第80話 俺、潜水艦と戦う

 潜水艦は潜水艦らしく、浮上せずにホリデー号の下に潜り込もうとしている。

 こいつのでかさはうちの船くらいあるぞ。

 もしかして下からひっくり返すつもりか。


「やらせねえぞ! 水中戦したい人ー!!」


 俺が再び声をかける。


「はいはいはーい! あたしやるー!!」


「わんわん、わおーん!」


「水中だったら揺れないから余裕ですよね!」


「今回は私も行ってみようかしら」


 ということで、ルリア、フタマタ、カリナ、ラムハの三人と一匹となった。

 前回からの続行はフタマタだけだ。


「フタマタ、海中戦のなんたるかを女子たちに指導してやってくれたまへ」


「わんわん」


 フタマタが快く請け負ってくれる。

 実に心強い。

 さすがはうちの団の副長だな。


「オクノくん、今フタマタを団の副長だって思ったでしょ」


「ルリアにはテレパシー能力でもあるのか……!?」


「オクノ全部顔に出るじゃない」


 軽口を叩き合いながら水中戦開始だ。

 マリーナスタンス5初戦は、男だらけチームだった。

 あれはあれで強いんだが、戦いのときの咆哮とかがとても男臭くて大変である。


 今回は女子であり、華やかであり、でもそれ以上に変化に富んだ戦い方ができる。


 潜水艦は俺達に気付くと、大量のエビを射出してきた。

 人間サイズの戦闘エビである。


「エビエビーッ!!」


「また来たな。カリナ、合わせていくぞ。あいつらを接近させると面倒なことになる!」


「面倒ってなんですか?」


「数が多いから倒すのに時間がかかるんだ」


「それは面倒ですね! アローレイン!」


 俺もアイテムボックスから弓矢を取り出す。


「俺もアローレインだ!」


 俺とカリナが光の線で結ばれる。

 一旦、海上へと射出された大量の矢が、すぐさま雨となって水中に降り注いできた。


『アローレイン』


 まんまかよ!!

 あ、いや、同じ技だもんな、前と後ろを繋いだらそうなるよな。

 いつものアローレインに倍する量で、威力は連携してるから三倍くらいあるぞ。


 そいつはエビを次々と串刺しにしていく。


「エビビー!!」


「おいしそー」


「昨夜いきなり出てきたエビの刺身あるだろ? あれ全部こいつら」


「ほんと!? じゃあ後で食べよう!」


 ルリアの目が食欲一色になる。

 寄ってきたエビを、無造作なスウィングで麻痺させると、それをフタマタが牙で食いちぎる。


 ラムハは闇の障壁を作り、敵の動きを邪魔しているようだ。


 俺達はコンビネーションでエビの軍勢を打ち破りつつ、潜水艦へと肉薄した。


「なんつーか……。ぱっと見、俺が知ってる潜水艦じゃないんだよな。もっとスペース潜水艦っていう感じだ」


「そういうものがオクノの世界にはあるの?」


「ないねー。だから見たことあるようだけど、全然見たこと無いやつだこれ。ジェーダイの時代の潜水艦なんだろうな。オラッ、ドロップキック!」


 潜水艦までたどり着いたので、キックを食らわしてみる。

 おっ!?

 足裏の感触、堅いものじゃなくてゴムみたいな感じだ。


 潜水艦の無数にある窓みたいなものが、ピカピカと点滅した。

 反応したぞ。


 潜水艦がぐいっと、こちらを向いたように見えた。

 まるで生き物みたいな反応だ。

 だが、こいつは多分生き物じゃないよな。


 何というか……ロボットみたいなやつだ。


 巨体がぶるっと震えると、奴の尻から猛烈な勢いで水流が吹き出した。

 スクリューを回転させたらしい。

 結構な速さで、潜水艦が俺達の下から抜けていく。

 そして大きくターンをして……。


「突っ込んでくるぞ! みんな、俺の後ろに!」


「はーい!」


「わかりました!」


「頼むわよ、オクノ!」


「わおん!」


 一列になった俺達で、潜水艦の突撃を迎え撃つ。

 まずは奴から放たれる、魚雷群。

 エビじゃない。明確に魚雷だ。


 こいつを……!


「ブロッキング!」


 真っ向から受け止めつつ、爆発させる。

 ここで魚雷を避けるために潜水艦から離れたら、あいつは船まで直進しちまう気がするのだ。


 せっかく手に入れたホリデー号を沈められるわけにはいかない。

 こいつはここで止めるぞ。


 魚雷の爆発の後、巨大な潜水艦が突進してきた。


「こなくそー!」


 ピコーン!

