだった。
昨日は二~三周だけに留めておいて、出なかった分はまた今度とすればよかったのだ。
……もっとも、今日は絢斗先輩と雨山先輩が不在なので、必然的に明日以降、となってしまうのだが。
「……いつまでも、うだうだしていても仕方がないか。そろそろ、ログインしよう」
時間はすでにお昼過ぎである。
お昼ご飯も食べて手持ち無沙汰……というか、のんびり一服していたところだ。
ただ、この後、装備の強化が待っているので、いつまでもこうしていられない。
ビシッと気合いを入れてログインしましょうかね。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「あ、おっそーい。ようやくログインしてきた!」
「……レイ、なにをしているんだ?」
「なにって、エイト君がログインしてくるのを待ってたんだよ。早く紅妖精の装備を作って!」
「いつから待ってたんだ?」
「早めにお昼を食べてからだから……一時間くらい?」
さすがに長く待ちすぎだろう。
というかだ。
「……携帯にメッセージを送ってくれていれば、もっと早くログインしたぞ?」
「そうなの? じゃあ、今度からそうするね」
「ああ、そうしてくれ」
工房の入口でそんなやりとりをしていると、さらに来客があった。
といっても、フォレスト先輩とブレンだったが。
「やあ、エイト。お昼を過ぎているから、こんにちは、かな?」
「おっす。装備の強化をしてもらいにきたぞ」
ふたりもレイと同じ目的できたようだ。
「ふたりとも、こんにちはです。でも、一番目にきたのは私ですから、先は譲りませんよ!」
レイが変な対抗心を燃やしているが……とりあえず、置いておこう。
「立ち話もなんですし工房へどうぞ。飲み物も出しますよ」
「うむ、それではお邪魔するよ」
「おじゃましまーす」
「邪魔するぜ」
工房へと三人を招き入れて装備の強化について話し合う。
まあ、順番を決めるだけだけど。
「……ふむ、それでは最初にレイのレイピア、次が私のコンパウンドボウ、その次がブルーの全身鎧という順番でいいか」
「大丈夫です。ふたつも作れば勝手はわかると思いますし」
パーティの要であるブルー先輩の装備を後に回すのは、紅妖精の装備を作るのが初めてだからである。
……実を言えば、レイのレイピアを作る前に赤妖精装備は作ったことがあったのでなにも気にせず引き受けたのだ。
「それでは、最初はレイピアだが……どれくらい時間がかかりそうかな?」
「ちょっと待ってください。工程を確認しますから」
素材については確認済みだけど、工程までは確認してなかった。
レイピアのレシピを開き、詳細な工程を確認すると……。
「げ。これは……」
「どうしたのかね?」
うめき声を漏らした俺に、怪訝そうな顔をしたフォレスト先輩が理由を尋ねてくる。
さて、理由なのだが。
「……レイピア、作るのに三時間くらいかかります」
「……嘘ではないのだな?」
「嘘なんてつきませんよ。ちなみに、コンパウンドボウも同じくらい時間がかかります。全身鎧は……六時間くらいですかね?」
「おいおい、さすがに時間がかかりすぎじゃないのか?」
「俺に文句をいわないでくれ、ブレン。文句はこの工程を設定した運営にどうぞ」
……とりあえず、俺からは運営に
「さて、三時間となると……いまから始めて午後五時ころか。それまでなにをしているか」
「狩りにでも行ってきてはどうです? 気長に待っていてもらうような時間でもないですし」
「それもそうだな。……ちなみに、レザーアーマーやバトルドレスも同じくらい時間がかかるのかな?」
「どうでしょう。先にエミルのところに行って依頼をしておきますか」
「うむ、そうしよう。案内を頼む」
布・革装備の作業時間を聞くためにエミルの工房へと移動する。
幸いエミルもログインしていたので、紅妖精の話を持ちかけたのだが……まず、紅妖精素材があることを驚かれた。
そして、素材を渡して作業時間を確認してもらい、膨大な作業時間に再度驚かれた。
俺たちが紅妖精素材を持ち込んだことは黙っていてもらい、赤妖精装備と紅妖精素材を預けて装備の強化を依頼する。
エミルも二つ返事で引き受けてくれたし、問題はないだろう。
「さて、それでは私たちはここで分かれさせてもらうよ。レイピアが完成するころ、工房を訪れさせてもらおう」
「じゃあ、がんばってな、エイト」
「エイト君、よろしくねー」
「ああ、精一杯やらせてもらうよ」
エミルの工房を出たところで三人と分かれ、俺はひとりで自分の工房へと戻る。
さて、楽しい楽しい装備作成の時間だ。
……さすがに三時間はしんどいけどね。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
宣言通り、レイピアが完成するころに戻ってきた三人を迎え入れ、最後の仕上げを行った。
その結果、できあがったのが『紅玉妖精のフレイムレイピア』だが……これってどうなんだろうな?
