第39話 俺、勇者を名乗るクラスメイトと対決する

「罠でしょ」


 言ってみた。

 日向マキとやらは真っ青になる。


「そんなことない! わ、私は人をはめたりとか無理なタイプで、むしろよく騙されて合コンの数合わせに誘われたりして普段着でいいよって言われたから部活帰りに行ったら汗臭くて笑われたり……ううっ」


「あっ、そこまで暴露しなくていいです。俺が悪かった」


 日向が涙目になったので、俺は謝った。


「こいつは嘘をついてないと思うんだがどうだ?」


「正義ではないものの臭いはしない」


 イクサが堂々と言い放った。

 お前……敵と味方を臭いで判別してたのか……?


「私だって、おしゃれとかメイクとかしてみたかったけど、悪い虫がつくからってパパが許してくれなくてー!」


「もういい! もういいよ! 自分を傷つけるな! どうどう!」


 俺は全力で日向をあやした。

 なんて奴だ。

 今まで戦ってきたクラスメイトで最大の破壊力だ。

 俺の閃きでも勝てそうにない。


「どう?」


 女子たちに意見を求める。


「気持ちは分かるわね。父親が過保護なんでしょう? 娘ができると、そういうとても守りに入った考えになってしまう男性は多いって聞くわ」


「ラムハ詳しいな……!」


「一般知識よ……! 別に何か思い出したわけじゃないわよ!」


 アミラは首を傾げている。


「お姉さんが生まれた町では、子供なんてすぐ死ぬものだったもの。おしゃれをするには自分で稼がないといけなかったなあ。親はそんな心配なんてしてくれなかったわよ」


「ええーっ、そうなの!? あたしは結構心配されたなあー」


「遊牧民族はビシビシ厳しくしつけるスタイルです。女も男も変わりません」


 みんな意見色々だ。

 だが、この短時間で、日向マキは悪人ではないという方向で意見が一致した。


「亡命を許しまーす」


「あ、ありがとーう!!」


 泣いた後でひっどい顔になった彼女が、また泣いた。

 ということで、俺たちのやり取りに帝国が注目しているぞ。

 クラスメイトの一人が、うちのパーティの後ろ側にそそくさと移動したので、どうやら裏切りに気付いたらしい。


「勇者が裏切った!」


「どういうことだ!?」


「勇者将軍殿に伝令をー!!」


 奴ら、こっちに矢や呪法で攻撃を仕掛けつつ、恐らく他のクラスメイトを呼ぼうとしている。

 面倒だ。

 だが、標的である呪法師シーマの行方が分からない以上、戦場から抜けるわけにはいかない。

 とりあえず、陣形を保ったまま帝国軍の横をうろうろすることにした。


 ちょこちょこ帝国軍にも攻撃を仕掛け、王国の手助けをするように動く。

 ようやくこちらが脅威だと思ったらしく、遊撃隊みたいなのが差し向けられてきた。


「よし、連携だ! ヨーヨー!」


「真空斬!」


「二段突き!」


「スラッシュバイパー!」


「サイドワインダー!」


「闇の衝撃!」


『ヨー空二段スラッシュサイド撃』


 不思議な技名が出現し、しかしとんでもない威力の連携攻撃が遊撃隊を蒸発させた。

 これで、一気に俺たちに対する警戒度が上がる。

 帝国兵たちの腰が引けたのが分かるぞ。


 そして日向はまだ後ろにつけたまま。

 パーティには加えてない。

 亡命者だし、まだ俺たちの信頼を得てないのでな。

 イクサが戦意を向けてないので、安全だろう。

 このおバカ剣士、そういうところのセンサーは優秀な気がする。


 そんなこんなで、しばらく帝国とやり取りをしていたら、向こう側の兵士たちが左右に避けていった。

 まるで誰かが通るための道を作るみたいである。


 あ、本当に道を作ったのか。

 見覚えがある気がする連中がやって来る。

 名前はほとんど忘れたが。


「やはり君か、多摩川くん……。本当に困った人だ」


 先頭に立つ男はそう言った。


「見違えるほど姿が変わったようだが、内に秘めた曲がった性根は変わらないらしいね。どうして僕たちの戦いに水を差すようなことをするんだい?」


「君は誰だっけ」


 今この瞬間ど忘れしたので、素直に聞いてみた。

 男のこめかみに青筋が浮かび上がる。


「五花武志だ。おちゃめな人だね、君は。だが冗談も時と場合を選ばなければ嫌われるよ……!!」


「いや、顔は覚えてた。最近色々ありすぎて、名前が吹っ飛ぶんだ。そうか、五花武志な。俺を変な学級裁判に掛けて処刑しようとした奴の名前は、そうだったよな」


