第1話 月沢冷青


 僕は月沢冷青つきさわりょうせい。とある神社で見習いの守神として日々を過ごしていた。僕達の住んでいる神社がある街には、悪霊や妖怪と言った怪異が存在している。そんな怪異を倒して人間を守る事も、僕達守神の仕事だ。

「冷青。おはよう」

「あ、おはようございます。秋飛さん」

「早いな。まだ寝ててもいいのに」

「いえ……流石に起きないと」

僕に話しかけてきたのは、白鷺秋飛しらさぎしゅうとさん。いつも黒シャツに白衣を羽織って、黒いサラサラの髪の左側に赤いピンを二つ付けている。秋飛さんも守神だ。ただし、僕みたいに見習いじゃ無くて立派な守神。頼りになるし一緒にいると安心する。僕と秋飛さんは相棒と言う関係だ。

「そっか……若いって良いなぁ。オレまだ眠くて……」

「5時に起きるのって普通じゃ……?」

「ん……いや、オレいつも8時頃に起きてたから……」

朝が苦手でね。と言いながらふぁっとあくびをする秋飛さん。そんな秋飛さんの髪は色々な方向にぴょんぴょんとはねていた。

「秋飛さんって低血圧?」

「ねむい……」

「僕、神社の掃除しますね」

「んー……良いのか?任せるわ……ちょっと身支度してくる」

ローファーをはいて外に出る。外は暖かくて気持ちいい。桜の花びらがちらちらと舞っている。春だな、と思う。僕は……生前、学生だった。月ヶ丘高校。僕が通っていた高校。僕が死んでから随分とたったけれど、何か変わったのかな。桜を見ると何だか切ない気持ちになる。何か大切な事を忘れてしまっている様な、そんな気がするのだ。

「……僕は……何を忘れたんだろう……」

忘れた?何を?僕は何も忘れてなんかない。ちゃんと覚えているじゃないか。

「掃除しなきゃ。怒られちゃうや」

ほうきを持ってきて、掃除を始めた。しばらく掃除をしていると、秋飛さんが外に出てきた。

「お疲れ様。随分綺麗になってるな」

「そうですか?ありがとうございます」

「うん。そろそろご飯食べるか?どっちでも良いけど」

「あ、じゃあ食べます」

ご飯は大体秋飛さんが作ってくれる。たまに僕も作るけど。

ほうきを片付けて茶の間に向かった。この神社には、泊まる所がある。僕と秋飛さんはそこで暮らしている。台所や寝室、各々の自室。浴室に洗面所。まぁ、普通の和風な家みたいな感じだ。テーブルの上には、秋飛さんが作った美味しそうな料理。

「先食べてて。オレは後で食べるからさ」

「いえ、待ってます」

「1人で食べるの嫌か?」

「いや……そうじゃなくて……その……」

「ん?」

「やっぱり、何でも無いです。1人で食べます」

秋飛さんは、食べ終わったら食器を台所に置いておいてくれと言ってどこかへ行った。僕はいつもこうだ。自分の思ってる事を素直に言えない。

「何で僕は……素直に言えないんだろう」

いただきますをして、料理を食べる。いつもは秋飛さんの料理を美味しいと感じるのに、今日は味がよく分からない。

食べ終わり、台所に食器を置いた。特にやる事もないので、縁側に行って座った。ぼーっと景色を眺める。暖かい日差しが心地よく、だんだんと眠くなってくる。うとうとまどろんでいると、背後から秋飛さんに声をかけられた。

「お。冷青、こんな所にいたのか」

「わっ!?」

突然声をかけられ、驚いた拍子に頭を障子にぶつけてしまった。

「だ、大丈夫か?」

「痛てて……うぅ……」

「……すまん」

「いや……大丈夫です」

「何してたんだ?」

「やる事無くて……何となく景色眺めてました」

「そうか。今日はあったかいなぁ。景色も綺麗に見える」

「そうですね」

しばらく二人で景色を眺めた。穏やかな時間。幸せだと思う。

「……ん?」

肩が重く感じ、横を見てみると秋飛さんが僕の肩に頭を預けてすぅすぅと寝息を立てていた。まだ眠かったのか。起こすのも何だか忍びないし、このままにしておくことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます