第6話 霧春玖陽

「……俺は、もうあんたの元には戻れない。でも、会いたかった」

玖陽と呼ばれた青年は俯いて話している。秋飛さんの元に戻れないと言う言葉が気になった。

「…………」

「えっと、どう言う事なんですか?秋飛さん」

「……何で、来たんだ」

「俺、秋飛と一緒にいれたから……楽しかったんだ。秋飛がいたから」

「……お前は、オレとは相棒になれないんだよ。分かってるだろ?自分が昔何をしたのか」

「じゃあどうすれば良かったんだよッ!!」

秋飛さんの胸ぐらを掴む青年。

「止めなよ……!」

僕は必死に青年を止めた。青年に突き飛ばされ、今度は僕が胸ぐらを掴まれた。

「うるせえッ!お前なんかに俺の気持ちが分かるのか!?」

「それは……」

「お前が秋飛と楽しく暮らしてるのが嫌なんだよ!!」

「1回落ち着け」

秋飛さんが青年をなだめると、青年はどこか納得がいかないような顔をして僕を掴んでいる手を離した。

「はあ、はあ、はあ……あの、何があったんですか?」

「そうだな。冷青には言っても良いかもしれない」

「……」

秋飛さんは、冷青がオレの相棒になる前の事だ、と前置きをして話し始めた。青年は秋飛さんの元相棒で、霧春玖陽きりはるくおと言う名前なんだそう。素敵な名前だな、と思いながら続きを聞いた。

玖陽くんは、自殺が原因で亡くなった。生前は友達がいなくていつも1人で、自分がいたって邪魔になるだけ、なら死んだほうがいい。と思っていたらしい。死んだ後、秋飛さんの相棒として守神を始めた。秋飛さんは自分を必要としてくれた。ここにいても良いと言ってくれた。それが嬉しかった。だから、秋飛さんの役に立とうと頑張った。いつしか人間の友達ができて、玖陽くんは楽しい毎日を過ごすようになった。そして、人間の女の子が遊びに来るようになった。玖陽くんはその子に好意を抱いた。その女の子も玖陽くんの事が好きだったらしい。毎日森の中を手を繋いで散歩した。そんな幸せな日々は、急に壊れた。女の子が怪異になってしまい、倒さざるを得なくなった。玖陽くんは、その女の子を庇って重傷を負った。人間の友達も、女の子に殺されてしまった。

「怪異を庇う事って……」

「そうだ。オレ達のルールに反する。だから、玖陽には重い罰が与えられた」

怪異に情けをかけてはいけない。玖陽くんはそれを破ったのか。でも、それは庇いたくもなるだろう。だって、好きな人なんだから。

「罰って……」

「オレの相棒をやめる事。それが、玖陽に与えられた罰だ」

「……」

自分の事を認めてくれた秋飛さんと一緒にいれなくなる。それは玖陽くんにとって一番辛い事なんじゃないだろうか。友達も死んでしまって、また1人になった。玖陽くんは、辛い人生を送ってきたんだな。

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