第13話 言霊の呼び声
私、
――後悔は?
刑務所で言われた言葉だ。私はもう一度あの状況に陥る事があるのならば――また撃つ。そう答えると刑期をなくす変わりに、ある組織に入ってくれと言われた。
だから私はここにいる。二台の黒い大型車の中。武装をして、選ばれた同類達とここにいる。
「――でなにか質問は?」
作戦の最終確認が終わり、今回の現場指揮官である
しかし私としては、それよりも、
(今回の作戦……どういった意味が?)
やる事はいつもと変わらない。ただ悪を殲滅する。治安を守るために。
しかし今回はどうにも引っ掛かるのだ。
今回の作戦内容は、違法建築された地下三階建ての施設を制圧する事。地上一階喫茶店の裏路地に階段があり、そこから侵入。あとはそのまま下に行くだけ。
下水道から地下三階に入るルートもあるが、そこは出入り口が小さくて一人と通る事がやっとの梯子。とても現実的ではない。
ちなみに下水道への出入り口は、予め外側から塞いでおく。逃げられないようにするために……。徐々に上から追い詰める。それが今回の作戦。たったそれだけだ。
今までも制圧の命令はよくあった。市民にバレないよう、その場所や地区を制圧。ビルを丸々制圧すた事もあった。
しかし、
(……殺す。)
あまりにもド直球な言い方に少し動揺している。今まではしょうがなく殺す事はあったのだが、本当に殺しても良いと言われたのは初めてだった。どんなに危険なミッションでもこんな事はない。
――それも今回は、人を殺す事を
「人間は……どうするんですか……?」
私は恐る恐る指揮官に聞いた。すると車内の空気が一瞬にして重くなる。ただでさえ重い空気が更に。
すると指揮官は十秒ほど沈黙した後、
「制圧、それを心がけよう。……いや、今のは忘れてくれ。こう言うのはハッキリさせないとダメだよな……」
すると指揮官は息を吐き――覚悟の決まった顔をして、
「目的はあくまでも制圧。それ以上もそれ以下もない。抵抗する者は殺す。逆に抵抗しない者は生かそうと思う」
彼は私を見て言った。その瞳は震えている。彼にも色々な葛藤があるのだろう。人を殺したくはないと、その瞳は言っている。
彼は出来るだけ殺したくないのだろう。
対して私は――嬉しかった。
「了解」
(人を殺す……人を殺す……。人を殺せる……。悪を殺せる……)
あの日、上官を撃ち殺した時から思っていた。
――悪い奴は死ねば良い。
上官は私を犯そうとした。
そして目的地に着いた。悪の本拠地に。
◈ ◈ ◈
「指揮官。本当にただの住宅街に……少し行った場所に大通りがある程度ですが……」
(……狂気的な眼)
コイツは普段は静かで大人しい奴だ。食事中、睡眠中、訓練中。そして銃の腕はこの部隊一番。エースとも呼べる存在だった。
ただ人の命が関わる時、コイツは少し変わる。なんと言うんだろう――積極的になる、とでも言おうか? ……少し恐い。
(俺もそうこう言える人間ではながな……)
「あぁ、だから隠密に行くぞ。バレないように」
この部隊には一つ心掛けているものがある。それは周辺住民に我々の存在をバレては行けない事。あくまで隠密かつ極秘に。何事もなかったように、決着をつける。
作戦資料によれば、地下施設は防音設備が備わっており、大抵の音は消せるはずだ。
(……車が止まった)
時刻は二十三時十八分。窓の外には少し広めの路地。そして路地の向こう側の道には黒い大型車。
時刻が二十三時二十分になる瞬間。我々とあちらから路地を挟むよう占拠、そして地下へと侵入する。
「司令、作戦位置に着きました」
俺はパソコンに呼びかける。
すると勝手にパソコンが起動し始め、司令の声が聞こえて来た。
「そうか……健闘を祈る」
いつもの言葉だ。
しかしいつもならそれで終わりなのだが……。
「あぁそれと一つ。荷物になるかも知れないが、今回はトランシーバーを持って行ってくれ。作戦成功、または何か状況が変わり次第、直ぐに連絡……良いね?」
(……トランシーバー?)
いつもは持たされないアイテムだ。
この部隊は全て訓練通りに動く。全て合図や鍛え上げたその感覚に任されている。
そんな中での連絡を取る手段、トランシーバー。それも部隊の仲間同士ではなく、司令との。……今までにこんな事はなかった。
「了解」
(余計な事を考えるな。今は目の前の作戦に集中しよう)
俺は軽く深呼吸。
そして、二十三時二十分。
◈ ◈ ◈
「な、だ、誰だ!?」
そう言ってその中年の男は、豊明に撃たれた。おそらく腰にある護身用の銃を取ろうとしたんであろう。しかし取るまでが遅すぎる。豊明はその銃を取ろうとした瞬間、彼の頭を撃ちぬいた。
(銃を出す事も許さないか……)
確かに抵抗する者は殺す。その他は生かす。
(そう答えたが……これがこの女の本性か……)
予備動作のみで相手を殺す。抵抗する者は殺す。抵抗する意思を持った者は殺す。――動きがいつもよりも生き生きとしている。それほど殺すのが楽しいのか? 俺には理解出来ない。
それにしても、
(柔すぎないか?)
