第36話 魔王カプリコーン

「”メガ・ファイアボール”」





 展開された火球が唸りを上げて魔王カプリコーンに襲いかかる。





「ふんっ!!」




 握りしめられた巨大な左拳が、シャルロッテの放ったメガ・ファイアボールを打ち消した。その隙を突いてショウがカプリコーンの後頭部に斬りかかる。





 紅色の軌跡を描いて斬り込まれた聖剣の一撃は、振り向いたカプリコーンの山羊角によって受け止められた。





(馬鹿な!? あの角は聖剣と同じくらいの硬度を持っているとでも?)





 自身の聖剣の威力に絶対の自信を持っているショウは、カプリコーンの角に聖剣が弾かれたという事実に驚愕する。





 そんなショウに、カプリコーンの大鉈が下から斬り上げるように襲いかかった。咄嗟に聖剣でガードしながら体勢を整えるショウ。





 ガードした聖剣の腹に叩き込まれたその一撃は、ショウを数メートルも吹き飛ばした。





 強い。





 魔王カプリコーン。





 彼の強さは至ってシンプルだ。





 腕力


 技量


 体力





 それらのステータスが軒並みずば抜けている。即ち彼、魔王カプリコーンは純粋に戦士としての極みにいるのだ。





 魔法だとか策略だとか、そんなものはカプリコーンには無縁の言葉だ。彼はその近接戦闘力の高さだけで魔族の王へと上り詰めた。





 小細工などには頼らない強者としての絶対の自信に満ちている。





「そんなモノか戦士たちよ? 我輩はまだここに立っているぞ?」





 長きにわたる戦闘、勇者一同は身体の至る所に傷があり、皆ボロボロだ。対する魔王カプリコーンはいくらか傷は負っているものの深い傷は一つも無く、その立ち姿に乱れは無かった。





「・・・まだ・・・まだだ!! 俺が勇者である以上、お前のような邪悪に負けるわけにはいかない!!」





 よろよろと立ち上がる勇者、しかしその瞳はまだ死んでいない。





「邪悪・・・ね。まあ良い。戦えるのなら早くかかってこい」





 そう言って手招きをするカプリコーン。





 当然ながら両者の間には大きな実力の差があって、まともにやりあっては勝ち目が無い。ならばどうするか、ショウが思考を巡らせていると背後から肩を叩かれた。





「勇者様、私と将軍殿が奴の両手を塞ぎます。その隙に聖剣でトドメを」





 カテリーナによる治療を終えた二人が戻ってきた。





 コレで状況は四対一・・・ショウは魔法使いのシャルロッテに声をかける。





「シャルロッテ! 魔王の動きを止めて!」





 そう言ってショウは眼を閉じ、精神を集中させる。それに呼応するかのように握られた聖剣の刀身が輝きを増していく。





「”ウィンドストーム”」





 シャルロッテの突き出した木の杖、その先から展開されるのは魔力で形成された暴風。常人では立っている事すらできない暴風がカプリコーンの動きを制限する。





「好機! 風に乗るぞ将軍殿!」





「おうさ! 遅れるなよアンネ殿!」





 前衛の二人にとってその風は追い風になる。





 風の流れに逆らわず、そのまま正面からランスを構えて突進したフリードリヒの一撃は、カプリコーンの左腕で受け流される。





 同じくフリードリヒの後ろからかけてきた斬撃は大鉈で防がれ、結果、その瞬間のカプリコーンは両手がふさがった状態となった。





「今です勇者様!」





 アンネの声でショウはカッと眼を見開く。





 神速の踏み込みでカプリコーンとの距離をつめると、握りしめた聖剣を振り上げてその真名を解放する。





「煌めけ ”暁の剣”」





 煌々と輝くその刀身は今のショウによる全力。





 深紅の刃が隙だらけのカプリコーンに迫り・・・・・・・・・・・・



































・・・・・・・・・





・・・・・・





・・・





























「なんだ、もう終わりか戦士達」





 死屍累々。





 戦場に立っているのは魔王カプリコーンただ一人だった。





 手も足もでないとはまさにこのこと。





 いかなる作戦も、技も、力も。この魔族には一切の攻撃が通用しない。





 魔族の王





 恐怖の象徴





 力の権化・・・・・・





 自分たちにはまだ早かったのだろうか。





 薄れゆく意識の中でショウはそう自問する。





(駄目だ・・・意識が・・・・・・だんだん・・・・・・・・・)

















・・・・・・・・・





・・・・・・





・・・

















(諦めないでショウ)





(アナタは、一人じゃない)








 声が、聞こえる。





 聞き覚えのある、柔らかな女性の声・・・。





(魔王カプリコーンは強い)





(アナタ一人の力ではかなわないかもしれない)





(でも恐れないで)





(ここには私がいる)





(私が一緒に戦う)








 身体が熱い。





 力が抜けた身体に染みいるような熱さ。そしてショウはそっと眼を開けた。





 目の前には仁王立ちをする魔王カプリコーン。そしてその周囲で倒れている仲間達の姿。 ゆっくりと立ち上がる。





 手も、足もまだ動く。むしろ不思議なことに身体の底から力がわいてくるようだ。





「・・・? お前、何だそのオーラは?」





 カプリコーンが立ち上がるショウを見て不思議そうな表情を浮かべる。





(オーラ?)





 ふと自分の身体を見下ろすと、うっすらと何か金色のオーラのようなモノが身体にまとわりついているようだった。





(何かは知らない・・・でも、これなら戦える!)





 聖剣を構え、その真名を解放する。





「うぉおおぉお!! 煌めけ ”暁の剣”」





 神々しく深紅に輝く刀身に、身体を包んでいた金色のオーラが纏わり付く。強化された聖剣を仁王立ちするカプリコーンめがけて振り抜いた。





 剣から放たれた金色のオーラが刃を形成し、空中を駆ける。





 襲い来る金色の刃に、カプリコーンは右手の大鉈で防御を試みた。





「な・・・に・・・・・?」





 放たれた刃はカプリコーンの大鉈ごとその巨体をいとも簡単に両断する。そのありえない威力にカプリコーンは眼を見開き、そのまま地に倒れた。





 薄れゆく意識の中、カプリコーンは悟る。





 勇者が纏った金色のオーラ





 その正体を





(なんだ・・・そういうことか)





(何と言うことは無い、かの存在がバックについているなら我輩に勝てる道理など最初からなかったのだ。そして・・・)





 二度目の死の間際、そっと金色に輝く自称勇者の姿を見上げる。





(・・・・・・・そして、コイツは勇者などでは無かった)















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