7.ゲーム同好会_2

本日3話公開の3話目

前話をお読みでない方はそちらからどうぞ


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 話の流れについて行けないでいると、水鏡先輩……絢斗先輩から説明があった。


「悪いな。妹はなんというか、押しが強かったり距離感が近かったりってところあって……」

「お兄ちゃんひどい! 私だって適切な距離感って言うのは知ってるよ!」

「いや、女子高生が今日初めてあった男に名前呼びさせるってどうよ?」

「琉斗君とは初めてじゃないよ! 昨日もあったもん!」

「いや、それってゲームの中でだろ……」


 なにやら兄妹喧嘩が始まった。

 さっきからめまぐるしく状況が変化して、正直ついて行けない。


「……やれやれ、あの兄妹は本当に賑やかだね」


 水鏡兄妹の様子を眺めながら、三海先輩がそんなことを言う。


「とりあえず、あちらは置いておいて、私たちはこちらで話そうか。その様子だと、葉月ちゃんにはなにも説明されていないようだ」

「そうっすね。いきなりゲーム同好会に行こうって誘われて連れてこられたっす」

「葉月ちゃんらしい。私たちの活動内容も説明したいし、こちらへどうぞ」

「失礼します」

「ありがとうございます」


 水鏡兄妹は蚊帳の外にして、俺と和也、それから三海先輩に雨山先輩の四人で話をすることに。

 自己紹介は済ませているので、この同好会の活動内容について説明を受けることとなった。


「私たちの同好会だが、まあ名前が示すとおりゲームに関する活動をしている同好会、というわけだ」

「そうだね。私たちはオンラインゲームがメインだけど、ほかにもオフラインゲームやカードゲーム、ボードゲーム、TRPGなんかをやってる人もいるよ」

「在籍者は三十名弱。もっとも、全員が集まる機会なんてないがね」

「皆、自分たちのゲームのことが忙しいからねー。私たちも人のことは言えないけど」

「そういうわけだ。なにか質問はあるかね?」


 三海先輩と雨山先輩からそう説明を受けた。

 質問……質問ねぇ。

 俺は特に聞きたいことがないんだけど。


「あー、じゃあ質問いいですか?」

「どうぞ、笹木君。なにかな?」

「なんで俺たちが連れてこられたんですか?」


 その質問に対し、三海先輩は少し考えたあと、こう告げてきた。


「君たち、というよりは木場君を連れてきたかったんじゃないかな? 私たちはこれから《Braves Beat》の話をするつもりだったのだからね」

「三海先輩たちも《Braves Beat》を?」

「ああ、やっているよ。残っていた三人は全員《Braves Beat》をやっている仲間だ」

「それで、今後はどういう風に活動していこうか、ってことを決める予定だったの。そこにふたりが連れてこられたわけね」


 なるほど、だいたいの事情はわかった。

 となると、問題は……。


「俺たちを連れてきてなにがしたかったんでしょうね?」


 ということになる。


「さあ? 葉月ちゃんは勢いで行動することがあるからね。今回もそうじゃないのかな?」

「……勢いですか」

「うん、勢いだ。ただ、勢いというのも大事だぞ?」


 そこは理解できなくもない。

 ただ、巻き込まれるのはちょっとなぁ。


「連れてこられてしまったのは仕方がない。……それで、ふたりは部活動については考えているのかな?」

「部活動ですか。俺は所属するつもりはなかったのですが」

「俺もそっすね。部活動よりもゲームに時間を割きたかったので」

「ふむ。それなら、ゲーム同好会に入らないかな? 活動は自由、束縛も……文化祭のとき以外はなし。学校から会費は出ないが、放課後に集まれる場所はあり。悪い話ではないと思うぞ」

「うんうん。半分以上が名前だけ所属している幽霊会員だから、所属したからといって集まらなくちゃってことはないよ」

「そういうわけだ。もしよければ、考えてくれ」


 ゲーム同好会か。

 どうしようかな。


「今すぐに決めろと言うわけでもないさ。今日はいきなり連れてこられたんだから仕方がない。もし、なにか話したいことがあるなら聞くぞ?」


 話したいことか……。

 ちょっと聞いてみようかな。


「水鏡さん……葉月さんに、俺、というかエイトのことを教えたのって誰でしょう?」

「ああ、それなら私だ。葉月ちゃんが赤妖精装備を欲しがっていたからな。ユニークアイテムが生産できるという噂は聞いたことがあったし、名の知れた鍛冶職人の君……エイト=ダタラだったらなんとかできるのではないか、と思ってね」


