第24話 変わった想い
「今でもまだ信じられません……、教会があんな悪事をしているなんて」
テーブルの向かいに座って果物のジュースを飲むタラスは、苦い味の薬でも口にしたような表情をする。
俺とシンは、訪ねてきたタラスと銀鈴亭の食堂で話をしていた。今は昼をしばらく過ぎた時間帯で他に客の姿が無いから、声を抑える必要もない。
「ああまでして俺達を排除しようとしたのは遺物の収集を邪魔されたからってことだったんだろうけど……。そもそもどうして遺物なんて集めてたんだろうな?」
「おん? 武力の強化ではないのかの?」
「いや、ミリルの話だとフラヴィア商会が運搬の途中で襲撃されるようになったのは最近って言ってただろ、たしか。まあ昔から収集はしていたんだろうけど、明らかに最近になってペースを上げているのは何なんだろうなって」
疑問を言葉にしてみたものの、この世界の情勢とかもまるで知らない俺に予想がつく訳もなかった。タラスも唸るだけで何も言わないし、少なくとも一般の人間からすると教会は太陽神を信仰する集団でしかなかったのだろう。
「ところで、お二人はこれからどうするんですか?」
思考が行き詰った所で、タラスが話題を変えてきた。というより、今日訪ねてきたのはこれを聞きたかったようだ。
「行き先は特に決めてないけど、そろそろトトロンを離れるつもりではいるよ。ゆっくりできそうな温泉地とかがいいかなぁ……」
「そうだのぅ」
町で噂だけ聞いた保養地を思い浮かべていると、陶器のピッチャーを持ってきたドズデアがちょうど空になっていた俺達のカップにジュースを注いでくれる。この時間帯は食堂に客がいないということでポップルは出かけているらしい。
「傭兵団を立ち上げるつもりはないのですか? それほど強ければ依頼も構成員もたくさん集まりますよ、きっと」
ドズデアが相変わらずの低く落ち着いた声で言って、こちらを窺い見ている。そして俺達より先にタラスが目を輝かせてその提案に反応を示した。
「いいですね! アタシも入りたいです。……あ、でも足手まといですよね」
一瞬盛り上がったタラスが、次の瞬間には自己否定して落ち込んでいる。魔力がすぐ尽きるという例の“瞬雷”が、彼女の中ではもはやトラウマのようになっているようだ。
しかし今回の誘拐騒ぎでフラヴィア商会秘蔵の魔戦具のおかげであったとはいえ、大きく活躍できたことは内心の変化を促していたらしい。というのも、さっき俯いたタラスは目まぐるしいことにまた顔を上げて、意外と強い意志を感じさせる目線でこちらを見据えた。
「その、待っていてください。今回のことでアタシもコツが掴めたような気がしているんです。きっと魔戦具なしでもお役に立てるくらい強くなってお二人の傭兵団に……」
「いや、待って! 傭兵団を設立するとは一言もいってないから」
「しかしふんぞり返っておれば手下が働く環境というのは魅力的だのぅ」
成長を微笑ましく見守っていると、どんどんと盛り上がっていってしまったタラスを慌てて止めた。しかしシンの方はというと意外とまんざらでもなかった様子だ。
「ふんぞり返るって……、ラスボス的なポジションに憧れでもあるのか?」
「似たようなものじゃろ? わたしもお前も」
皮肉というか、からかったつもりだったけど、シンは本当にそういう意味で言っていたようだ。俺達のやりとりにドズデアは不思議そうな表情で、そういえば、という風に口を開く。
「倉庫での戦いの最後に、ヤミさんは邪神と名乗っていましたが……、なんというかすごい二つ名ですよね」
「二つ名というか、そのままの意味というか」
「ちなみにわたしは狂神じゃな。元、ではあるがの」
「邪神にその伴侶の狂神……!」
ドズデアは大層な呼ばれ方だなぁ、くらいに思っていそうな緩い笑みだけど、タラスの方はツボにはまったようでなぜか感激している。そしてシンもなぜかご機嫌になっている。
「まぁそれはともかく、どうして急に傭兵団の話を?」
空気を変えようと一番冷静そうなドズデアに話しかける。
「もし少しでも興味があるなら、次の行き先にガルスはどうでしょう? “銀鐘”という傭兵団が拠点にしていて、トトロンより町としての規模は小さいですが色々と経験できると思いますよ?」
「銀……?」
このドズデアがかつて団長を務めていたというのが、宿酒場の名前と同じ“銀鈴”だった。鈴が鐘になっているけどこの名前ってもしかして……。
「はい、お察しの通り僕のかつての仲間が団長をしている傭兵団です。紹介状を書きますので、行ってみますか?」
なるほど、そういうツテを紹介しようとそのガルスという町を勧めてきたのか。傭兵団を作るような気は正直いって殆どないけど、俺とシンが仕事をしようとするなら結局商売とかよりも傭兵稼業になりそうだから、行ってみるのも良さそうだな。
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