26.解体、紅妖精フランジャ
カクヨムコンに参加するためカクヨム版のみ先行公開しています
本日は2話投稿します
7時・19時ごろ公開予定です
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「……これはまた、大量のメッセージが来たな」
「ですね。どうしましょう?」
「こう言うときは仕分けだよー。まずは私たち宛のシステムメッセージから消化していこー」
ブルー先輩の言うことがもっともなので、俺もメッセージの内容をひとつひとつ仕分ける。
まず最初のメッセージ、これは俺たちがすべてのプレイヤーの中で一番早く紅妖精フランジャを討伐した、と言うメッセージ。
ふたつ目は……戦闘用スキルスロットの開放らしい。
確認してみると、戦闘用スキルが十一個選べるようになっていた。
戦闘系プレイヤーなら泣いて喜ぶだろう。
おれは生産プレイヤーだからあまり関係ないけど。
三つ目、『紅妖精の勲章』という特別なアイテムをもらえたようだ。
効果は……火属性攻撃力アップか。
指輪スロットが使えなくなるみたいだから、実質指輪装備扱いで、ほかにも属性強化指輪はあるため、記念品扱いのアイテムだろう。
譲渡不可ってなってるし。
次、シータサーバで最初に紅妖精フランジャを倒したというメッセージ。
まあ、全サーバー最速なのだから当然である。
というか、アイテムの二重取りみたいになってるけど、大丈夫か?
次とその次はMVPとMIPプレイヤーの発表。
ブルー先輩がMVPなのはわかる。
俺がMIPなのはよくわからん。
とりあえずアイテムがもらえるらしいが、忙しいので後回し。
次が最後のシステムメッセージ、なんと好きな紅妖精のユニーク装備をひとつプレゼントしてくれるという、太っ腹な内容……ではあるが、皆の反応はうすい。
俺の反応もうすいけど。
「……エイト、聞きたいのだが、紅妖精の装備は作成可能かね?」
「どうなんでしょう。まだ、素材を入手していないからレシピがわからないのですが……まあ、作れるでしょうね。鍛冶マスターだし」
「やはり、そうか。……私たちが普通の紅妖精の装備をもらっても困るだけのような気がするのだが?」
そう、俺たちがイマイチ盛り上がれない理由、それが『自分たちで装備作ったほうが早いよね』という問題である。
俺は勿論、自分の装備を紅妖精にモデルチェンジする予定だし、ほかの皆もそうだろう。
つまり、この特典の意味はほとんどないわけで。
「フォレスト先輩。まだユニーク装備を作れるって決まったわけじゃないですし、ワンチャン賭けましょうよ」
レイがフォレスト先輩に話しかけているが……作れないことはないと思う。
「作れなかったら作れなかったで問題なのだがな。……さて、現実逃避はこれくらいにして、最後のワールドアナウンスの内容だが」
ワールドアナウンスの内容、それは誰かが紅妖精フランジャを倒したと言うことを知らせるものだ。
きっと今ごろ、多くのプレイヤーがフランジャ相手に戦っているはずだが……初勝利の栄光は俺たちが奪ってしまったわけだ。
「さて、どうしたものか。勝つつもりで挑んだはいいだが、まさか、最速攻略を達成するとは夢にも思ってみなかった」
「俺もそうだな。まさか、最前線組より早くクリアできるなんてな」
「ソード先輩も頑張っていたじゃないですかー。皆の勝利ですよー」
先輩方も対応に苦慮しているな。
……ブルー先輩はほんわかしていて、なにを考えているかわからないけど。
「ねえねえ、この『紅妖精の勲章』って装備しちゃダメかな?」
「ダメに決まっているだろう。こんなもの装備していたら、自分たちが紅妖精を最初に倒しました、って宣伝しているようなものだぞ?」
「あ、やっぱりダメかー。火属性攻撃力上昇はほしかったのに」
「火属性の攻撃力上昇がほしいだけなら、明日にでも指輪を作ってやるよ。ルビーはあまり気味だから」
「本当? ありがとー、エイト君!」
アイテムがもらえると聞いてはしゃぐレイ。
ブレンの様子を見ると……あいつも疲れた顔をしているな。
「さて、状況確認も終わった訳だし、そろそろ、あのドラゴンを解体しないかい? 何回解体できるかはわからないが」
「そうですね。解体しがいがありそうです」
目を背けていたが、紅妖精は非常に大きい。
これでは、インベントリに入れて持ち帰ることはできないだろう。
また、モンスターの死体の一部だけを切り落として持ち帰ることもできないので、これはこの場で解体するしかないだろうな。
俺は気合いを入れて、解体作業――つまりは剥ぎ取り――をするために獲物と向き合う。