俺は意識を周りに切り替える。現在は地下一階。
正直思っていた以上にこの地下が弱すぎる。まるでただの一般人と遊んでいるようだ。
(違法建築……それにヤクザ林村亮太……)
それならばそこらの警察でも良かったはずだ。適当に情報を流して、中を調査すれば一発で終わりだ。それなのにも関わらず……。
俺はてっきり、この地下自体の防衛システムが高く、攻略が難しい。または、技術の高い人間・訓練された人間が多いとか……。そう言った事を考えていたのだが――。
(今のところ一人。リボルバーの女ぐらいか?)
訳の分からない日本語を言いながら、機敏な動きとリボルバーを使って抵抗していた女。ソイツが仲間の一人を撃ち殺しやがった。アレは相当な腕前だ。
そして目の前に地下二階への階段。その女もこの下に逃げて行った。
(ここには四十名ほど人間がいると聞いているが……)
現在投降者ゼロ。死亡者十七名。その死亡者のほぼ全てを豊明が殺していた。相手が投降を選ばない気持ちも分かるが、これじゃあただの殺戮。……早く負けを認めてもらいたい。
正直、豊明一人だけでも攻略出来なのではないかと疑うレベル。そうなってくると目の前の作戦よりも、どうして俺たち何だ? と言う感情が再度芽生え始める。
(階段も……地下二階も変わっているところはなし……)
ここまで来ると、逆に今までのそれもが、相手の計画通りだと思ってしまう。だから警戒する。……しかし何も起こらない。
すると部隊の一人が、
「大丈夫……なんでしょうか?」
普段は意識外で会話はしないようにしているが、今回は異常。声を出してしまうのも頷ける。
「あぁ、戦況は見ての通りだ」
殲滅、蹂躙、虐殺、殺戮。それが今目の前に見える全てだ。
突然、目の前に……学生服を来た――。
(
「えっ……」
その女の子は驚きの声を洩らす。
それは名門中の名門。超お嬢様学校。
(なぜこんな場所に!?)
ここはヤクザの地下施設。そんな場所になぜ羽束之宮の女子高生が?
しかしそんな事を考える暇もなく、すると、
ダダダダダダダダッ――――。
(豊明、何してる!?)
目の前の女子高校生はまだ何もしていない。銃を出そうともせず、逃げようともせず、怪しい動作もしていない。ただ目の前に現れただけ。
対して女子高生は何とかそれをかわして、
「おいッ!!」
俺は豊明に怒鳴るが――豊明がこっちを見た。それは鷹のような恐ろしい瞳。思わず身体中から鳥肌が立つ。
瞬間、
「きゃァアぁアアあああっ!!」
女子高生が悲鳴を上げる。
その声はとても……芯に響くような……。
◈ ◈ ◈
結菜が出て行ってから三十秒ほど経過した。
東ミズチは俺を睨んでいる。対して俺はそれを見つめる。そして思う。自分自身も分からない人間が信用される訳もない。
噓も付いていない。全て真実だ。だがそれよりも相手がどう受けるか……それが重要なのだ。
すると東ミズチが、
「……悪いが出て行け」
想像通りの答え。だがしかない。
俺は諦めの気持ちで憂鬱になる。
瞬間、
――――ドクゥンッ。
(霊力ッ!?)
『きゃァアぁアアあああっ!!』
耳、鼓膜ではない。どちらかと言えば脳に直接響く感じ。それが、霊力が、音が、声が――悲鳴?
そう頭が認識した途端、思考がアクセルを踏んだ。
「……何だ、悲鳴!?」
(東ミズチにも聞こえている……ッ)
思考が火花を散らし、嵐のように弾け――。
霊力――悲鳴――音――【
ギャアアァアアアァァアアアアァアアアアアア!!
――――ドクゥンッ。
脳裏に断末魔が響く。
それは【
誰が――誰が助けを求めている――?
――――ドクゥンッ。
◈ ◈ ◈
運命が破られる。
◈ ◈ ◈
すると部屋に、見た事のある金髪の女性が焦った表情で姿を見せた。
「大変です、林村さ――!?」
俺はベッドから飛び上がり、扉の方へ――そしてソイツを突き飛ばした。獣のように。
「邪魔だっ!!」
そして三足歩行で、その施設内を走る。無我夢中で。上への階段を見つけるために。【
もう周りの事など考えてはいられない。ただ最悪な事態が脳裏を駆け巡る。俺は化け物のように走る。
――――ドクゥンッ。
救う。助ける。
◈ ◈ ◈
◈ ◈ ◈
狂気が――漏れる――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます