第42話 愛と美の天使
ドクンッドクンッ……。
クロム君と一緒にいると、いつも感じるこの鼓動。クロム君が視界に少しでも映れば、自然と目を追いかける。その少し長い黒髪。前髪に赤のメッシュ。美顔。私の大好きな大好きなクロム君。
しかし私は時々彼の事が分からなくなる。……いや、よくよく考えて見れば、分からない事の方が多い。彼が何者で誰で、どうしてこうなっているのか……?
目の前にいるのに、凄く遠くにいる感じがする。
あの家でのクロム君の言葉を思い出す。
(……お姉さん……いたんだ)
誰も話題に出さないが皆そのことを考えているだろう。それに、
(ミズチの上司の人もクロム君を……)
考えれば考えるほど、沼にはまっていく感覚。どうして良いのか……全く分からない。分かんない……分かんない……。
目の前にいるのに、凄く遠くにいる感じがする。
駅のホームで考えていた。現在私たちは電車を待っているところだ。前から二両目。おそらく後二分ほどで電車は来る。
そして前には少し違和感がある……普通に立っている私より背の高いクロム君の背中が……。
目の前にいるのに、凄く遠くにいる感じがする。
ふと、
(……聞いてみよっかな?)
そうだよ。クロム君は目の前にいる。なら直接クロム君に……。
「クロムくッ……」
しかし言いかけた途端、
『まもなくぅ~――――』
駅のアナウンスが流れて、言いかけた事が止まってしまう。
(……ぁ)
「ん、何だ?」
クロム君がこちらに顔向ける。ドクンッと鳴る心臓。
そして私はハッとした。
「あ、いや……何でもない……」
「あぁ、あっそ」
(……何考えてるんだ、私)
自分に嫌気が刺した。
同時にまた私の好奇心が、
(……何で聞かなかったの? 聞きそびれたじゃん。これじゃあ分かんない……)
二つの私の考え、そして思いが頭の中でぶつかり合う。
そして目の前にいるクロム君の事が更に分からなくなる。考えれば考えるほど苦しい。辛い。身体が痒い。怠い。
目の前にいるのに、凄く遠くにいる感じがする。
すると、
「おい、日下部。前」
気が付くと目の前に電車が来ていた。もう扉が開いている。
(…………)
視界に映り込むクロム君。
(……何でクロム君は私達に何も言ってくれないんだろ?)
分からない。
目の前にいるのに、凄く遠くにいる感じがする。
(私達の関係は?)
仲間?
ならどうして教えてくれないの?
どうして信用してくれないの?
目の前にいるのに、凄く遠くにいる感じがする。
(仲間だと全部教えるの?)
分からない。
目の前にいるのに、凄く遠くにいる感じがする。
「日下部っ!」
「え!? ……あ、ごめん。ボーとしてた」
私はミズチの声で現実に戻る。周りが見えなくなっていた。駅の慌ただしい騒音が耳に入ってくる。
(……あぁ、もう……分かんない)
そして私は電車の中に入っていった。
◈ ◈ ◈
そして座席に座る。俺はワクワクしていた。実は俺は電車に乗るのは人生で初めて。なのでここに入るのにも色々と手間取った。特に切符? だ。固い紙切れみたいなやつ。これをよく分からん装置に入れ、直ぐで取らないといけないだとか……。
(……なんで捨てただけで怒るんだよ……捨てちゃダメなのかよ?)