そして、ドラゴンの顔面にルビーの解体ナイフを突き刺した。
「……んー、これは、解体にも時間がかかりそう」
俺の場合、【解体職人】スキルや【解体】スキルの効果によって、剥ぎ取り可能回数が増えている。
その結果として、何回剥ぎ取りができるか、完全に未知数となる訳だ。
一心不乱に解体ナイフを突き刺すこと十二回。
ようやく、解体作業が終了し、モンスターの死体が消え去った。
「おお、終わったか。……私たちのインベントリにも大量の素材が入っているな」
「『紅妖精のウロコ』に『紅妖精の骨』、『紅妖精の皮』、『紅妖精の羽』。大分、上々な戦果じゃないか」
「フォレスト先輩。それ以外にも『紅妖精の水晶眼』と『紅妖精の逆鱗』、『紅妖精の宝玉』って言うのがあるみたいですよ」
実際に素材に触れた結果として、装備レシピがわかってしまった。
その結果、これら三つの素材が中心になるようだった。
「……エイト、装備品の作成レシピがわかったのかね?」
「はい、わかりました。ただ、さっき言った三つの素材が複数ないと、全身の装備を更新できませんよ」
「……そうか。私、ひとつも出なかったな」
「ちなみに、フォレスト先輩の場合、装備更新に必要なコア素材は『紅妖精の水晶眼』がふたつ、『紅妖精の逆鱗』と『紅妖精の宝玉』がひとつずつです」
俺の言葉に、フォレスト先輩は少し安心したような表情を浮かべる。
「そうなのか。意外と少ないんだな」
「ええ、まあ。もっとも、これは、赤妖精装備を使ったレシピですが」
「赤妖精装備を使ったレシピ?」
また怪訝な顔をされてしまった。
でも、きちんと説明しなければならないな。
「紅妖精シリーズにはふたつの製作方法があって、ひとつ目は普通に紅妖精素材だけで作る方法。これは素材量がおおいですが……まあ、普通の作り方でしょう。もうひとつが、赤妖精シリーズの装備を素材のひとつとして組み込む方法。これはどちらかといえば、赤妖精装備の強化をするような感じになります。また、このときに使う赤妖精装備の品質はB-以上だそうです」
「なるほど、それで、おすすめはどちらなのかな?」
「赤妖精装備を素材にするほうですね。そっちのほうが完成品の性能が若干アップするらしいので」
「わかった。それでは、そちらの方法で装備を作る方針で行こう」
フォレスト先輩の装備更新は決まったようだ。
周りで話を聞いていた、ほかの皆も同じ考えに至ったらしく、強化は現在の赤妖精装備を土台とすることが決定した。
ただ、ここで問題になってくるのが……。
「圧倒的に素材が足りていませんね」
つまりはそういうことだ。
各自、ひとつくらいなら強化できるがそれだけの量しか持っていない。
となると……。
「周回だよね! こういうときは!」
レイの明るい声が響き渡る。
だが、実際そうするしかないわけで。
「ときに皆。時間は大丈夫かね」
フォレスト先輩の問いに、肯定の言葉を返す皆。
だが俺としては、そろそろ寝たいんだけど……。
「エイト、お前も明日はそんなに用事がないんだろ? だったら付き合えよ」
「うむ、エイトがいないと解体ができないので、連戦する意味がないな」
「そういうわけだ。一緒に頑張ろうぜ?」
「頑張ろー、エイト君」
「そうだよ、もう少しだけ頑張ろうよ!」
うぅ、全員から押されると断りづらい……。
「わかりました。でも、どこまでお役に立てるかはわかりませんよ」
「回復と分身の破壊、それから解体だけやってくれれば十分だ。よろしく頼んだよ」
「了解です。……そういえば、一度出ないで再戦ってできるんですか?」
「いや、できないな。皆、一度ゲートをくぐって外に出るぞ」
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シータサーバーのゲート前広場に戻ってきたが……なんというか、普段以上に閑散としていた。
近くにいた人に話を聞くと、皆、ベータサーバーに移動したらしい。
先程のワールドアナウンスを流したプレイヤーは、ベータサーバーのプレイヤーだと思われているようだ。
……やっぱり、勲章を隠しておいてよかったよ。
自分もこれから見に行くというその男性を見送り、俺たちは再びフランジャに挑む。
結局、全員の装備強化素材が集まったのは午前一時半ごろ、六周ほどしたときだった。
フォレスト先輩のアイテムだけなかなか集まらなかったんだよな。
やっぱりこれって物欲センサーだろうか?
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