18-1 はたおりの糸


 白い花が咲いている。陽桜李は花の名前も分からない花畑にいた。ねぼすけな陽桜李はいつもの朝の調子で、まぶたをこすり、やっとの思いで起き上がった。

 晴れ渡る空に花びらがひらひらと舞うのをぼうっと陽桜李は眺めていた。


「陽桜李、おいで」

「おーい!陽桜李!」


 大好きな兄たちの声が聞こえる。陽桜李は遠くに見える琥珀と大和のもとへ、ゆったりとした歩きで近寄った。

琥珀は器用に花の輪を作って陽桜李の頭に乗せてくれた。陽桜李は嬉しくてふんわりと微笑む。


「陽桜李」


 愛おしかった声がした。ずっと、ずっと、聞きたかった声がした。

 白とは真逆の色。

 黒に染まった着流しを着て、相変わらず眉間にしわをよせながらも、ぶきように陽桜李の名前を呼ぶ。


 陽桜李のたったひとりしかいない父親の八雲だ。


「おとうさま」


 陽桜李は涙をこぼしながら八雲に抱きつこうとした。小さな頃のように甘えて子供に戻りたかった。


 八雲に恋する前に戻りたかった。

 でもすべて自分が彼に恋をしてしまったせいで。


「……?!」


 あたりが一気に真っ暗になった。白い花は消し炭のように枯れていったと思うと、ぱっと不気味に橙色に花が開いた。鬼百合の茎が陽桜李の足元に絡みついていく。みしっ、みしっ、と音を立てて茎がしめつけられる。陽桜李は動けなくなり必死に手を伸ばした。その先には──。


「陽桜李、俺を捨てないで」

「痛い……痛ぇよ……」

「嬢ちゃん、悪い……」


 届かない手の先に置いて行ってしまった三人が居る。

 辛かった過去で狂ってしまった琥珀。怪我をして痛がっている大和。弓で懸命に戦っている風見。


「陽桜李、お願いだ!行くな!戻ってきてくれ!」


 そして八雲の声が聞こえる。姿は消えてどこにも見えない。


 陽桜李はうめき声をあげて倒れた。うっすらとまぶたをあけて見える先にあるのは──。

 四人のかぞくの死体だった。

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