第46話 助っ人
「アヴァール王国に助っ人を頼むことはできないかな? この間魔王カプリコーンを倒したし多少の融通はしてくれそうだけど」
勇者一同は、エーヌ王国に巣くった魔物を討伐するに当たって作戦を練っていた。ショウが提案したのは、かつて供に戦ったフリードリヒ将軍のいるアヴァール王国へ助っ人を頼むということ。
今回も敵が魔王である可能性が高い以上、できる限りの準備はしておきたい。
「難しいのではないでしょうか。アヴァール王国は魔王カプリコーンとの戦で国力が低下しています。そんな中、別の魔王を倒すために兵を貸してくれと頼むのは酷というものですよ」
ショウの提案をアンネはアヴァール王国の現状を考えて否定した。
「そ、それなら他の冒険者さんに依頼をするのはどうでしょうか?」
シャルロッテが恐る恐ると言った風に提案をするが、今度はカテリーナが首を横に振った。
「それも厳しいでしょうね。魔王討伐に参加できる実力者ともなれば最低でもAランクの冒険者になります。・・・Aランク以上の冒険者は数が少なく、それ故に報酬がとても高いのです。さらに言うと彼らが魔王討伐の依頼を受ける事はほぼ無いと言ってもいいでしょうね」
「それは何故?」
「リスクとリターンが釣り合わないのです。本来魔王とは人間の力では対抗できない存在。それに立ち向かうという事は命を捨てるようなものです。・・・冒険者は慈善事業ではありません。ほぼ確実に死ぬような依頼を受ける人はいないでしょう」
魔王に立ち向かうなんて無謀な事をする冒険者なんていない。だからこそ自ら死地に飛び込み、世界を救わんと奮闘するショウ達は ”勇者”なのだ。
「・・・お困りみたいだねエ。その依頼、オイラが受けようかイ?」
ひょろりとしたやせ気味の体躯。
腰まで伸ばした見事な黒髪は後ろでしばってまとめており、開いているか閉じているのか一瞬判別に困るほど細い眼がぎらりと怪しく光っている。
「・・・・・・君は?」
見るからに怪しい男だ。しかもこの距離に接近されるまでパーティの誰もこの男の存在に気がつかなかった。
ショウは最大限の警戒を持って男に尋ねる。
「ふふっ、怖い顔だね。別にとって喰いやしないから心配しなさんな。オイラの名前はタケル。一応Sランクの冒険者をやっている。さっきアンタたちの会話がたまたま耳に入ってね。助っ人を探しているんだろ?」
飄々とした態度の男・・・タケルに対し、ショウは軽い驚きを覚えていた。
タケルという名前・・・もしかしてこの男はショウと同じ日本から来たのでは無いだろうか? そう思ったのだ。
しかしそれを聞くのは今では無いだろう。周囲の目もある。ショウは喉まで出かかった言葉をグッと飲み込んでとりあえず必要な確認をとる。
「・・・相手は魔王だよ? 君は魔王相手に戦えるのかい?」
その言葉にタケルは笑みを深めた。
「強いよ、オイラ」
短い言葉だが言いしれぬ迫力がある。その言葉が単なるハッタリでは無いぞと、タケルが纏うオーラはショウ達を圧倒した。
「うーん、どうやら城門の外に見張りはいないみたいだねえ。中がどうなっているのかはここからじゃ分からないけど」
遠眼鏡で高台からエーヌ王国の様子を見ていたタケルが他のメンバーに状況を伝える。
彼が身に付けているのはゆったりとした白の衣装。所々に紫色のラインが入ったその衣装はどこかショウの故郷である日本における神主の着る狩衣を思わせた。その腰には一本の短い剣が差されている。
「今回も少数での突撃だ。作戦も糞も無い、短い時間で敵に体勢を整える間も与えず突き進む。これしか無いだろう」
アンネの言葉に、タケルが覗いていた遠眼鏡から視線を外して反論をする。
「ソイツも悪くは無いがね、ちょいと力技すぎる。オイラはもっと楽な作戦を推奨するぜ」
「むっ、何か作戦があるのかタケル?」
アンネが若干不機嫌になりながら問いかけると、タケルはヘラヘラと笑いながら答えた。
「まあいくつか攻城戦に置ける心得はあるんだけど・・・とにもかくにも相手を知らなきゃ話にならないからね。まずはオイラが潜入調査をしてくるよ。相手の特性を知れば作戦も良いものが立てられるってもんさ」
そう言って城に向かおうとしたタケルの側にショウが並び立つ。
「俺も行くよタケル。・・・俺はまだ君を信用していないからね悪いけど同行させてもらう」
「おやおや、何でか嫌われてるみたいだねオイラ。まあ、勇者君だったら足手まといにはならない・・・か。いいよ、好きなだけ見るといい」
ショウはタケルの言葉に頷くとアンネに向き直る。
「アンネ、二人の警護を頼んだよ。俺はちょっとタケルと中の様子を見てくるからさ」
「わかりました勇者様。ここは私にお任せ下さい」
そしてショウとタケルの二人はかけ出した。その速度は尋常では無く、しかもまったく音を立てていない。神の加護を受けているショウはともかく、それと同等の動きをしているタケルの実力がうかがえた。
アンネは二人の背中を見送ってからエーヌ王国をそっと眺める。荒涼とした祖国の姿にそっと唇を噛みしめた。
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