「エイトよ、これって本当に紅妖精素材で作ったのか?」
「間違いなく、紅妖精の素材だったぞ。手順もレシピ通り、『紅妖精のレイピア』を作っていたはずなんだが……」
「エイト、私たち以外で紅妖精装備を作っているプレイヤーに心当たりはないか?」
「うーむ、いないと思いますけど……ちょっと失礼しますね」
俺は三人に断りを入れ、知り合いふたりにメールを送る。
いつも通り、掲示板で話をするつもりだったのだが……ふたりとも工房に来るそうだ。
そして、数分で連絡をとった相手がやってきた。
「エイト、紅妖精の装備を作ったとあったが本当か!?」
「ちょ、大旦那、近い近い」
「……ああ、済まない。少し取り乱した」
「いやー、大旦那の気持ちもわかるよ? こっちにも『紅妖精の討伐者は誰なのか』って問い合わせがすごいもの。……まさか身内だと思わなかったけど。それも、生産廃人の仮面鍛冶士とか」
「悪かったな、若様」
連絡をとったのは、ヘファイストスの大旦那ことゴウワ=スオウと、若様こと若丸=一本道だ。
このふたりなら、ほかに紅妖精素材を持ち込んだプレイヤーがいればわかると思ったのだが、いなかったみたいだな。
「……おや、ゴウワではないか。久しぶりだな」
「うん? フォレストじゃないか。久しぶりだ。……それで、なんでここにいる?」
「私のパーティが紅妖精を討伐したからだよ。その様子だと、まだ次の討伐パーティは現れていないようだが」
「ああ、二組目が出たという話は聞いていない。それほどまでに苛烈なボスなのに、よくクリアできたな」
「パーティメンバーがよかったからな。あとは、用意していった装備や回復アイテムに恵まれた、といったところか」
フォレスト先輩とゴウワの間で話が進んでいるが、これは一体?
「……ふたりは知り合いだったのか?」
「ああ、知り合いだよ。βテストのころの、だけどね」
「そうだな。正式サービスが始まってから会ったのは……三カ月前くらいか?」
「それくらいだな。レベル50の弓を作ってもらった時以来だ」
「だな。俺としては、フォレストとエイトが知り合いなのが驚きだ」
「彼もパーティメンバーのひとりだよ。私たちだけでは解体ができないし、非常に助かった」
逆を言えば、解体以外だと微妙なラインだったけどね。
さすがに声に出して言うつもりはないけど。
「ふむ、それで俺たちに連絡を入れてまで聞きたかったことはなんだ?」
「ああ、そうだな。レイ、さっきのレイピアを見せてやってくれ」
「いいよー。これです」
「……『紅玉妖精のフレイムレイピア』? 紅妖精の装備じゃないのか?」
「そう思うよな。それ、『紅妖精のレイピア』のレシピで完成したんだよ」
「どういう意味?」
「それがさっぱり。運営にも確認したけど、正常な処理の結果だと言われて」
「あー、それで僕たちに話を振ったと」
「そういうこと」
大旦那と若様に納得してもらったところで本題だ。
「それで、ほかに紅妖精素材を持ち込んだプレイヤーがいないか聞きたかったんだけど……」
「そもそも論、君たちしかクリアしてないだろうねぇ」
「……のようですね」
うん、これで情報源はなしか。
さて、どうしよう。
「……ふむ、なにを検証するべきかな?」
三人で頭を抱えていたところに、フォレスト先輩が割り込んでくる。
「そうだな。まずは、紅玉妖精装備が紅妖精素材から本当に作れるのかを検証したい。できれば、エイト以外の装備職人がやってだな」
「そういうことならば、私のコンパウンドボウをゴウワが鍛えてみるかな?」
「……構わないのか?」
「構わないさ。ゴウワの腕前で素材が品質Aで揃っていれば、完成品の品質をS+にするのは造作もないだろう?」
「……承知した。エイト、お前の仕事を取ることになるが構わないか?」
「構いませんよ。俺もほかに大量の依頼がたまってますし」
「では、装備のことは決まりだな」
フォレスト先輩の弓はゴウワが強化することになった。
俺の作業もひとつ減ったし、いいことかな?
