三章

第46話 辿り着いた村は邪神の相手をしている場合ではなかったようです

 ガルスの町を旅立った俺達は、スルカッシュ国内をだらだらと歩いていた。

 

 俺とシンは食事も睡眠もとれるけど必須ではないし、フックにしても俺からの邪気供給がある限り同じだった。そのために徒歩旅に対して危機感というかまじめさがあまりないから、大体の方向だけ決めてただただ歩いていた。

 

 「ほどよい目的地のぅ」

 

 シンがぽつりと呟いた。田舎の村へ行って過ごしてみたかった俺が、人が多すぎない町か村の探索を、人間の集まりがある程度感知できるシンに頼んでいた内容を反芻したようだ。

 

 「これまで通ったのって、交易の盛んなトトロンに、大きな傭兵団が拠点にするガルスだっただろ? この間話した小さな傭兵団を作りたいって話もあるし、田舎に行ってみたいんだよ」

 「仕事に疲れたサラリーマンの発想だのぅ。そして始めて数カ月でやはり都会に戻りたい、となるまでがセットじゃな」

 「ホキ?」

 

 全く内容が理解できず首を傾げるフックは可愛いけど、この世界では俺にしか伝わらないであろうやけに的確な例えを持ちだしたシンは辛らつだ。とはいえ表情を見る限り反対という訳では無くて、単純に思ったことを言っただけのようだった。

 

 「そ、それを乗り越えた先に都会では満たされない精神的充足と、“本当の幸せとは何か?”の答えがあるんだよ」

 

 適当な言い訳を返していたら、何かの映画の宣伝みたいになってきたな。後は一緒にタイトルを叫べば完璧だ。……やらないけど。

 

 そんな感じの何の生産性もない会話をだらだらとしたり、たまにフックを構ったりしてかれこれ数日は歩いている。人里に辿り着けないという訳ではなくて、シンが感知したり遠目に見えたりするたびに「ちょっと発展しすぎてて田舎とはいえない」とか「さすがに寂れすぎててちょっと……」とか言っているうちに日数が経っていた。

 

 「おん? あれはどうかの? ちょうどヤミが言っておるような規模じゃと思うが」

 「まだ見えないけど……、まぁ行ってみるか」

 

 この辺りは平原よりの丘陵地帯という感じでやや起伏があって、シンが指す方向はちょうど丘の向こうになっているから見えない。まぁちょうどいい規模って言っているし、とにかく見に行ってから考えよう。

 

 

 

 それからそれ程の時間もかからずに、シンが言った通りちょうどいい規模の村へと辿り着いていた。

 

 畑の広がる農村で、中央の集落部分は一応腰の高さ程度の柵で囲われている。レンガ造りの建物とか石畳とかが見当たらなくていかにもな田舎感があるけど、畑は良く実っているし村人もしっかりした体型をしていて飢えている様子なんかは無い。

 

 主要な街道から遠いから貧しくはあるのだろうけど、食べていくには全く困っていないというところだろうか。

 

 「しかし、様子が普通ではないのぅ」

 「そうだな、何かあったのかな?」

 

 日が高い時間の農村なのに周囲の畑で働いている人は見当たらず、集落内をそれなりの人数が行き交っている。それにどの村人も険しい表情や、困った表情をしていて、何か問題が起こっていることは正に一目瞭然だった。

 

 「ホゥキィ?」

 「そうだな、聞いてみるか。見ていても分かる訳ないし」

 

 フックが片翼を伸ばして指した方向には、周りより若干だけど身なりの良い初老の男性が立っていた。何人かが常に近くにいて話し込んでいるし、通りがかる人も話しかけていくから、あの人がここの中心的な人物なのは間違いなさそうだ。

 

 「ちょっといいかな? 俺達は旅をしていて立ち寄ったんだけど……」

 「今この村が大変なのは見れば分かるだろう!? 状況を考えてくれないか!」

 

 話しかけただけですごい怒られた……。その状況を聞こうとしただけなのに…………。

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