第48話 ソナタのケイシキ

 そんなこんなあって俺たちは、一番初めに見た大きな赤い和風建築の中に案内された。


 『――わらわは待っておったのじゃぞ。刹那髪セツナガミ


 妙に威厳タップリな声色で言って来たが……アレを見てしまえばもう遅い。

 それに当の本人も、崩れてしまった威厳を諦めてるのか分からないが、乱れた髪に身体に合ってないブカブカの着物。見え隠れする中に着ているTシャツ。


 (これが少なからず俺も慕っていた天照大御神アマテラスオオミカミ……ね)


 俺は思わず鼻で笑ってしまった。アスタロトに関しては、床で転げまわりながら「アハハッ!! 腹痛い! 腹痛い!」と爆笑している。……気持ちは分かるが、うるさい。

 対して天照アマテラスは顔を真っ赤にしながらも、まだ威厳タップリに、


 『っ。皆の者! わらわはこの者たちと腹を割って話す! 出て行ってくれ!』


 するとこの空間にいた神々全員がスッといなくなり……アスタロトの爆笑がより響くようになる。それから二十秒ほど立った後、ようやくアスタロトは自分がうるさい事に気付いたようで、


 『……ぁ。すみません。どうぞ、始めてください』


 (……やっぱコイツ空気に流されるタイプだ)


 それを再確認した。

 すると天照アマテラスがこちらに近づきながら、


 『まずはよくここまで来たな。建御雷タケミカヅチから聞いたと思うが、わらわたちは其方そなたをずっと監視していた。ここまでわざわざ来た理由も知っておる』


 天照アマテラスは腕を組んで言う。

 ……少し天照アマテラスの雰囲気が変わった。

 俺は恐る恐る、


 「それで……どうなんだ?」

 『……今からお主幾つかの質問を投げかける。その返答次第で其方そなた旗色はたいろを決めようぞ』


 (……質問?) 


 俺は疑問を持つ。確か建御雷タケミカヅチは俺の事を生まれる以前から監視していたと言っていた。ならば知らない事はないはずだ。

 

 (噓をつくかどうかでも見極めるのか?)


 よく分からない。だがこれも信用されるためだ。俺は頷く。

 そして天照アマテラスはニコリと笑い、質問を投げかけてきた。


 『其方そなたは具体的になにと戦っておるのじゃ?』


 (……具体的に)


 そう言われると自分でも分からなかった。だが、今の俺の憎悪が生まれたその理由は。その原因は。その根源は。

 ……俺は。


 「聖書の奴らだ」


 俺は自然と喉にあった存在を言う。ヤハウェとも言おうと思ったが、それは何が違う気がした。

 すると天照アマテラスは眉をひそめて、


 『やはりな。其方そなたは少し勘違いしているかも知れんぞ』

 「どう言う?」


 天照アマテラスの言っている意味が全く分からない。俺の敵はそれで合っているはずだ。何度憎悪し、何度も刃を……。

 



 『――唯一神




 天照アマテラスは無情に言う。思考が止まる。ただただ長い時間が過ぎる。

 3000年前。つまり約紀元前1000年。


 (モーセの十戒によれば、ユダヤ教が成立したのが紀元前1280年。キリスト教が西暦1年とみて……。つまりその間にヤハウェは眠りについていた?)


 今まで見て来た残酷な光景。今まで相手にした感情ない敵たち。今まで抱き続けた憎悪。死んだ仲間たち。殺された仲間たち。

 ――誰に?

 天照アマテラスは続ける。 


 『……おそらくは天使辺りじゃろうか? 奴らになにかされたか? そしてその上の存在であるヤハウェに恨みがいったとか。またはもっと恐ろしい……』


 するとずっと沈黙を貫いていたアスタロトが、気まずそうに、


 『あ、あの~。……えっと……質問なんですけど……。なんでクロムをずっと監視してたんですか?』

 『それは言わぬ』


 天照アマテラスは即答する。

 対してアスタロトは一瞬「え!?」と言う顔をするが、負けじと、


 『ぇ。じゃ、じゃぁ……なんでクロムと直接合わなかったんですか? ……会う機会なら……質問をする機会ならいくらでもあったはず……』


 すると天照アマテラスは、アスタロトを少し嫌そうな顔で見つめて、


 『それはアスタロト、其方そなたのせいじゃ。其方そなた刹那髪セツナガミと言う重要人物と、身勝手に契約を交わしたせいで、だ・い・ぶ・予定が狂った』

 

