第172話 目的地はイシーマ大神殿

「イシーマ大神殿は砂漠の地下にあるんだろ? じゃあ地上を歩いて行くしかないか」


 地図を前にして、俺は首をひねる。


「そうでもないぞ。こういうのは大抵、本来の出入り口があるんじゃ。わしが知っている限り、古代文明時代のイシーマ大神殿は地上にあった」


 シーマが詳しく解説してくれる。


「砂漠の流砂に呑まれた者が、たまたまこの大神殿を発見したと言われておる。そやつはさらに砂に乗り、海に出ていたそうじゃ。つまり……海に出入り口がある」


「なるほど……」


「海と言えばあたいの出番だね?」


 人魚のロマが横合いから顔を出す。

 最近、大活躍のロマなのだ。

 彼女を仲間にして本当に良かったなあ。


「ロマ、おぬしの力は確かに必要じゃが、その前にホリデー号を水陸両用にせねばな」


「あー、それはあたい一人の力じゃ無理だねえ……。仲間を連れてこないと」


「二人共、なぜ左右から俺をぎゅうぎゅうしてくるんだね……!」


「そうせねばわしが示したものが、ロマに見えぬではないか」


「そうだよ。あたいは別に他意があってオクノに押し付けてるんじゃないからね? ちなみにキスで魔法を送り込むのはノーカンと言われてたけど、あれはあれでありじゃないかと、あたいは思うんだけど」


「や、やめろ、ここで俺に新しいモテ期を送り込んでくるのは!」


 割とメイオーのことでいっぱいいっぱいなんだぞ!


 ここは船長室。

 ラムハやアミラ、ルリアにカリナの目が届かない場所である。


「団長、人魚の方々の技術力が気になりますね」


 イーサワが平然とした顔でメモを取っている。


「彼女達に船を改造する力があるなら、イシーマ大神殿に向かえるでしょう。そこが一番、世界への影響が少ない場所ですからね。試す価値はありますよ」


「イーサワ、俺が女体攻めに遭っているというのになんて冷静な……」


「団長はもてますからね。それくらいはいつものことですし」


 ハッハッハ、と笑うイーサワ。


「それはそうとして、ロマさん。あなたの仲間には船を改造する力があるのですか?」


「おうさ! あたいら、寿命が人間の何倍もあるだろ? 古代文明……ってえの? それの当事者がこの間まで生きてたからさ。技術がちょっと残ってるんだよね。もちろん、あたいらが使うようなものじゃないし、あたいがいた村の人も使いこなせなかったからねえ。消えていく技術だと思ってたんだけど」


