第11話 報酬は情報
夜になって、部屋を訪ねてきたタラスに誘われて、俺達は銀鈴亭一階の食堂で向かい合っていた。
「さぁどうぞ、遠慮なく食べてください」
そういうタラスの前にはたくさんの料理が並び、向かいに座る俺とシンにはしっかりと飲み物も用意されている。ちなみにタラスとシンはジョッキに入ったエールを飲んでいるけど、俺はコップでオレンジジュースだ。
今の身体はアルコールで基本的に酔わないはずだし、逆に酔いたければ邪法で酔い方をコントロールすることすら可能なはず。だけど元は下戸だった俺としては酒に対して何となく苦手意識が残っているし、だいたい甘いものの方が好みだからジュースでお願いした。
「けど、本当にこれだけでよかったんですか?」
「だからこれだけじゃないって、色々と質問とかもさせてもらうし」
何度目かになる同じ質問をタラスから受けて、俺も何度目かの返事をする。タラスからは野盗から助けたお礼として、彼女が受け取るはずだった今回の報酬を全額俺達に渡すと申し出てきたけど、これを断っていた。
理由としては、そもそもお金に執着してないこともあるし、言ったように質問をさせて欲しかったからだ。タラスとしてはこちらが気を使っていると勘ぐっているようだけど、本当に何も分からない身としては、とにかく情報が欲しいし、変なことを聞いたとしても問題にならない相手から質問できる機会というのはそれこそ値千金だ。
「で、では何でもどうぞ!」
タラスが勢い込んで質問を急かしてくる。義理堅いのは好印象だけど、ちょっと肩に力が入り過ぎの気がする。
まあ、色々と聞かせてもらえばタラスの中でも折り合いはつくのだろうし、甘えさせてもらう。横目にシンを見ると、焼き魚と揚げ芋をエールで流し込むのに忙しそうだから、必要なことは俺がちゃんと確認しておかないと。
「よし、それじゃまずは――」
意外といっては失礼かもしれないけど、夜の銀鈴亭食堂は賑わっているものの迷惑なほど騒ぐ客もおらず、存分に話し込むことができた。
貨幣は小袋に入っていたものがスルカッシュ王国の通貨で、銅貨が十枚で銀貨、銀貨が十枚で金貨とそれぞれ同価値らしい。ここの食事が一品で銅貨一から三枚程度、定食なら四か五枚くらいらしいから、今持っているだけでとりあえず当面食べ物には不自由しなさそうだ。
あと暦は六日で一週間、三十日で一か月で、一月、二月……、といういい方で普通に通じるようだ。古くは月ごとに過去の英雄の名前にちなんだ名前が付いていて、王家からの通達なんかではそれを使うらしいけど、庶民なら知らなくて普通らしい。
「いやありがとう、色々教えてもらえて助かった」
「お役に立てたなら良かったです」
ちょうど食事の方も一区切りといったところだし、ここらでお開きかな。
「それにしても、流暢に説明しとったのぅ」
存分に食べて飲んでをしたことで機嫌のいいシンが、教師役を全うしたタラスに感心している。一応話を聞いてはいたようだ。
「これでも、王都学院の出身ですから。傭兵業以外に家庭教師もしたりするんですよ?」
王都学院、これもさっき簡単に聞いたな。スルカッシュの王都には王立の学校があって、金持ちや貴族の子どもだったり、庶民でも優秀な子どもが通っているらしい。タラスは田舎の小さな商家の子だって話だったから、つまりかなり優秀だったということか。
「また何か分からなかったら聞いてもいいか?」
「はい! いつでもどうぞ!」
「まあ、その時はこっちが何かおごるよ」
こちらとしては有用な情報収集だったし、今後も何かあれば相談相手になってもらえそうで助かった。タラスの方も、話すことが好きなようで、酔いの影響もあってか機嫌よく、それこそ流暢に喋っていた。
この世界へ来てから、光神、野盗、聖職者、酔っぱらいと楽しくない出来事続きだったけど、一日の最後は楽しい気分で終えられそうだ。
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