第75話 俺、人魚に依頼される

 ついに船が出た。

 なんだかんだと、10日くらいまったりしてしまった。

 人間、ダラダラし始めると永遠にダラダラできるものかも知れない。


 もちろん、ただただだらけていた訳ではなく、オクタマ戦団の戦闘担当……つまりほぼ全員で訓練をしたりした。

 ここで、うちの団の強さランキングが分かったぞ。


 1位・俺、イクサ


 大体ここで互角。

 俺とイクサがやり合うと決着がつかなくなる。

 こいつ意味がわからんくらい強いな。


 2位・フタマタ、オルカ、ジェーダイ


 この辺で団子。

 2位で団子ってどうなんだって思うが、とにかく団子なのだ。

 陣形のときにはこの内の一人を入れておけば、攻撃力や防御力的にかなり強くなる。


 3位・グルムル


 安定。

 とにかくタフで、攻撃も呪法もそつがない。


 4位・ルリア、カリナ


 意外にもルリアがいいところにつけた。

 カリナは強いが、新しく仲間に加わったおじさん軍団に水をあけられて焦っているようだ。


 5位・ラムハ、日向


 ラムハは呪法メインで防御力がないし、運が悪いのでこの辺。

 攻撃力や呪法の汎用性なら結構なもんなんだが。

 日向はなんかこう、まだ一皮剥けられてない感じ。


 6位・アミラ


 回復メインだしこんな感じかなーと。

 攻撃以外の面で重要だし。


 不動の7位・イーサワ


 戦闘向いてないね、うん。



「団のマネジメント担当に戦闘力を要求するほうがどうかと思います!」


「悪かった、悪かったよイーサワ。なんか男の子として、誰が一番つええのか、とかやってみたくて」


「わかるわー」


「わんわん」


「男の子のサガですな」


 2位連中が深く頷く。

 ここのおじさんたちとわんこは、考えが同じなんだよな。


「いいんだもんねー。あたしたちは女子だからそこまで強くなくてもー。……グルムルさん、あとで練習付き合って……」


「ええ、いいですよ」


 最近、槍使い同士で特訓してるっぽいルリアとグルムル。

 カリナはカリナで、弓の練習に余念がない。


 よしよし、どんどん強くなるのだぞ。


「帆船で海を渡るのってロマンチックだよねえ……」


 おっ、訓練してない前線要員がいるぞ!

 日向がタルを椅子にして、高くなった船べりの手すりに肘を置き、うっとりと海を眺めている。


 カモメが飛び交い、どこまでも大海原は続き、いい感じの潮風が髪をなぶってくる。


「日向は何してるの」


「ひなたぼっこだよ。人生をあくせく生きることがバカバカしく思えてきちゃう……」


 現代っ子めえ。

 まあ、日向は日向でいいや。

 きっと尻に火がつかないと動き出さないタイプであろう。


 生暖かい目でそのままにしておくことにした。




 海の上というものは基本的にやることがない。

 特に、船を動かす専門の船員がいるうちの団としては、戦闘要員の仕事がない。

 釣りとかくらいしかない。


 俺とルリアとオルカで、三人並んで釣り糸を海に垂らしている。

 今は自然の風に任せ、のんびりとホリデー号を進ませているから、こうやって釣りができるのだ。


「おっ! またきたー!」


 ルリアの釣り竿に反応があった。

 運の良さが高いルリアは、とにかく釣る。


「またかよー。なんで釣り歴の長い俺はボウズで、こっちのお嬢ちゃんばっか釣れるんだ」


「そりゃあ俺達の分の運をルリアが吸ってるからだろう」


「理不尽だぜ……」


「ルリアの運の良さは時空とか確率が変動するレベルだからな」


 ルリアの釣り竿に掛かったのは大きな魚のようだ。

 びちびち、ばたばた、海面で大きな飛沫が上がる。


「ひええー! あたしの力じゃ無理だようー」


 あっ、ルリアが海に引きずり込まれそうになっている。


「どーれ」


 俺が後ろからルリアを覆い、釣り竿をしっかり握りしめた。

 おお、魚め、なかなかパワフルだな。

 だが甘いぞ。


 この釣り竿を通して、お前と俺とはつながっている。

 つまり、接触しているも同然というわけだ。


「ぬおおー! 応用、ドラゴンスープレックス!」


 俺の肉体がブリッジを描きながら、ルリアごと釣り竿を海面から引っこ抜く。

 水中の魚も引っこ抜かれる。


「ぎえー」


 めちゃめちゃに揺さぶられたルリアが潰れたカエルみたいな声を出す。


「ウグワー!」


 釣り上げられて甲板に叩きつけられた魚が、人間みたいな上半身をバタバタさせて叫んだ。


 おや?


