4-2 母親


「可愛い子だね!こう……座敷わらしみたいで!」

「ぐっ……!ぐうー!」

「ん?あれ?怒ってる?」


 陽桜李はやけになって麦茶をぐっと一気に飲んだ。ぷはーっと気持ちよく息をつく。


 ”法花寺ほうけじ”。陽桜李がたどり着いたのは上春村のお寺であった。意識はあったが倒れた陽桜李を見た兼吉かねよしという住職が大急ぎで事務室に運んだ。すぐに目を覚ました陽桜李は飲み物をせがむ。住職が「葵ー!」と呼ぶとふくよかな体形の優しそうな女性が現れて対処をしたのだった。

 葵は陽桜李を膝の上に乗せてくれている。


「あなた、本当にデリカシーがないのね。女の子に座敷わらしはいやよねぇ」

「私、ちょうちょになりたい!」

「ちょうちょ!可愛いねー」

「もしくはいもむし」

「い、いもむし……」


 葵は苦笑いして陽桜李の頭を撫でる。あたたかい。陽桜李はお日様に干したばかりの布団のぬくもりと似ていると思った。ずっとこのまま抱き締めてもらいたいような気分だ。


「私は葵よ。葵お姉さんって呼んでね」

「……おばさんって言ったら末代まで呪われるから気をつけなね」

「なんですって?」

「もうやめてよ、お父さんお母さん。人前で恥ずかしい」


 ぎぃとデスクチェアがこちらを向いた。眼鏡の姿が似合う肩まで伸びたパーマの女性が陽桜李を見た。彼女は眼鏡を外すとぐーっと伸びをする。ずっとパソコンに向かって事務仕事をしていたが、集中力が切れたようだった。


「あ、こっちは娘のしおだよ」


 兼吉は汐を紹介する。


「あれ?!この子……私の服着てる?!」


 汐はぞっとして言った。焦ったように葵のもとに座っている陽桜李を奪う。汐に陽桜李は抱っこされて上から下まで水玉模様のワンピースをまじまじと見られる。


「もしかして……この女の子、八雲さんと関係あるかも……」

「なんだってぇ?」

「八雲さんのご長男さまが居るでしょ。いきなり私の小さい頃のおさがり服がないかって尋ねてきたのよ」

「琥珀くんが?ええ……じゃあ、もしかして八雲さんの……?……なんでうちの寺に?」


 三人は「さあ……?」と言いたげに顔を見合わせた。しばらく間があくと葵がはっとした顔をする。


「……八雲さん……ついに……」


 葵が声を落として言ったのに汐が呆れたようにため息をついた。


「どうしてお母さんがショック受けてるの」

「ま、まあ八雲さん、お母さんの学校のアイドルだったから、その、ね……」

「八雲お父さま!」

「お、お父さま……」

「だからなんでショック受けてるの」


 母娘の掛け合いに陽桜李は二人の顔を交互に見た。貰った麦茶をもう一飲みする。

陽桜李はそういえば、と違うことを思い出した。ゆみこが見当たらない。彼女を追いかけてここに来たというのに何故なのだろう。


「ゆみこ、どこー?」


 陽桜李の無邪気な声が事務室に響いた。


「……ゆみこ?」

「うん。ゆみこ、ここ来たはず」

「……君、まさか……八雲さんと同じ力が……」

「……?」

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