第11話 夢と野望におっぱいは関係ないと思う

あの後、学園長は一人でそそくさと帰ってしまった。


しかし、俺は学園長室に来るよう言われてしまったので今その扉の前に立っている。

ああ……出来るなら入りたくない……でも来いと言われたので行くしかない。

俺は扉をノックする。


コンコン


「入りたまえ」


学園長のお許しが出たので扉を開け中に入る。


「失礼します」


「やあ、来たねギル・アーデン」



中に入ると、にこやかな笑顔を浮かべる学園長に出迎えれられる。

今から怒られるんだろうな……

そう考えるとこの笑顔が恐ろしくて仕方がない。



「立ち話も何だからそこに座りたまえ」


「……失礼します」



俺は言われた通り近くのソファーに腰を落とす。

座れということは説教は長くなるのかなぁ……

学園長のおっぱいに手を出そうとしたんだ、それはそうだよなぁ……

はぁ~、思わずため息がこぼれてしまう。



「ん? 何だか元気がないじゃないか、今から説教でも受けるような暗い顔をして」


「それは今から説教ですから……え、受けるような? 説教じゃないんですか?」


「違うぞ、あたしは少し君と話がしたいだけだ」



よ、よかった~

どうやら説教ではないらしい。その言葉を聞いて俺は胸を撫で下す。

そんな俺の姿が面白かったのか学園長は笑いながら話を切り出す。



「フフッ、それで話なんだが……君はある魔法をマスターしたいようだね」


「はい、そうですけど……」



確かに俺には使いたい魔法があるが……

このことは誰にも言ってないことだ。何故知っているか疑問だが、学園長がしたい話と何の関係があるのだろうか?



「そして、君がマスターしたい魔法は蘇生もしくは時間操作系の魔法だろ」


「な⁉ 何でそれを知ってるんですか⁉」



俺の野望が学園長に筒抜けになっている。どうして知っている⁉


「なんで知っているっていう顔をしてるな。学園長は生徒のことは何でも知っているのさ」



やばい、学園長ってやばいな‼ 生徒にプライバシーはないのか‼

この学園が喧嘩などなく、平和であるのはもしかして学園長のおかげじゃないか?


俺が驚いても構わず学園長は話を続ける。



「そのため君は魔法管理機関『レグルマ』に入りたいんだろ?」



はい正解です。もういいよ驚かないよ。この人何でも知ってるよ……


『レグルマ』は魔法の全てを管理する政府公認の機関だ。そして全ての魔法がそこにはあると言われている。学園で使用される教本などもそこから発行されている。

そして『レグルマ』は様々な学園の首席クラスでないと入ることは出来ないとされている。


そう俺の目的は『レグルマ』に入ること、そのために俺はこの学園を首席で卒業しなければならない。

もし試験に合格できずに留年をすると学年ランクも消えてしまう、つまり首席のまま卒業するためにはこの1年で絶対に卒業しなければならない。


俺は一刻も早く蘇生か時間系の魔法をマスターしたい。留年などで回り道はしたくない。

もう一度あの人に会うために……



「しかし残念だがギル・アーデン。『レグルマ』に入ったとしても蘇生や時間操作系の魔法の手がかりはないぞ」


「は? でもあそこには全ての魔法があるんじゃ……」



学園長の口から出た衝撃的な言葉に耳を疑う。

蘇生や時間操作系の魔法の手がかりがないだと?


『レグルマ』は全ての魔法を管理しているとされている。もちろん蘇生などといった魔法の情報もあると思っていたのだが……



「『レグルマ』は全ての魔法を管理してないんですか?」


「全ての魔法を管理しているさ。だが魔法に蘇生や時間操作が出来るものはない。それらは魔法ではなく、禁忌の魔術と呼ばれる」


「禁忌の魔術……魔法とは違うんですか?」



魔術……初めて聞く言葉ではないが……

一体魔法と何が違うんだ? 