 少し威圧的に言った。

 アスタロトはポカンとした顔になる。


 『それになんじゃ。ここ数年、我が国で其方そなたを合わせて五体もの悪魔が確認されておる。どういう事じゃ……何を企んでおる!』


 アスタロトは「え……知らな……」とガチ知らないような声を漏らして、


 『……あ。ぇ、ぁ……。すみません』


 アスタロトは謝っているがコイツは悪くないと思う。おそらく「とりあえず謝っておこう」と言うアスタロトの戦法。「周りが言うから」ってやつだ。本当に流されやすい奴である。

 しかし今の会話中々重要な会話だった。……違和感を覚える箇所が存在する。


 「……どういう事だ? ずっと監視していたんだなら、アスタロトと契約する前でも、いくらでも会う機会はあったはずだぞ?」 


 聞いている感じ、俺たちが天照アマテラスに用があったように、天照アマテラスも何か俺に元々聞きたかった事があったらしい。

 天照アマテラスはアスタロトが邪魔したと言っているが、ならアスタロトとの契約前ならいくらでも聞く時間があったはず。

 すると天照アマテラスは眉をひそめて、


 『これは二つ目の質問じゃ。……確かに監視しておった。その左足や気の事も含めてじゃが――』


 天照アマテラスは俺の目を見つめて――それは本気の目だった。


 『――其方そなた姉君あねぎみの誕生日の夜。そしてその二週間後から、天使・ザドキエルの襲撃まで……。?』


 (…………は?)


 どういう意味だ? 今まで頭の中でまとめて来た構想が一気に崩れ、真っ白になる。それは「なぜ?」気持ちだった。


 (ずっと、監視……してたんじゃ?)


 天照アマテラスは一度目を閉じ息を吐き、


 『……少し話を変えよう。……其方そなたはなぜ――?』


 質問の意味分かる。だがその本質の意味が分からない。

 あのタイミングで契約した理由。……やはり一番はミズチがやられたと思ったらだろう。敵を取りたい。殺したい。逆襲。そんな気持ちで……。


 「……逆襲のため」


 天照アマテラスは乗っかるように、


 『逆襲ならあのタイミングではなくても良かろう? わらわたちが監視できなかった期間。その間に契約し、力をつける事も出来たはず』

 「……分からない」


 今思えばそうだ。なぜその今まで、悪魔と契約すると言う手段を取ってこなかったのだろうか? ただあの時は無我夢中でやっていたが……言われてみればおかしい。

 天照アマテラスは半目で、そして神妙な顔つきで、


 『では更に深掘りしよう。其方そなたは――――』


 ゆっくり目を開ける。




 『――――【破滅の願いカプラス】と、呼ばれるものに触れたか?』




 意味の分からない単語。だが天照アマテラスのその雰囲気からして、それが重要な事なのは伝わってくる。


 「知らない。確かアスタロトも言っていたな……。なんだよ、それ?」


 俺は思った事を素直に話す。

 対して天照アマテラスは、少し見開き何かを考えるような……。


 『なるほど……。少しずつじゃが――――』


 瞬間、世界ガ割レタようナ。






 ――――これが天照大御神アマテラスオオミカミ






 『これが其方ソナタ形式ケイシキか――!!』


 




 それと同時に、天照アマテラスとはの力が――上、から?


 ――ゾッ


 (……この感じ!?)


 『何事じゃ!?』


 天照アマテラスは焦りの表情。

 すると後ろから、


 『【稲妻いなずまおと 龍轟りゅうご】』


 建御雷タケミカヅチの声。俺はそちらに振り返って――同時にそこが光と爆発に積まれる。


 『建御雷ズッチー! 何があった!』

 

 天照アマテラスのその声に建御雷タケミカヅチは跪いて、


 『報告致します! 現在高天原たかまがはら神宮上空にミカエル・ザドキエル・メタトロン、並びその他天使約十五万が出現し、攻撃を始めました』

 『「『なッ!?』」』


 俺たちは驚きと焦り……そして絶望の声を上げる。

 だが……絶望はまだ……。


 『そしてなかくに神宮・内宮外宮。共にカマエル率いる「破壊の天使軍」約一万二千も――』


 その瞬間、真上で強い霊力がッ。

 この感じ、知ってる――【天裁光バベル】――あの時以上のッ。


 (【瘴皇気ミアズマ】で防げるか!?)


 すると、


 『【炎王えんおうおと 天之焔照あまのほでり】』


 天照アマテラスが天井向かって手をかざし、真っ赤な炎を――そして【天裁光バベル】が天井を突き破り相殺される。

 高位の力のぶつかり合い。俺が割って入れる状態でもない。

 天照アマテラスは直ぐ俺に向かって、


 『あやつらの狙いは刹那髪セツナガミ、そしてアスタロトお前らじゃ! 今すぐ建御雷ヅッチーと――!?』


 ――――遥か上空で全てが燃える、終焉を呼び寄せる霊力が――天災の炎【神焱柱メギド】。

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