第08話 猫被り化け猫
俺の手に、
――だが。
◈ ◈ ◈
少し時は
例の橋、そこからほど近い森林のような公園。そこに私、
すると……。
(人混みが……パトカー、警察?)
いつもここに来る時は決して見ない光景。身体中から嫌な汗をかく。大きな胸騒ぎ。……私の脳内には、こうなっている心当たりしかなかった。
頭の中でじっちゃんの顔と
(まさか……橋の下のアレが見つかった!? あの人は無事なの……ッ?)
しかしまだ決まった訳ではない。そして幸運にも何があったのか知っていそうな人は目の前に沢山いるのだ。
一度深呼吸をする。そして周りを深く認識し――。
「すみません。ここで何かあったのですか?」
その女性は一瞬目を丸くし「えっ?
「えぇ、そうなのよ。私の家は直ぐそこにあるんだけどね。実はこの公園で銃声を聞いたのよ」
(……ビンゴ)
やはりこの女性を選んで正解だった。野次馬の一番前に構えていた五十代前半くらいの女性。ここに来てから私が見た限り、何回か警察の人から声を掛けられていた。しかも喋り方からして通報者本人。
だが問題はその内容。
(銃声……?)
心当たりしかない。じっちゃんは銃を持っていたはずだ。嫌な汗が止まらない。少し血の気が引く。
「しかも何日か前にも聞いてねぇ。その時は子供のいたずらだと思ったのだけど……。今日の朝はハッキリと聞いたわ。それでね。その時近くにいた人達で話し合って、その音の方へ行ってみたのよ。そしたらね……」
心拍数がどんどん上がる。嫌な予感。心当たりしかない恐怖。目の前が真っ白になにそうだ。
しかし探求心が真実を追い求める。
「そしたら?」
気付いたら口は動いていた。
思考がフル回転する。
「……本物の銃が落ちていたのよ」
(どうする、私は?)
本当はもっと知りたかった。聞きたかった。
例えば「その場所はどの辺りですか?」とか「銃はどんな形でしたか?」とか……。
しかしそんな事を聞いてしまえば、私が気味悪く思われ、怪しまれる可能性が出てくる。なのでここは悔しいが、
「そうですか怖いですね……。私も犯人が逮捕されるまでは用心したいと思います」
「流石、
そこから先はこの人ではなく、警察の方に会話に意識を集中した。今二人の刑事が何が話している。この件の重要な情報を。
途切れ、途切れだが……。
「松岡先輩、例の銃から指紋が――――れたそうです」
「――――で、――――たか?」
「実はその――――血が付着し――――です。あとっ」
そこで別の人物が会話に入って来る。
「クックックッ、例の銃。『M19――ルト・ガ――――』。良い銃なのにねぇ~。とても残念だよ」
「黒川。お前も来ていたのか……」
「――――すよ。あと辺りで何発か銃――――のかったそうです。そしてその銃弾と例の銃の――――一致しました」
そこで、
「あら、こんな話に付き合わせちゃって、ごめんなさいね。今からテニス、部活動かしら? 頑張ってね!」
その女性はニコニコ笑顔で、満足そうに微笑む。
女性の長話が終わったので、私も言葉を返さなければ……。
「ありがとうございます。頑張ります。では、ごきげんよう」
そう言って私は頭を下げて、高校の方角に立ち去った。
今ので得た情報は、警察が集まっていたのは銃が見つかった事。そして何よりもあの橋の下の事を、まだ警察は知らない事。分からない事は、あの人はこの事を知っているのか……。
そして不思議な事が二つほど。一つ目は、
(じっちゃんが持っていた銃って『ワルサーP38』だったはず……)
警察は『ワルサーP38』とは言わずに、『M19――ルト・ガ――――』と言っていた。
そしてもう一つ。
(何日か前にも銃声を聞いた……)
謎が謎を呼ぶ。分からない事が多すぎる。
警察、知らない銃……そもそも関係ないのかも知れない。しかしそれでもアレが見つかる可能性。そしてじっちゃんがこれを知らなかったら……。
そう考えた瞬間、私は既に動いていた。
(良し、行くか!)