『クロスカウンター』


「うおおおっ!!」


 潜水艦の突撃に合わせて、俺の体が動いた。

 奴の質量と速度をそのまま利用して……俺の拳……いや、水平チョップが水を切り裂く!

 硬質ゴムじみた鼻先に、チョップが突き刺さった。


 グオゴゴゴゴゴゴ!!


 潜水艦が叫び、一瞬、巨体がたわむ。

 そして、奴は弾かれるように頭上へと跳ね上がっていった。

 俺達も、潜水艦の勢いに押されて流される。


「わーん!!(ファイアウォール)」


「闇の障壁!」


 闇と炎の二重の壁を生み出し、俺達の勢いを殺した。


 クロスカウンター、こいつは今まで閃いてきたラリアットとか、パリィとか、そういうのの複合技みたいな感じだな。

 あらゆる打撃技を合わせられるっぽい。

 つまり、その時その時で最適な技をチョイスしてカウンターに使えるわけだ。


 おっと!

 技の品評をしてる場合じゃない!


「潜水艦を追うぞ!」


「ほーい!」


 ルリアが今度は先行した。

 跳ね上げられた潜水艦が、悪あがきに魚雷を放ってくる。

 こいつに向けてルリアが槍を振り回した。


「無双三段!」


 まだ二段だけどな。

 だが、槍の突きと払いを超高速で叩き込む技が、魚雷を真っ向から破壊する。

 爆発までが真っ二つになって左右へと割れる。


 強くなったなあルリア。


 かくして、水上へと尻を突き出す形になった潜水艦へ、追撃を食らわせるのだ!






 ここで状況は唐突に幕間へ。

 水上へと突き出したのは潜水艦の尾。

 それは水棲の巨獣のように蠢き、空を掻いた。


「むっ」


 舳先にてそれを迎え撃つのは美丈夫の剣士、イクサ。


「裂空斬!」


 思考するよりも速く、真空の斬撃が潜水艦の尾を斬り飛ばす。

 恐るべき切れ味。

 だが、切断された尾部から飛び出す者がいる。


「はっはっはあーっ!! 伝野湊つたのみなと様、ここに見参だあ! 多摩川の野郎、俺の潜水艦をぶっ飛ばしやがって!」


 オクノと年頃の近い少年だ。

 彼は腰に抜き身の長剣を四本ぶら下げている。

 そして、潜水艦の尾部に立ちながら、ホリデー号に立つ者たちを見回す。


「多摩川に一撃くれてやるのもいいが、ちょうどいい状況にやって来たようじゃねえか。はっはあー! この俺が、伝野湊様が、あいつの大切なものをぶち壊してやろう!! まず、そこの女からだあ! デュエル!」


 伝野と名乗った少年は、アミラを指差し、デュエルを展開する……!


「きゃあっ!」


 アミラは足元に伸びるデュエル空間に震え、後退った。

 その前に、一人の男が立ちふさがる。


「円月斬!」


 デュエル空間が断ち割られる。

 それは不完全なまま展開し……その男と伝野を飲み込んだ。


「なんだぁ……!? 空間を斬った!? 反則かよ!?」


 そこは巨大な剣の腹の上。

 虚空にそれだけがある戦場だ。


 伝野と向かい合うのは、金髪碧眼の美丈夫。

 業物の剣を構えた、無心(意味深)の剣士イクサ。


「てめえか、元帝国最強の剣士、イクサ! 元ってのはな、今は帝国最強は俺だからだ! この伝野湊! いや、七勇者テレポート様よ!!」


 伝野の姿が変化していく。

 それは四腕にして巨躯の戦士。

 肌は青く染まり、彼の故郷であるところの地球における、仁王像のような姿だ。


 四本の剣をそれぞれの腕に持つ。

 全ての剣が、禍々しい輝きを放つ魔剣。


 毒剣ボアーザル。

 炎剣ファビュート。

 氷剣コータル。

 雷剣バジス。


『多摩川にとっての右腕であるお前をここで殺せば、奴はさぞかし絶望することだろうなあ!! さあ、終わりだイクサ! このデュエル空間で誰にも看取られずに死ぬがい』


「裂空斬!!」


『ウグワーッ!?』


 テレポートの巨体の胸部に、真空の斬撃が炸裂する。

 あと、毒剣と炎剣と氷剣と雷剣がまとめて折れた。


 オクタマ戦団最強の一角、剣士イクサ。

 七勇者ごときの妄言に耳を貸すほどの脳内キャパはない。


 既に戦闘は始まったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る