第23話 戻った日常

 セシルによるポップル誘拐事件から数日が経って、俺とシンは当初の予定より長く銀鈴亭に滞在していた。

 

 こちらとしては教会との揉め事に巻き込んだ負い目みたいなのは多少あったものの、ポップル救出作戦では結果的にドズデアの窮地を助けることにもなったことで、銀鈴亭の一家からはかなり感謝されることになった。

 

 報酬として金銭やドズデアとサデアの傭兵時代の装備品なんかを提案されたけど、しばらく食事と宿泊をタダにしてくれと言って結局それが採用された。しばらくとか言いつつ具体的な期限が決められてないあたりが破格の報酬の様に感じるけど、元傭兵のサデアがいうにはこれでも欲が無さ過ぎて足元見られそう、とのことだった。

 

 まあそれは何も欲が無いということでもない。というのも、金銭的な報酬に関してはミリルの方からかなりの金額をもらっていた。

 

 今回の一件ではフラヴィア商会としての秘密兵器とか、コネとかをかなり使っていたようだけど、あくまでミリルとダルクスが個人的に動いたという扱いになっている。なのでミリルの個人資産から報酬をもらった訳だけど、それは金貨で数百枚という大金だった。金銭感覚は地方によってかなり違うらしいけど、トトロンの一般家庭では金貨が百枚もあれば一年は余裕で暮らせるらしい。

 

 これに関してはさすがに重いので、フラヴィア商会に口座を作って報酬全額を預かってもらった。タラスにも一応確認したところではスルカッシュ王国にいる限りでは、フラヴィア商会に預けておけば問題はないらしい。そもそもセシルにもらった分もかなり残ってるしな。

 

 「派手にやったから教会との全面戦争でも始まるかと思ってたけど……、特に何もないな」

 「おん? ミリルの対処とやらは信じておらんかったんか」

 

 何となく思ったことを口に出すと、部屋で寛いでいたシンが楽しそうに笑って返した。

 

 「あの司祭の口だけ聞けなくしておけば、後は商会で対処するってやつだろ? さすがにどこかから情報は漏れるんじゃないかなって正直思ってた。けどそうなっても別にいいかなと、あの太陽教会は光神とかじゃなくてこの世界の遺物で悪だくみしてるだけみたいだったし」

 

 トトロン内に留まったとはいえ、あれだけ揉めて結局光神の影も見当たらなかった。という訳で俺の中では太陽教会に対しては興味も警戒も薄れてきていた。

 

 「隠形のネックレスの時にも言ったがのぅ、遺物と呼ばれとる物品は神かそれに近い存在が力を込めたものじゃ。この世界には始まりからずっと太陽神とやらしかおらんのだとしたら、神にも影響を及ぼすような遺物を自ら作るかの?」

 

 他にも神々がいる……、あるいはいた、ということか。

 

 「神同士の争いみたいなものがあったってことか? けどどちらにしろ俺達には関係ないだろ」

 「そうともいえん。今残っているのはその争いで他の神を排除したような存在という事になるからのぅ」

 

 そんな排他的な神が一神教で幅を利かせている世界に、俺達と光神がやってきて揉め始めた……と。

 

 「嫌がられてそうだなぁ……」

 「そういうことじゃの。これからもあの教会に警戒はしておくべきだのぅ」

 

 とはいえこっちからは現地勢力と進んで揉めたいとは全く思っていない。

 

 「そろそろトトロンを出るにしても、行先は考えた方が良さそうだな。スルカッシュ国内はまだともかく、国外だと教会の影響力が強い国もあるみたいだし」

 

 方針ともいえない方針を考えながら口に出すと、シンは目線をあげて思い出す様にしている。

 

 「確か……、聖地とか大教会とか言っておったような……」

 

 まあそれが何かとか調べる気もあまりないけど、目的地にわざわざ選ぶ場所ではないということだな。

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