 三海先輩が教えていたのか。

 ……そこについては特に触れなくてもいいか。


「それじゃあ、三海先輩たちってエイトの客だったりしますか?」


 会った記憶はないけれど、ゲーム内だからもしかしたら会っているのかもしれない。

 そこについて確認してみると。


「私は昔、何回か頼んでいるな。空はどうだい?」

「私はないかな。頼めるのだったら作ってほしい装備はあるけど」


 三海先輩は会ったことがあり、雨山先輩はなしか。

 ……うーん、三海先輩のアバターは一体誰だろう。


「……さて、長々引き留めてしまったが、用事とかはなかったのかな?」


 時計を見てみると、ホームルームが終わってから一時間以上が経過していた。


「結構時間が経ってますね。俺たち、昼飯を食いに行く予定だったんですけど、失礼してもいいっすか?」

「ああ、構わない。それでは、また。同好会の入会、検討しておいてくれよ」

「それじゃあね。……あ、木場君。今度、《Braves Beat》で装備依頼に行ってもいい?」

「……構いませんよ。あまり遅い時間でなければ工房にいますから。場所は三海先輩が知っているみたいですし」

「そうだね。……私も赤妖精シリーズがほしいし、近いうちに行かせてもらおう」

「わかりました。その時はよろしく」

「ああ。ではな」


 俺と和也はゲーム同好会を後にして、昼食を食べにファミレスへと向かうのだった。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「それで、同好会の件、どうするよ?」


 ファミレスで食事を終えた後、ドリンクバーの飲み物を飲みながら和也が聞いてくる。


「うーん、どうしようかね。面倒だし、入らなくてもいいかなって」

「そうか? 俺は入っておいたほうがいいと思うぞ。特にお前は」


 和也的には入ったほうがいいという判断らしい。


「お前、人見知りが激しいしな。少しでも友人……まあ、先輩方だけど、知り合いは増やしたほうがいいぞ、なにかと」

「うっさいわ」


 人見知りなのは自覚してるが、はっきり指摘されると言い返したくもなる。


「それを抜きにしてもだ。……たぶん、水鏡さん……葉月さんは諦めずに誘ってくる気がするぞ」

「……それな」


 なんだか、そんな気はしている。

 今日の感想だと、知っている相手にはグイグイくるタイプっぽいからなぁ。


「……そういう意味でも所属だけしておいたほうが無難じゃね? 名前だけでも問題ないらしいし」

「はぁ。前向きに考えておくか。《Braves Beat》でも顔をあわせそうだし」

「ため息をついてる時点で前向きじゃねーけどな」


 うっさい。

 ゲーム同好会の話はこれでいいだろう。

 さて、次は本題だな。


「それで、和也は《Braves Beat》をいつから始められそうなんだ?」

「実はもうキャラクター作成まで終わってる。だから、帰ったらすぐにでも始められるぜ」


 手回しがいいことで。

 それなら話も早いけど。


「わかった。それで、装備は前衛向けの重装備タイプに両手剣でよかったよな?」

「おう、あってるぞ」

「それなら、もう作ってある。向こうであったら渡す」

「助かるよ。これで俺も、半年の遅れを取り戻すぞ!」


 相変わらずのゲームバカ発言だな。

 和也らしくていいけど。


「……システム的にすぐに追いつくのはしんどいけど。まあ、最前線はアップデート待ちらしいから大丈夫か」

「え、最前線ってもうそこまで行ってるの?」

「ああ、そんな感じだ。最前線プレイヤーは、ボスモンスターを周回してレア装備を集めたりしてるって話だぞ」

「そうなのか。……半年でその状況って大丈夫なのか?」

「さあ、わからん。GWゴールデンウィーク前には大型アップデートがくるって話だし大丈夫だろ?」

「よし。とりあえず、GWまでにそこまで追いつくぜ!」

「はいはい、がんばってな」


 そして少し雑談をしたあと、和也と別れて家に帰った。

 和也とはゲーム内で落ち合うことにして、俺は依頼を受けている装備を作らないといけないからな。

 さて、これからは鍛冶職人エイトの時間だ。


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明日からは毎日1話毎朝7時投稿になります。

今度こそ本当です。

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