私は誰にも気付かれない事を祈りつつ、公園の奥地の奥地。目的地。例の橋に向かった。
◈ ◈ ◈
そして私はソレと出会った。初めは人かどうかも疑った。ゾンビだと思った。
ソレは
黒髪――そして前髪の一部が赤く染まっている髪の毛は、
次に身体。こんな時期なのに半袖の黒い無地のTシャツ。顔と同じ紅と黒と茶色の腕。最後に足が――左足がなかった。
三秒ほど脳内が停止する。そして再び思考が動き出し、その瞬間に全てを察した。
――――コイツが、じっちゃんを……。
◈ ◈ ◈
俺は彼女を川から引き上げるために右腕――手を伸ばす。しかしその手は彼女に触れる事はなかった。
だが、
――ガシッ!
「落ちろっ」
(――殺意、
彼女の右手が俺の右手首を掴む。そして彼女は物凄い力で自分の方に俺を引き寄せ――俺を川へと。
「なッ……お前っ!?」
それは彼女の目を見れば明らかだった。憎しみと怒り。俺に向けられる突き刺すような殺意。俺を殺そうとしているのは明確だ。
瞬間、頭の隅でジジイの言葉が呼び起こされる。
――――化け猫とでも言おう。普段はその辺の奴と普通に絡んで、裏では私のようなもの……。ヤバイ連中となに食わぬ顔でつるんでやがる。いや……その表現はおかしいかもなぁ。もう普通と私のような者との境界線がないのかもな。そういう奴だ。
(この女ッ!!)
初めから俺を殺すつもりだったんだ。よく見れば、コイツは魚取り罠の紐に捕まり、流されないようにしている。そして俺が焦って引き上げようとしたその時を――全てコイツの計画。
そう考えた瞬間、生存本能は己を刺激し身体は動く。
右手は掴まれている。左手と右足は落ちないよう踏ん張るので精一杯。ならば残りの動く場所――頭。
「放せッ!!」
「痛っ!?」
俺は頭を突き出し、彼女が掴んでいる手に噛み付く。これにはコイツも予想していなかったようで、彼女の右手は直ぐに緩み――俺の右手は脱出する事に成功する。
……と、一瞬気を抜いてしまった。
彼女の右手の拳が、俺の顔面に
「ジズゥッ!」
俺は声にならない悲鳴を上げ、その場を転げ回る。
その隙に奴も自分で川から這い上がり――近くに落ちていた鉄パイプを手に取り、俺の上で振り上げ――。
「――馬鹿がメス豚がァ!!」
俺が痛がっていのは全て
俺は直ぐに体制を立て直し、コイツの足目掛け蹴りを入れる。右足で反動を付け、蹴りを入れるのであまり力はないが――身体の使い方なら負ける気がしない。
そして俺は彼女の足を引っ掛け――彼女を倒し、直ぐに飛びかかって馬乗りになる。だが彼女も諦めずに暴れる。左足がないのでバランスを取りしずらい。おまけにコイツの馬鹿デカいおっぱいのせいで拘束しずらい。
俺は彼女の顔ビンタして、怯んだところを左手で彼女両手を掴み取り、頭上へ。そして右手で彼女の首を掴み、
「――――暴れるなよ
軽い脅しを言って見たが……しかし彼女は物凄い力で暴れる。このままだと身体のバランスを取ることも難しい。彼女を解放してしまえば、また俺の命が危うくなる。
もう時間もない。選択の時だ。
(川にまた落ちてもらうか? それともこのまま殺すか?)
すると彼女は、
「じっちゃんを……ッ! よくもじっちゃんをッ!!」
「はぁ?」
俺は今までの焦りを忘れ、素で声が漏れる。
彼女の今の言葉から察するに、彼女の中では俺があのジジイを殺した事になっていると言う事。
「俺、あのジジイ殺してねぇぞッ!」
――グラっ……。
(しまっ!?)
視界が横に倒れる。身体が遂にバランスを崩してしまった。俺は彼女を解放してしまう。
彼女は俺から二メートルほど距離を置き、
「噓だッ。じっちゃんは
その狂気とも言える言葉に俺は――怒りが湧く。焦りは当の昔に通り越した。ただ俺の中で意志が爆発する。
「あのクソジジイっ! こんなメス豚よこしやがってぇえ!! どいつもこいつも……ッ! 協力者? ふざけやがって、何が協力者だ!! あのクソジジイ、次あったら覚えてろよ、一発ぶちかましてやるッ!! それに――――」
刹那ッ。
――――スッ。
全身から鳥肌が立つ。それは彼女からではない。それは何度も味わって来た感覚だ。
ずっと追われ、追われ、追われ続け、何度も俺を救って来た俺の第六感――霊感。
(天使ッ!!)
攻撃が来るッ!
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