第33話 魔獣討伐の朝
ガルス領主を説得してから一日をあけた二日後、俺とシンは再び“銀鐘”拠点の四階にある団長室でナラシチと会っていた。
「もう準備は出来ているのか? 下の階を見ても大規模討伐の準備って雰囲気でもなかったけど」
「大規模ではないでやすからね。大勢で林に進軍して、戦う前に魔獣に飛び立たれでもしたら、目も当てられないってもんで」
まぁ、それはそうか。
「おん? そうなるとわたしとヤミだけでいくのかの?」
「いえ! そんな無責任なことはしやせんよ。俺っちを含めて弓が得意なのを十人集めていやす」
確か魔法が効かないオオフクロウだったな。かといって普通に射ることも難しいという話だったから、俺達に期待されているのは最低でも足止めをして欲しいってところか。
「じゃあ一応俺達でなんとかしてしまう気ではいるけど、無理そうだったら動きだけ止めるからその時はよろしく」
「ええ、こちらこそお願いいたしやす」
作戦といえる様な内容でもなかったけど、変に細かく決めてしまうよりは臨機応変に対応できていいだろう。魔法が効かない魔獣っていっても、多分俺とシンの邪法なら効きそうだしな。
「そういえば、あの布教司祭の話は聞いてやすか?」
「ナロエって奴か? いや、何の話だ?」
ひと段落したところで、ナラシチが別の話題を出してきた。ひどく取り乱して走り去って以降、あのナロエがどうなったかは全く知らなかった。
「姿を消したようでして。あの黒装束の死体も、気付けば領主の邸宅から消え失せていたそうでやして」
死体の方は太陽教会が回収したんだろうなぁ。そういえばあいつらからも遺物を回収しておけば良かった。まぁ使う当ても特に無いけど。
「ナロエは領主に取り入ろうとしてたんだろうけど、あれだけ派手に俺達に仕掛けておいて、最後はその領主を見捨てて逃げたからな。今さらこの町に何を出来ることも無いと判断したんだろうなぁ」
「黒装束どもが叩き潰されたのがよほど想定外だったようだのぅ。あれはもう狂う一歩手前じゃった」
シンがそう見立てるということは、本当に発狂寸前だったんだな、あいつ。あの時口走っていた「シンバツ助祭」ってのが黒装束達の名前なんだろうけど、そこまで極秘情報だったのか? それか単に負けたのがショックだったのか。
「まぁそれは気にしても仕方ないだろ。今は林のオオフクロウの方に集中しとこう」
「ええ、そうでやすね。気合いいれやしょうか!」
ナラシチとしても一応といった程度で伝えただけだったのだろう。俺が気持ちを切り替えて言うと、拳を握って魔獣討伐への決意を見せる。
魔獣というのを見たこともないけど、まともに正面から戦えば負ける気はしない。けど今回に関しては万が一刺激だけして取り逃がしたりしたら、関係ない人に被害が出るかもしれない。普段よりも気を引き締めて取り掛かろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます