25.決戦、紅妖精フランジャ

「さあ、諸君。遂に第二ラウンドだぞ!」

「おー」


 相変わらずテンションの高いフォレスト先輩は置いておいて、俺は俺で準備を進める。

 俺以外のメンバーがサイドポーチ――インベントリのショートカット設定アイテム――を持っていなかったため、貸し出すことになった。

 耐久力設定が別に存在し、破壊されるとショートカットとしての効果を失うが……まあ、そこは大丈夫だろう。


「全員、回復アイテムの準備は万全だな?」

「勿論大丈夫だよー」

「リカバーミスト発生器の使用順序も理解しているな?」

「ああ、バッチリです」


 リカバーミストは『陽炎』を使ってくる度に、俺、ブレン、レイ、ソード先輩、ブルー先輩、フォレスト先輩の順に使っていくことになっている。

 そのほかにも、ダメージ対策として、飴も併用することになっていた。

 ちなみに、このふたつのアイテムが同時に効果を発揮することは確認してきている。


「……さて、いままで調べた範囲については十分に対策を練ってきた。お前はどうでる、フランジャよ」


 こちらから攻撃をしかけないと動きださないフランジャに対し、フォレスト先輩が話しかけている。

 ……だが、その姿はなんというか……ある種のコメディに見えてしまう。


「……フォレスト、そのボスに向かって語りかけるのは、止めたほうがいいと思うぞ。エイトやブレンが笑いをこらえている」

「うむ、そうか? これも戦いを始める前の儀式だったのだが……」

「もっとほかのを考えろ。……そっちのふたりも準備は大丈夫か?」

「いつでもいけますよ」

「おれも準備万端っす!」

「それでは始めよう。攻撃開始!」


 いつもと同じようにブルー先輩から攻撃を始めて敵のターゲットを引き受けてもらう。

 ……そういえば、ブルー先輩って普段はゆるふわなイメージなのに、なんでタンクをやっているんだろう?

 疑問には感じるが、また今度、機会があって覚えてたら聞いてみることにしよう。

 それよりも、攻撃に集中集中。


 俺たちの集中攻撃により、三分ほどで一回目の『陽炎』を誘発できた。

 俺は、分身が攻撃出来るようになるまで待ち、攻撃できるようになったら、すぐにリカバーミスト発生器を稼働させる。

 敵のほぼ中心で発動させたので、上手く全員が効果範囲に入ることができた。

 その後、リカバーミストに守られながら、フランジャの全体攻撃が発動する。

 フランジャの攻撃によってダメージが蓄積していくが、リカバーミストの効果によりじわりじわりと回復する。

 そして、さらに治癒の飴玉を口に含むことで回復速度をさらに上昇。

 無事、六体の分身を破壊することに成功した。

 分身の破壊直後にも全体攻撃が来たが、それを受けても全員HPが半分くらい残っている。

 まだ、リカバーミスト発生器の効果時間は残っているので、タンクのブルー先輩以外はリカバーミストでHPを回復。

 ブルー先輩はポーションでHP回復だ。


「実際にやってみたが、想像以上に上手くいったな!」

「これなら『陽炎』の攻撃は耐えられるぜ!」

「うんうん、いい感じだね!」


 フォレスト先輩たちも今回の作戦成功ではしゃいでいる。

 でも、まだ勝ったわけじゃないんだよな。


「リカバーミストである程度回復したら前線に戻るぞ。ここから回復魔法を飛ばしているが、さすがにひとりで攻撃を受け続けるのは厳しいだろうからな」

「わっかりましたー。それじゃあ、行ってきます!」


 一番手としてレイが戦線復帰する。

 あれ、そんなにダメージが少なかったのか?