そんなこと授業で習わなかったぞ。

違いが分からず首を捻る俺を見ながら学園長が説明する。



「魔法というのはだな、科学の延長線にあるものだと言われている」


「科学の延長線……科学ってのは?」



科学……聞いたことがないな……

なんだろう学園長から出る言葉に俺の知らないことが多すぎる。



「そうか……今の時代、科学なんてあまり聞き馴染みはないか」



学園長は座っていた椅子から立ち上がり、近くの本棚で何かの本を探し始める。



「科学というのは昔存在した、今でいう魔法を機械や技術を用いて行うものだ。魔法で出来ることが全て出来たというわけではないがな」


「機械や技術?」



魔法を機械や技術で行う? 機械とは魔道具のことか? 技術は……確かに魔法を使うために技術は必要だが、それとは違うことなのか?

生まれた時から魔法というのは当たり前にあったものだから機械や技術とか言われてもよく分からない。色々な情報に頭がパンクしそうだ。



「まあ、ざっくりと言うとだ。詳しく説明するとなると時間がかかる」



学園長は探していた本を取り出し、俺が座っている対面側のソファーに座り直す。



「蘇生や時間操作は昔の言葉でいうと非科学的なことなんだ」



そう言われてもあまりピンとこないな。

そして何故学園長が昔の言葉を知っているんだ?

姿だけ見ると俺と変わらない……いや1年生と間違えておっぱいを揉もうとしたんだ、むしろ俺より若く見えるが……



「非科学的なことは総じて魔術と呼ばれる。中でも世界に影響を及ぼしそうな蘇生や時間操作といったものは禁忌の魔術と言う……そして魔術や禁忌の魔術を使うには代償が伴う」


「代償……その代償ってどんなものなんですか?」


「分からない。使う魔術や使用者によって代償は変わるみたいだからな」



そう言うと学園長は持ってきた本を俺の方に見せてくる。

本には『魔女と魔術書』と書かれている。

一体この本で何を話すというのだろうか?



「これを見てくれ、見覚えや聞き覚えはないか?」



学園長は俺に本を見せたままページをめくる。そのページには『二人の魔女とラグリマの魔術書』と書かれている。


魔術書というのは全く聞いたことがないな……

だが魔女というのは聞いたことがある。大昔に存在し魔法の生み出したとされている三人の女性のことだ。本には二人の魔女と書かれているが……



「魔術書は聞いたことがありません……魔女は聞いたことがあります。魔法の生みの親ですよね」


「ああ、そうだな」


「でも気になることが一つあります」


「なんだ?」


俺は自分の知識と本に書かれていることの矛盾について学園長に聞いてみることにした。俺の知識が間違っているかもしれないからな。



「この本には魔女は二人と書かれていますが……俺の知識では魔女は三人なのですがどっち……」


バンッ


俺が最後まで言葉を言い切る前に、学園長は目を見開き両手で机を叩き立ち上がる。

え? 何か怒らせること言っちゃったのか⁉


驚き固まってしまった俺に向け声を震わせながら学園長は話し出す。



「き、君は今……ま、魔女はと……言ったな……」


「は、はい……そう言いましたけど……何かまずいことを言ってしまったのでしょうか?」



分からない。何がまずかったのかさっぱり分からない。



「そうか……君はもしかしたら……」



何かを呟き学園長は再びソファーに座り、俺をじっと見つめてくる。

その金色の眼光に、怖さと照れくささが入り混じった感情を覚える。


そして俺を見つめたまま学園長が告げる。



「ギル・アーデン。君はその『おっぱい図鑑』を真に完成させるんだ。それが君の野望を叶えることに繋がるかもしれん」



『おっぱい図鑑』の完成が俺の野望を叶える? どういうことだ?

出来れば魔術自体を誰かに教えてもらいたいのだが……



「図鑑完成の時、君はどんな魔術でも使えるようになっているかもしれない」


「どういうことですか?」



おっぱい図鑑完成で魔術が使える?

もはや話の関連性が分からない。



「きっと絆が君を導き、誰かの呪縛を解くだろう」



最後の学園長の言葉の意味は全く分からない。

でも、どこかその意味を知っているような不思議な気分だ。

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