「ああ、そうそう。それから布装備や革装備は、エミルという裁縫士にお願いしてあるんだ。そちらはどうする?」
「エミルか。あいつも俺らの仲間だが……俺が聞いてもとぼけるだけだろうし、お前たちから結果を聞きたいな。気が向いた時で構わないから」
「了解だ、大旦那」
エミルの件は……まあ、適当でいいか。
このあと、皆の装備更新で非常に時間がかかるわけだし。
「……それで、若様、だったか。私の情報が間違っていなければ、君は若丸=一本道であっているかな?」
「はいはーい。若丸=一本道であってますよ。そんなに僕って有名かな?」
「ああ、有名だとも。そんな君にお願いがあるのだが」
「なにかなー? 僕は職人じゃないから装備は作れないよー?」
「紅妖精の攻略動画を用意してある。これを買い取ってもらえるかな?」
フォレスト先輩の提案に場が凍り付く。
大旦那と若様が視線でやりとりを交わし、若様が口を開いた。
「買い取るのはいいけど、まずは内容を見せてもらえるかなー? 支払う金額は内容次第ってことで」
「構わないだろう。それでは、私の自信作『準備ができれば誰でも倒せる紅妖精フランジャ』上映だ」
「その前に、立ったまま見るのもなんですし、一度座りましょう。大旦那たちも適当に座ってくれ」
「む、それもそうだな」
そのあとは、フォレスト先輩の攻略動画を確認することに。
動画内容としては事前準備や注意するべき攻撃など、本当に誰でも倒せそうな内容になっていた。
動画は二十分ほどで終わり、尺的にもちょうどいい感じだ。
ちなみに、パーティメンバーの顔はわからないように画像処理がかけられていた。
動画を見終えた大旦那と若様は頭を抱えている。
……この動画に値段をつけなくちゃいけないんだものな、それは悩むだろう。
「……どうします、大旦那?」
「どうするも……なあ。この動画の通りなら、俺たちでも何回か練習すれば勝てることになるぞ?」
「ですよねぇ……。ちなみに、フォレストさん。この動画、いくらくらいで買い取ってほしいの?」
買い取り金額の相談か。
確かに、希望金額を聞いてから交渉したほうが早いだろうな。
俺?
俺は交渉に関わらないよ。
どっちも身内みたいなものだし。
「ふむ。私的には、貸しひとつ、としたいところだな」
「貸し……ですか」
「貸しだ。私たちが困ったときに手助けしてもらう、それでどうだろう?」
「……どうしましょうか、大旦那?」
貸しひとつ。
言葉だけなら軽そうだが、実際にはどうとでもとれるが故に悩ましい。
これならば、相応の金額を要求されたほうが安いだろうね。
「……やれやれ。フォレストは相変わらずだな」
「私がそう簡単に変わるとでも?」
「それもそうだ。……貸しひとつ、受け入れよう」
「よし、商談成立だな。この後のことはエイト、君に任せよう」
「……了解です。さて、どうしましょうか?」
フォレスト先輩から場を任されたので、ふたりに今後のことを聞いてみる。
すると、今日は様子見ということにするらしい。
明日にはユニーク装備の生産も含め大々的に発表する予定なので、その時に攻略動画も公開するそうな。
その辺の舵取りはこのふたりに任せておけば大丈夫だろう。
ちなみに、俺もユニーク装備生産を手伝えないか聞かれたけど断った。
……さすがにしばらくの間は、ゲーム同好会の皆の装備で手一杯だからね。
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