「あいつのバトルドレス、火属性耐性が俺たちより高いんだわ。だから、早めに戦線復帰できるって寸法だな」

「なるほど、わかりました。ポーションを使って飛び出していったわけじゃないのがわかって安心しましたよ」


 この先の戦いでポーションがどの程度必要になるのかわからない。

 いちおう、予備を持ち歩いているけど、それも足りなくなる可能性があるわけだ。


「……まあ、大丈夫だろ。さて、俺たちもそろそろ、っていうかミストの時間切れだな」

「そのようですね。それじゃあ、残りはポーションで回復と言うことで」

「ああ、それじゃあ、戦闘再開だぜ」


 リカバーミスト発生器は効果時間が終了したら、自動でインベントリに戻ってくるらしい。

 いままで効果的なタイミングがなかったとは言え、なんで日の目を見なかったのか不思議にすら思えてしまう。

 ……まあ、発動コストがTP六千なのは痛いけど。


 そんな風に戦闘を続けて、前回突破出来なかった60%の壁も突破。

 遂に残り半分を切ることに成功した。

 ある種の達成感に包まれたのもつかの間、フランジャがいままでとは異なる動きを見せる。

 フランジャは大きく飛び上がり、周囲にあるマグマの壁に突っ込んだのだ。

 そしてそのまま、マグマの中を泳ぎ、獲物を見定めるようにこちらを見渡す。

 フランジャが狙っているのは……。


「うーん、私のようですねー」


 ある意味当たり前ではあるが、タンクのブルー先輩だった。


 周囲を泳ぎ回っていたフランジャが動きを止めると、赤い光の帯が出現する。

 ブルー先輩を中心に奥の方へと押し流すような、ラインだな。


「む、このラインは。エイト、このラインの範囲から出ろ!」


 やはり、この中に留まっているとまずいラインらしい。

 すぐさま、ラインの範囲から出る、すると、そこに。


 ガキィィィン!!


 ものすごい金属音が生じたと思ったら、ブルー先輩が吹き飛ばされていた。

 ギリギリでマグマ床には落ちなかったようだけど、かなり危なかった。

 ダメージも受けているし、微力ながら回復魔法で手助けをしよう。


「む、エイト、二発目がくるぞ!」


 またブルー先輩を狙ったラインが発生した。

 今度は元から範囲外だったので、ブルー先輩の治療を継続することに。

 そして、また激しい金属音が響いて、ブルー先輩が弾き飛ばされる。

 今回もマグマ床までは落ちなかった。

 ただ、俺の回復魔法では届かない位置に行ってしまったので、回復してあげることができない。


 ……そういえば、ポーションって、飲ませなくても回復するんだっけ。


 ふとそんな話を思い出し、サイドポーチから取り出したポーションをブルー先輩に投げる。

 フランジャから目を離さないように、反対方向を向いていたブルー先輩にポーションは直撃して、その鎧に回復薬が飛び散った。


「きゃ!? エイト君、なにするのー」

「回復ですよ。HP回復しているでしょう?」

「あれ、本当だー。回復薬って体にかけても効くんだねー」

「回復量は落ちるみたいですけどね」


 そして、いまの行動で【ポーションスロー】というスキルも覚えた。

 戦闘が終わったら確認してみよう。


 三度マグマの中に姿を隠していたフランジャだが、今度は再びフィールドの上に現れた。

 ただし、背中には先程までは持っていなかった、二本の剣を携えてだが。


「うーん、なんとも嫌な感じの剣だな」

「そんなこと言ってられないよ! さあ、攻撃できるようになったみたいだし、攻撃攻撃!」


 飛び出していくレイを追いかけ、俺も攻撃に参加する。

 戦っていく中で背中の武器の効果もわかってきた。

 向かって左手側の大きな剣は、ヘイトリストトップに対して大ダメージを与える武器らしい。

 逆に、向かって右手側の小さな剣は、周囲にいるプレイヤーのうちひとりをランダムに狙って攻撃してくるようだ。

 小さい剣の攻撃は、回避もできるが叩きつけられた場所から扇状に広がる火柱を上げるので、仲間を巻き込まないように気を付けなければならなかったけど。


「……なかなか、思ったよりも激しい攻撃だね。ブルーを死なせないように回復するだけで手一杯になってきたよ」


 フォレスト先輩にも疲労の色が窺える。

 さて、どうしたものかな。


「フランジャが中央に移動したよー。『陽炎』みたい」

「わかった、すぐに対処する」


 本日三回目の『陽炎』は、残りHPが40%で使用してきた。

 どうやら『陽炎』は、HP20%ごとに使ってくるらしい。

 三回目ともなれば手慣れた手つきでリカバーミスト発生器を設置して、回復を行いながら分身を破壊してしまう。

 そして、三回目の『陽炎』も不発に終わった後、フランジャが再びマグマの中に潜り、ブルー先輩に突進攻撃をしかけてくる。

 だが、このパターンはさっき見ているので、全員難なく対処できてしまう。


 そのまま、順調にダメージを積み重ねて行き、四回目の『陽炎』は発動。

 四回目も無事乗り切り、マグマからの突進も耐えきった後に、事件は起こった。

 レイを追尾して赤い線を放つ三角錐と、俺を狙って扇状の赤い光を放つ剣が現れたのだ。


 俺とレイが逃げ回ってもついてくるし、対処のしようがない。

 俺もレイも諦めてこの攻撃を食らってみることにしたのだが、レイの攻撃が届く範囲にはソード先輩も立っていた。

 そして、攻撃が実行され、俺は一万以上の即死ダメージを食らって死亡、レイとソード先輩も大ダメージを受けたようだが、ギリギリ生き残ったみたいだ。


 そして、その直後に五回目の『陽炎』が発動。

 俺が死亡状態で動けないために、分身を破壊しきることができずに全滅となった。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「いや、本当にすみません」


