第78話 プロテクション
「ギュルォオオ!!」
石で出来た尻尾がしなり、鞭のようにして女騎士アンネの頭上に迫り来る。その身体の大きさ故攻撃の範囲が広く、そして以上なスピードで繰り出されたその一撃はどうやら回避が間に合いそうに無い。
(どうする? 一か八か尻尾を切断してみるか・・・)
先ほどのストーンゴーレムも強敵だった。その上位の存在だとしたら尻尾を切断するのは難しいかもしれない。
そう考えながらも剣を構えたその瞬間、背後からカテリーナの声が聞こえた。
「”プロテクション”」
プロテクションの奇跡がアンネの目の前に展開される。
ストーンドラゴンの尻尾はその透明な防壁に衝突して止まった。
「ありがとうカテリーナ!」
アンネはサポートをしてくれたカテリーナに礼を言うと、剣を構えて攻撃後の隙だらけなストーンドラゴンに向けてかけだした。
(まずはその足を切り落として機動力を削ぐ!)
この場所は十分広く作られているとはいえ屋内である。故にいかにドラゴンを模して作られたゴーレムとはいえ、飛ぶことが出来ないとみたのだ。
素早く踏み込んだアンネは構えた剣を横薙ぎに振り払い・・・ストーンドラゴンの足に刃が触れる直前に、何も無い空間にその刃が阻まれた。
「・・・これは!?」
見覚えのある現象。
そう、それは先ほどカテリーナが行使したプロテクションの奇跡・・・。
ストーンドラゴンがその巨大な前足で立ち尽くしたアンネを殴りつける。アンネは咄嗟に剣で防御の姿勢を取るが、数トンもの体重が乗せられたドラゴンの一撃である。もの凄い勢いで吹き飛ばされたアンネは壁に激突してモウモウと土煙があがる。
追撃に出ようとしたストーンドラゴンの気を引くように、タケルが剣を取ってその背後から斬りかかる。
しかしやはりと言うべきか、先ほどのアンネの一撃と同じようにドラゴンの身体の手前で剣は阻まれてしまう。
「・・・っと、やっかいな。常にプロテクションの奇跡を展開しているのかい?」
困ったような声を出してタケルはひょいとバックステップで距離を取った。先ほどまでタケルがいた空間を、ストーンドラゴンの尻尾が通り過ぎる。
タケルがストーンドラゴンの気を引いている間に、カテリーナは壁に叩きつけられたアンネの元に駆け寄って治療を開始する。
「ぐっ・・・カテリーナ、奇跡に精通しているお前にこそ聞きたいんだが・・・プロテクションはどうやれば攻略できる? 何か弱点は無いのか?」
アンネの言葉に、カテリーナは眉をひそめて考えた。
「・・・プロテクションは上位の奇跡です・・・これを物理的な攻撃で破る事は不可能に近いでしょう。・・・・・・弱点と言えるかはわかりませんが、プロテクションの奇跡を行使する為にはかなりのエネルギーが必要な筈です。大司教様とて長時間プロテクションを維持する事はできません。それほど消耗の激しい奇跡なので、あの石のドラゴンもいつまでもプロテクションを張り続ける事はできない筈ですが・・・」
しかしカテリーナの言葉は、自信なさげに尻すぼみに小さくなっていく。
そもそも教会にのみ伝わる神聖なる奇跡を、魔術の産物であるゴーレムが行使できる事が異常なのだ。そんな異常な相手を常識で計ったところでどうなるというのだろう。
「・・・ふう。治療ありがとうカテリーナ。つまりはプロテクションが切れるまで攻撃し続けるしか無いって事か・・・・・・ゴーレム相手に持久戦とは笑ってしまうほど分が悪いな」
そう言って立ち上がったアンネの顔は、腹をくくった戦士のソレだった。
長い長い死闘。
その末にアンネの鋭い剣撃がやっとストーンドラゴンの胴体を捕らえる。
致命傷にはなり得ない浅い傷をつけただけだったが、それでもアンネの一撃がプロテクションの防護を突破したのだ。
「タケル! 奴のプロテクションが剥がれかかっているぞ!」
「ほいさ! やっとオイラたちの番だぜい!」
アンネの言葉に嬉しそうな声を上げたタケルは、左手を上方に掲げる。
「”破魔の法其の一 竜滅の矢”」
タケルの身体を囲むように展開された紫色に発光する矢が十本。振り下ろされた左手を合図に一斉にストーンドラゴンへと襲いかかる。
矢はプロテクションに阻まれる事も無くドラゴンの石の身体に突きささり、ストーンドラゴンはその巨体をふらりとよろめかせた。
「トドメだ!」
ドラゴンの頭上まで跳躍したアンネが剣を高々と振り上げる。
狙うは首。一刀両断して確実に仕留めて見せる。
振り上げられた刃が下ろされようとしたまさにその瞬間、よろめいていたドラゴンの顔がアンネの方を向き、その巨大なアギトをカパリと開いた。
そこからバチバチと音を立ててスパークが巻き起こり、次の瞬間にはアンネにめがけて一直線に電撃が放たれる。
「ッギャァア!!」
空中で避ける事もできずにその攻撃をまともに受けたアンネは苦悶の声を上げて地に落ちる。
黒焦げたその身体からはプスプスと煙が出ていた。
「アンネさん!?」
すぐに治療をせんと駆け寄るカテリーナ。
タケルは悠然と佇むドラゴンを見上げて呆然と呟いた。
「・・・馬鹿な、今のはサンダーボルトの魔法だ」
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