間章 過去と未来と今がある

リリアーヌの苦悩 viewリリアーヌ

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ああ……どうしてこんな事になったんだ……

課題選定を終えたギルを教室に返した後、私は早足で学園長室に向かっていた。

もちろんギルの卒業試験の変更は出来ないか学園長に交渉するためだ。


ギルには卒業試験の変更は認められないと少し厳しいことを言ってしまったが……

私は僅かな望みをかけてみようと思った。

まあ無理だったら無理で他に頼みたいこともある。


コンコン


「失礼します」



学園長室の前に着いた私は扉をノックし、いつも通り返事も待たず中に入る。



「……何も言ってないのに普通に入ってくるな」


「別にいいじゃないですか」



何やら事務作業をしていた学園長セレスが怪訝な目を向けてくる。

だが私はそんな視線を気にすることなくセレスの座る机の前まで歩いていく。

いつも通りにしているだけなのだが何がマズイのだろうか。



「は~……で要件は何だリリアーヌ」



ため息をつきながら要件を訪ねてくるセレス。

私はギルの課題の件についてセレスに問い詰める。



「要件はギル・アーデンの卒業試験……あの、お、おっぱい図鑑についてです」


「ああ……例の課題についてか……あと今は二人しかいない、敬語はいらんぞ」



セレスは要件を把握すると座っていた椅子の背もたれにどっしり寄りかかる。

どうやら仕事モードはやめるようだ。



「ギルの卒業試験……変更は出来ないのか」


「あんなノリノリで『卒業したけりゃ乳を揉め‼』なんて言っていたのに、自分の乳を揉まれて情でも芽生えたのか?」


「な、何故それを知って……」



あの場所には二人しかいなかったはず……

何でこの人がそれを知っているんだ⁉

驚きで言葉が続かなくなってしまった私にセレスはニヤニヤ笑いながら話を続ける。



「あたしは学園長だからな……なんでも知ってるぞ。他にも例えば……」


「いや‼ 言わなくていい! 言わなくていい!」



セレスが余計なことを言いそうだったので必死になって止める。

しかし、セレスの口は止まらない。



「……リリアーヌ、君が5年前ギル・アーデンと出会っていることもな」


「な‼」



ぐぐ‼ このチビ女……そんなことまで知ってやがる……

驚きより怒りの感情が上回りセレスを睨みつけてしまう。



「そんな怖い顔をするなよリリアーヌ。で、どうして5年前ギル・アーデンに【記憶メモリー封印ロック】を使ったんだ?」


「……ギルは本気で蘇生もしくは時間操作の魔法を使おうとしている」


「知っているさ、でもそれらは……」


「魔法ではない。魔術だ、それも禁忌の」



何となくドヤ顔で語られそうな未来がみえたので、私はセレスの言葉を遮り、魔術について知っていることを話すことにした。



「そして魔術には代償が伴う……あの時のギルは代償なんて気にせず魔術でも何でも使いそうな危うさがあったんだ」


「それで、【記憶メモリー封印ロック】を使ったのか……でも自分との記憶も封じる必要はあったのか?」


「……すでに私と魔術について色々話をしていたから……私との記憶も封じる必要があった」



私の話を真面目な顔で聞いていたセレスが急に笑い出す。

何が嬉しいのか分からないが……



「フフフ、魔術についてそこまで知っていたか……流石我が娘だ」


「……血は繋がっていないけどな、セレス学園長」



非常に癪だが、私は目の前にいる学園長セレス・レーベンの娘だ。

だが、血の繋がりはない。なんでも昔、施設から私を引き取って養子にしたそうだ。

施設にいた時の記憶はないんだがそういうことらしい。



「はあ~、いつからお母さんと呼んでくれなくなってしまったのか……」


「今はそんなこと関係ないだろ」



小さくため息をこぼしながら自分の呼び方について愚痴をこぼす我が養母セレス。

なんとなく母とは呼びたくないんだよな……遺伝子レベルで。

だがそんなことはどうでもいい! 今はギルについてだ。



「そうだな話が逸れた。愛しのギル・アーデンについてだったな」


「だ、誰が愛しのだ‼」



急に変なことを言われ顔が熱くなる。

チビ女め……また人をからかって遊んでるな……



「ギル・アーデンを追いかけ学園の教師になったんだ、これは愛だろう」


「う、それは……」



私は若干図星を突かれた形になり言葉に詰まる。

本当に嫌なところを突いてくるなセレスは……



「神童と呼ばれ、様々な魔法機関や政府から推薦を蹴ってきた娘が急に、学園の教師にしてくれと頭を下げてきた時は驚いたけどな」


「も、もういいだろ……」



その話はもう止めてくれ……恥ずかしい……

私は話を聞くのも恥ずかしくなりセレスから目を逸らす。

そのセレスは昔話を止め、課題変更について話しを戻す。



「そうか……君が愛しのギル・アーデンに他の人のおっぱいを揉ませたくないのは分かった。だが課題の変更は認められない」


「誰がギルに他の人のおっぱいなど‼……いやそれはもういい……なら試験の担当教師を私にしてくれ」



セレスのからかいを何とかスルーする。

そして私は課題変更が無理だったら言おうとしていた話をセレスに切り出し返答を待つ。



「今までおとなしく見守っていたのにどういう風の吹き回しだ?」


「私はあの時約束しました。師匠として……あいつを代償なんてない完璧な魔術を使える……一流の魔術師にすると……約束は守ります」



私は逸らしていた目を再びセレスに向ける。

するとセレスは何か思うことがあったのか目を閉じ、うんうんと首を上下に振りだす。



「やれやれ、恋する乙女は強情だな」


「な!……誰が恋なんて」


「乙女の目だったぞ、我が娘」



私は何も言い返すことが出来ず、顔を真っ赤にする。

私はギルに恋を……しているのは? いや違う私はギルの師匠で……

私の葛藤など知らずにセレスは閉じていた目を開け告げる。



「いいだろう、担当は君でいい。ギル・アーデンには今度こそ、で君とあたしの呪いを解く救世主になってもらわないとね」


「呪い? それに救世主?」



ギルの卒業試験の担当は認められたが、同時に訳の分からないことを言い出すセレス。

セレスの呪い? それに私にも……呪いなんてかけられた覚えはないんだが……



「ま、次期に分かる時がくるさ。あと聞きそびれていたんだが、さっき【記憶メモリー封印ロック】を使ったのも何か理由があるのか?」



呪いについて何のことか分からず首を傾げる私に質問してくるセレス。

このチビ女、分かっていて聞いているな……

ニヤニヤしてるのがその証拠だ。


どうせ誤魔化しても意味がないので正直に答える。



「それは……おっぱいを揉まれて……は、恥ずかしかったから……」



顔が熱い……今私の顔は真っ赤だろうな……

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