 最後、俺が脱落しなければボスクリアまでいけたと思ったのに……。

 だが、ほかの皆は俺を責めることなく受け入れてくれた。

 フォレスト先輩などは、むしろ攻略の目処が立った、と言いきるほどだ。

 十分ほどの休憩を挟み、フォレスト先輩から最後の作戦を告げられたのだった。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 休憩も終わり、フランジャ戦も序盤から中盤は危なげなく乗り越えることができた。

 やっぱり、フランジャが巨大な剣を出してくるフェーズでは、ブルー先輩の体力がギリギリになってしまうが、死なせないのでなんとかなっている。

 その後もダメージを積み重ね、四回目の『陽炎』も妨害に成功。

 さて、ここからが勝負だ。


 再び出てきた剣と三角錐。

 今回の狙いは、剣がソード先輩、三角錐がブレンのようだ。

 前回は逃げ回るだけだったが、今回は違う。

 明確な意思を持って、それぞれの攻撃範囲に三人ずつ入るように並んだ。

 そして、攻撃が実行されるが……致命傷を負ったプレイヤーは誰ひとりとしていない。

 それでも大ダメージだったので、すぐさまポーションを使って回復し、次の『陽炎』に備えたが。


「それにしても、まさか、頭割りダメージだったとは」

「すでに最上位のボスバトルでは実装されているのだよ。まさか、レベル40のボスバトルで要求されるとは思ってなかったが」


 リカバーミスト発生器と治癒の飴玉で、回復量に余裕がある俺とフォレスト先輩がそんなことを話す。


「本来ならば、頭割りはもっとわかりやすいエフェクトが出るのだが……それを言っても意味はないだろう」

「そうですね。フランジャはわかりにくいと言うことで」

「そういうことだ。……さあ、『陽炎』ももうすぐ終わる。ラストスパートだぞ」

「はい!」


 五回目の『陽炎』をクリアした後はそこまで嫌らしい攻撃はなかった。

 あった妨害と言えば、弓のようなもので狙い撃ちされたり全体攻撃されたりすることだが……そっちは回復魔法で一気に回復してしまった。


 そして、フランジャのHPがのこり1%を切ったときそれは起こった。


「大爆発だと!?」

「嫌な名前のスキルですが……フォレスト先輩はご存じで?」

「説明は後だ! 全員、最大火力でフランジャに止めを刺すぞ!」


 レイとブレンは俺と同じように理解が追いついていないようだが、ブルー先輩とソード先輩の慌てた様子を見て、全スキルを開放しダメージを積み重ねて行く。

 全員TP不足になったらTPポーションで回復しながらの総力戦だ。

 本当なら、こう言うときに最大火力が出るようなスキル回しがあるんだろうけど……俺にはそんなことできないので、ダメージが高いスキルを片っ端から使っていく。

 そして、なんとか大爆発の発動前にフランジャを倒しきることができた。


〈おめでとうございます。あなた方は全サーバーでもっとも早く紅妖精フランジャを討伐したパーティです〉

〈初討伐報酬として、戦闘用スキルスロットの先行開放をいたします。スキルスロットの開放はGWゴールデンウィーク前のメンテナンスにて正式実装されます〉

〈この特典は複数受け取ることができません。予めご了承ください〉

〈全サーバー最速討伐の証として『紅妖精の勲章』を贈ります〉


〈あなた方はこのサーバーでもっとも早く紅妖精フランジャを討伐したパーティです〉

〈パーティ内MVPはブルー=スカイです。ブルー=スカイには別途褒賞品がプレゼントされます〉

〈パーティ内MIPはエイト=ダタラです。エイト=ダタラには別途褒賞品がプレゼントされます〉

〈サーバー内最速討伐の報酬として、紅妖精フランジャのユニーク装備のいずれかひとつをプレゼントいたします。七日後までに選択してください。七日を過ぎると無効になります〉


《全プレイヤーの皆様にお知らせいたします。『紅妖精フランジャ』を討伐したパーティが現れました。これにより、紅妖精フランジャ戦における戦闘環境がプレイヤー優位な環境に変わります。それでは、今後も《Braves Beat》をお楽しみください》


////

~あとがきのあとがき~



〈〉で囲ったメッセージはシステムメッセージ、各プレイヤー個人向けのメッセージです。

《》で囲ったメッセージはワールドアナウンス、サーバーにいるプレイヤー全体に対して発信されたメッセージです。

なお、今回のワールドアナウンスは稼働中のすべてのサーバーに流れています。


装備とアイテムの力は偉大。

(なお、主人公君。DPSは最下位(タンクのブルーにも負けてる)です

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