 人間みたいな上半身?


「人魚じゃねえか」


 オルカの冷静な指摘で気付いた。

 俺達が釣り上げたのは魚ではなかったようだ。


「なんという恐ろしい力か。水中から釣り竿で人魚を釣り上げるなど……! 癒やしの水」


 人魚は自分に回復の呪法を使うと、起き上がった。


「危うく死ぬところだったではないか! 気をつけよ、人間!」


 真っ青な髪の色をした女の子の人魚である。

 王道だ。

 俺の目は、スッと彼女の胸元に向けられた。


 ほう、貝殻のブラですか。

 これまた王道ですなあ……。


「よう、人魚の姐さん。最近どうだい」


「あら、オルカじゃない。あのねえ、久々にうるさい海賊どもがいなくなって、海が広くなったんだよ」


 オルカと人魚が親しげに会話をし始めた。


「オルカ、お知り合い?」


「おうよ。オクノ聞いてなかったか? このアドバード海はな、人間とリザードマンと人魚の海なんだぜ。リザードマンとは生活環境が被るからそこそこ会うんだが、人魚は水中だろ?」


「なるほどー。そう言えばそうだったような」


「姐さん、こいつ、俺が加わった傭兵団の団長でな。あの海賊王をぶっちめたんだ」


「あら、あの化け物をかい!? 大したもんだねえ……まだ若いってのに」


 人魚の人、俺をじろじろ見る。

 若いというが、人魚の人も若い女の人に見えるぞ、ボインだし。


「あたいは人魚だから、年のとり方が人間と違うのさ。ヨボヨボになる前に泡になって消えちまうからね! こう見えて百年は生きているよ」


「なんとー!」


「あんた、アドバード海を救ってくれたんだねえ。名前はオクノと言うのかい? あたいはロマ。この辺りの人魚のまとめ役……の補佐見習いをしているよ」


 役職的にはそんな偉くない人だ。


「そのまとめ役補佐見習いさんはどうして釣り針にかかったので?」


「それがさ、そこの小娘の釣り糸、妙な吸引力であたいを吸い込んでくるのさ。気付いたら釣り針を掴んでてね……」


「恐ろしいな、ルリアの運」


「ええ? そう? えへへ。あと、オクノくんの腕の中にずーっと収まっていられると、あたしは特別な存在なのだと感じるのですもっと抱きしめてて」


「おっと」


 俺はスッとルリアから離れた。


「うわーん! オクノくんのいけずー!」


 女子たちの淑女協定に反してしまうだろうが……!


「それにしても……海賊王を倒したほどの腕の男……。あんたならやれるかも知れないねえ……」


 人魚のロマは、じろじろと俺の顔から胸板から二の腕を見つめた。


「……いいからだ」


「危険な視線を感じる」


「ベッ、別にあたいは筋肉フェチじゃないよ!? 人魚は女しかいないから、基本的に筋肉質の男には弱くてね……。人魚の女にはそこそこあたいみたいな筋肉愛好家がいるんだけど、欲求は船乗りの男とメイクラブして満たすしかなくて……」


「ロマさん、自分の欲求不満の話は置いておいて、俺に何か頼みがあるっぽい感じなのでは?」


「そうだった」


 ハッとするロマ。


「あのねえ、あたいたち人魚は、あんたら人間が帝国航路と呼んでる辺りに住んでるんだけどさ。ずーっと昔から、あの辺りにはあたいらを脅かすものがいるんだよね」


「おびやかすものというと」


 ここで、オルカが難しい顔をする。


「水中を来る怪物がいるのさ。それは船を襲うわけじゃない。だが、陸にいる人間に呼びかけて、そいつらを連れて行く。理想の地へな。そいつは、センスイカンとか言う怪物なんだ。おそらく、ロマが言っているやつと俺達が目指している相手は同じだぜ」


 潜水艦とな……!?

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