12-1 耳塚家の真実


「八雲が行方不明?!」


 風見のおどろいた声が広間に響いた。琥珀と大和は黙って頷いた。陽桜李は胸がちくりと痛む。


「いつからだ?」

「三日ほど前からでしょうか。風見さんが陽桜李を引き取る……陽桜李がそう望んでいるって言ってから大変でしたよ。父上は急に落ち込んでしまってそれから魂が抜けたような日々を送っていました。大丈夫かなと思ってたらこんな書置きがあったんです」


 琥珀は心底、参っているように説明した。そして全員が座っている畳の床の上に一枚の紙をひらりと置く。八雲の達筆な字でこう書かれていた。


「”兎山の屋敷に行く”……?!」


 風見が紙をとって言った。


「意味が分からないよな。兎山って誰?どこ?」

「裏山だ!こずみ桜の裏山!」

「えっ?!俺ん家の?!……あそこ兎山って言うの?」


 大和がのんきにびっくりしている。


「兎山……兎山影彦うさぎやま かげひこ……」


 陽桜李は”兎山”と聞いて夢で見た白髪の青年を思い出しながら呟いた。


「ウサギヤマ、カゲヒコ?誰だ?村の人?陽桜李がなんで知ってるの?」

「……風見先生。この村の一体何を調べてるんですか?」


 なにかを察した琥珀が風見に尋ねた。風見は考え込んでしまっている。


「……それは私が説明しよう」


 広間の襖の前で凛とした声がした。全員の視線が声のほうへ向いた。襖はゆっくりと開いていく。そこには杖をついた白髪交じりの貫禄のある男性が立っていた。


「……父上」


 風見が男性に対してそっと呟いた。


「父上!むやみに動いてはいけません!」


 廊下からあとを追うように霧夜が慌てた表情で駆け寄ってきた。


正嗣まさつぐじいちゃん、久しぶりに見た」

「病状は大丈夫なのですか?」

「ああ……心配しなくても自分の体のことは自分が一番わかっている」


 正嗣と呼ばれた男性が心配する大和と琥珀にぴしゃりと言った。すると正嗣の目元に隈のある瞳がぐるっと陽桜李のほうを見た。陽桜李は不思議そうに首を傾げる。


「……ヒオリ」


 正嗣は声からがらに陽桜李の名前を呼んだ。そして杖を置くと病人とは思えない動きで、陽桜李の前にしゃがむ。正嗣が力強く陽桜李の両肩を掴むと体を揺さぶった。


「……あの」

「“ヒオリ”……すまなかった。すまなかった」


 陽桜李が困った顔で見つめ返すと、正嗣の目には涙のようなものが浮かんでいた。そして何度も「ヒオリ、ヒオリ」と呟く。


「じ、じいちゃん!なにやってるんだ!」

「父上!彼女は“ヒオリ“じゃない!」


 おかしな行動をし始めた正嗣の手を風見がはがした。陽桜李は「こっちだ!」と守ってくれた大和の後ろに隠れた。


「……もう、今日は何なんですか。妖怪の大集合じゃないんですよ」

「誰が妖怪だ」

「英傑ぞろいじゃないですか」


 場の空気を和ませようと琥珀が冗談をこぼす。それに風見が答えた。陽桜李はこっそりと正嗣を見る。正嗣は霧夜に支えられてなんとか立っているような状態だ。


「……私、あの人と、お話したい」


 陽桜李は顔を出して正嗣にそう言った。


「ふたりで」


 そう付け足すと全員がざわついて顔を見合わせた。陽桜李は正嗣に笑顔を向けた。正嗣はじっと陽桜李を見ると頷いた。


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