「消える前に有効活用しようではないか!」


 ──ということになってしまった。




 船は一路、ロマと出会い、潜水艦と戦ったあの漁村へ。


「おーいみんなー! 出番だよー!!」


 ロマが海に向かって叫ぶと、水面から次々に人魚が顔を出した。

 ここで俺、ハッとする。


「これは……なんか女子しかいないんですが」


「そりゃあそうだよ。あたいら女しかいないもん。人間の男を使って繁殖するわけよー」


「なんて下世話な言い方をするのだ」


「事実だもの。んで、長い寿命を使って、男を見定めるわけ。これはと思った男とまぐわい、子を残す。それが人魚よ」


『チナミニ人魚ハ、古代文明時代ニ実験デ生マレタ人間トもんすたーノきめらデスゾ。遺伝子的ナ理由カラ女性シカ生マレナクテデスネ』


「おっ、詳しいなダミアンG! お前完全に過去の記憶を取り戻して……!! いやまあ知ってたけど」


「そう言えばこのロボみたいなの、あたいらのおばあちゃんの口伝に出てくるんだよね! もしかしてあたいらの祖先を改造した奴ってあんただったり?」


『ピピピー! めもりガ破損シテイマス。めもりガ破損シテイマス』


「おっ、しらばっくれた! こいつ何か知ってるぞ」


「吐け、ロボ、吐けー!」


 俺とロマにポコンポコン叩かれるダミアンGである。


「ロマー!!」


 人魚達が声を掛けてくる。


「やっぱ彼にしたのー?」


「この間見た時よりも全然たくましくなってるじゃーん」


「ほんと、人間って一瞬で成長するよねー」


「あっという間にオジイチャンになっちゃうけどねー」


「もののあはれよねー」


 人魚達がワイワイと喋っている。

 いかんいかん、本題を忘れるところであった。


 ここで、ぶれない男イーサワが船べりから身を乗り出す。


「人魚の皆さん、ご質問があるのですが!」


「あらいい男」


「あたしあの子でもいいなあ」


 イーサワ、髭面だがイケメンだからな。

 だが、女子達にキャッキャ言われたくらいではイーサワは動揺しないぞ。

 金銭面で困窮した時しか弱音を吐かない男なのだ。


「皆さん、古代文明の技術を持っていると伺ったのですが、船を潜航できるようにできるのですか?」


 すると、人魚達が真面目な顔になった。

 そしてワイワイ集まってきて、ひそひそ話をする。


 一人が振り返り、堂々とこう言った。


「あの、せんこうってなに?」


 言葉が難しすぎて伝わっていなかった!!


「イーサワ、君は頭が良すぎる。俺が伝えよう。えー! みなさーん! 船が水の中にもぐれるようにできますかー!」


「できるよー!」


「最初からそう言ってくれればいいじゃーん!」


 よしよし、どうやら本当に古代文明の技術を持っているようだな。


「ああ、なるほど……。感性で生きていらっしゃる……さすがは団長、一発で伝わりましたね」


 イーサワが感心して頷いている。

 すると、横合いからぴょーんと飛び出してきた人魚が、彼の隣に立った。水色のウェーブヘアで、薄い青の瞳をしたムチムチした子である。

 あっという間に、魚の下半身が人間の足になっている。


「じゃあ、こっちのちょっとイカした男の人、水の中に連れてくね?」


「はい?」


 イーサワがポカンとしていると、彼女は背伸びして、イーサワに口づけした。


「むぐ!?」


 そのまま手を取られて、水の中にドボンである。


 あれは水中呼吸の魔法だな。

 本当にキスしないと発動しない魔法らしいな……。


「なぜキスを……?」


「オクノくんが水中に行ったときもやはりキスを……?」


 いかん!

 ラムハとアミラから疑惑の視線が注がれてくる!!


「だ、団長ー!! 僕はこれから水中で、彼女達の技術を見てきます!」


「おう、頑張れよイーサワー!! ……あいつの貞操は奪われたな」


 経験者は語る、だ。


「水中かあ。海賊ぐらしは長いけど、船が水の中行くってのは初めてだなあ。水中呼吸はあれなんだろ? かわいい人魚にキスしてもらえるんだろ? 悪くねえじゃん」


 オルカおじさんがいやらしい笑みを浮かべているぞ。

 そして彼の後ろでは、アリシアが何やらイクサに尋ねている。


「イクサヴァータ様。もしやこの間水中で戦われた時……」


「あれは不可抗力だったのだ。信じてくれアリシア」


「正直なイクサヴァータ様……でもそれとこれとは別です……!!」


「すまなかったアリシア」


 イクサが押されている。

 世界で唯一、歯が立たない相手がアリシアなのだな。




 イーサワが戻ってくるまでの間、俺達は魚釣りをし、甲板で魚を焼き、がつがつ食ってはだらだらと過ごした。

 翌日の朝に、イーサワは戻ってきた。


「やはりげっそりしているな」


「団長……さてはこうなることを知っていましたね……。まあいいです。あ、もう離れて、離れて」


 ムチムチした人魚がイーサワにくっついている。


「昨夜はお楽しみでしたね」


「どうなんですかね……!! とりあえず、人魚の方々の技術は間違いありません。というか、人魚によって行使されるダミアンさんみたいなものが多くいまして。これに呪力を注ぎ込むことで稼働するようです。もうこちらに連れてきていますよ」


 水面に、ポコンポコン、とダミアンGみたいなドラム缶ロボが浮上してくる。

 左右に巨大な浮き袋を設置して浮いてきたんだな。


『オオーッ! 同型機ノ予感!!』


 ダミアンが両手を振り上げる。

 すると、ドラム缶ロボたちもわーっと両手を振り上げた。


「はいはい、じゃあ作業開始だよー! あんた達、どうせ船を水中いけるようにする工作とかできるんでしょ!」


 ロマの言葉に、ウェーイ! と叫んで応じるドラム缶ロボ達。


 よし、これから作業開始なのだ。


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