事実俺の手元にもう切符はない。理由はトイレで捨てたからだ。……レシートみたいな物じゃねぇのかよ? そして駅のホームでミズチにめちゃめちゃ怒られたのだ。……死ね。
それに今更だが何故かこちらを通行人の人がジロジロ見てくる。ミズチはサングラスにマスクで全国指名手配でも負けないかっこをしているが……。どちらかと言えばその視線はミズチや俺ではなく、結子に向けられている気がした。
(ここら辺の人間は可愛いやつに目がないのか? ……やめとけ、コイツはダメだ)
この視線は嫌な感じがする。
そして景色が移動し始めた。
(へぇこれが……。電車って思ってたより……)
普通。それが俺の感じた事だった。言うならば少し速い車。なんにも楽しくない。……正直期待外れだった。
俺は意識を目の前に戻す。そこではミズチが神宮に着いてからの事について話している。
「――で、電話の相手がいつ、そしてどこでコンタクトを取って来るのかも分からない。……伊勢神宮で落ち合おうと言っていた。じゃあ伊勢神宮のどこだ?」
確かにそうだ。ミズチは続ける。
「それに電話の相手の目的も分からない……。クロムに、
「あったらもう言ってる」
「はぁ~」
ミズチはため息をついた。
(……思考のしかたがミズチらしくない)
まぁ誰だってこうなるだろう。現に電話の相手の情報がなさすぎる。
ある情報と言えば、伊勢神宮にミズチの知り合いを連れて現れる。そして目的は俺。それだけだ。
ここまで来ると、俺の考えとしては……。
(……考えたって無駄な気がするんだよなぁ)
それにミズチのウジウジ話はもう聞きたくない。
後は状況に任せた方が良い気がする。
「電話の相手の目的はクロム……。クロムの何が目的だ?」
正直もう面倒くさかったし、やや頭に来たので、
「……ミズチ、お前一回寝ろ」
「はぁ? お前の事なんだぞ……少しは自覚を持て」
少しピリピリするミズチ。
俺は感覚的に、
(あぁ……これ俺の意見言ったら更に面倒くさくなるやつだ。俺知ってる)
まぁ確かにミズチの言う事も一理ある。電話の相手は俺たちの情報をかなり持っているようだった。ミズチが危険視する理由も分かる。
ただ個人的にはあくまで目的は
それに更に言ってしまえば、俺はミズチの仲間に全く興味がない。一言で言えば赤の他人。死んだって俺には関係はない。俺に関係ない人物が死んだって俺はどうだって良い。
ただそれがミズチに関係のある事だと思うと、どうも嫌な気分になる。他人と思えなくなるからだ。
――――他人は死んでも良いけど、他人が死ぬのは嫌だ。死ぬなら勝手に、俺の意識外で気楽に死ね。
瞬間、
『ん?』
「どうした? アス――――!?」
(……強い霊力!?)
ザドキエル程ではないがそれでも強い……。それがこちらに……上空から迫って。いや、俺たちが乗っている電車がそこに向かっているんだ!
おそらく上位の天使。
『……この感じ。私と根源が近い? アイツか、ハニエルか!』
瞬間、鋭い霊力が真上から俺にッ!
ズㇲッ――。
俺はそれを間一髪でかわす。
(……な!?)
それは電車に突き刺さる。
――――ドクンッ。
それを見た瞬間、心臓が跳ね上がった。
その黄金の槍が――――。
記憶が再生される。……七本の槍が姉ちゃんの身体を突き刺して。紅い液体が滴り、内臓は飛び出したその姿を……。憎悪が身体を浸食していく感覚。
するとアスタロトが、
『な、
確かにあの時の槍とは少し違う。……所々錆びている。
突然、ドクンッ。槍がまるで生きているように脈をうった。そしてそれから膨大な霊力がッ……!
(……ヤバい!?)
俺は瞬間的に、
【
俺は【
「な!?」
まるで時間が動き出すようにミズチが声を上げた。
ミズチに見えていると言う事は霊道具なのだろう。しかし感じる。そこらの霊道具とは――――。
――――格が違う。
瞬間、また空から霊力がッ!
『【
キンキッィミィ!
上空でアスタロトの張ったであろう【
するとアスタロトが苦と驚いた様子で、
『っ、な!? なんでこんなに強――』
バリンッ。
アスタロトの【
(来るッ!!)
俺は瞬時に上に【
刹那、
ズュズズジュジュッ――。
(っ、なん!?)
弾丸の嵐とはまるで違う。霊力と空気の無数の斬撃、【
(ヤバい、俺の【
瞬間、
ヴァンッ!
もの凄い音を立てて、電車の一部の壁が弾け飛ぶッ!
そして視界に映った。
「きゃあぁあああぁあああ!!」
「結子ッ!」
電車の外に放り出される結子の姿を……。
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