 俺はのしのし前に出てきた。

 そして、仲間たちに伝える。


「白虎陣で、徹底抗戦で」


「ええ、任せて」


 陣形の要を担当するラムハが頷く。


「前に出てきてどうしようというんだい? まさか、僕が君と一騎打ちするとでも?」


「しないのか?」


「僕が出るまでもない。お前たち、やれ」


 五花が宣言した。

 奴の周囲に控えていたクラスメイトたちが、一斉に文字通り目を輝かせる。


「てめえ、殺してやるぞ多摩川!!」


「美浦の仇を討ってやる!」


 口々に叫びながら、武器を構え、あるいは呪法を用意して俺に襲いかかろうとしてくる。

 五花、まさか周りにやらせて自分は何もやらないとは……!

 見上げた腐れ根性なのだ。


 二人死んで、一人は亡命したから残り21人。

 五花は見てるだけだから20人か。

 一対二十!


「陣形前進! こいつらを隅っこからすり潰してー!」


「分かったわ! 連携しながら順番に仕留めていくわよ!」


 白虎陣が前進してきた。

 うちのパーティvsクラスメイトという状況になる。

 にらみ合いになった。


 緊張感がこの場に満ちるが、こういう状況に耐えられない奴というのはいるものだ。


「うおおーっ! 多摩川死ねえーっ!! お前なんかあそこで処刑されてばよかったんだーっ!!」


 槍を持ったクラスメイトが突撃してきたのだ!

 その速度は、かなり速い。

 空飛ぶ鳥と同じ速度で走ってくる。これがこいつの能力か!


 強烈な突撃を、俺はブロッキングで受け止める。

 うおー、なかなかの衝撃!

 これはかなり、ギリギリの状況なのではないか。


 ピコーン!

『ナイアガラドライバー』


 突撃の勢いで前かがみになっていたそいつを、俺は上から胴を抱え込んで持ち上げた。


「ぬおおっ」


 そいつが声を上げられたのはそこまでで、俺はここから地面に向けて、頭から地面に突き刺さるように投げ落とす。

 それと同時に、俺が習得している水幻術が発動した。

 落下の勢いを加速するように、滝が上空から叩きつけられてくる。


「ナイアガラドライバーだっ!!」


 槍を使うクラスメイトが、地面に打ち込まれ、周囲の大地が爆発したように飛び散った。

 そいつは地面に頭から腰まで埋まり、ピクリとも動かなくなる。


 副次的に発生した幻の激流に、クラスメイトたちの動きが止まった。

 サンダーファイヤーパワーボムと言い、ナイアガラドライバーと言い、これは実は呪法技なのでは……?

 今度カテゴリーを見直そう。


「桜丘がやられた! なんて威力だ!」


「化け物め! こうなればみんなで一斉に掛かって──「裂空斬!」「闇の炎!」ウグワーッ!!」


『タイガークロー・裂空炎』


 一人灰になったな……!

 口上を述べる隙を与えないうちのパーティ。

 イクサの突発的行動についてくるラムハも流石だ。


 ちなみに、接近する敵はルリアがスウィングでガンガン無力化している。

 呪法師なクラスメイトたちには、カリナとアミラの連携が対抗している。

 いい勝負だ。


「つ、強い……! 多摩川くんの仲間の人たち、どうしてこんなに強いの!?」


 日向が驚く声が聞こえてくる。

 そりゃあ鍛えてますから!

 だが、一番の理由は、クラスメイトたちの攻撃の矢面に俺が立っていることだ。


 俺がブロッキングを使って、可能な限り敵の攻撃を引き付けてダメージ軽減を行う。

 その間に、攻撃後の隙を仲間たちが仕留めていく。

 俺は俺で、余裕があれば前衛の連中を片付ける。


 何せ今まで、ずーっと最前線で戦ってきたからな。

 鍛え抜かれた俺のタフネスは、六欲天の攻撃でも受け止めるぞ。

 連携もしてこない散発的な攻撃など、俺を貫くことはできない。


 どうやらそのことに、五花も気付いたようだ。

 顔に焦りの色がある。


「くそっ……! お前たち、何をしている! 感情任せでバラバラに戦うんじゃない! 僕の指示を聞け!!」


 いつもの余裕をかなぐりすてて、奴は叫んだ。

 そして、とうとう五花武志が進み出る。


「もういい。僕が直接指揮を取る! “従え”」


 五花が宣言すると、クラスメイトたちの動きが一瞬止まった。


「好機! 裂空斬!」


「光の障壁!!」


 真空の刃は障壁に炸裂し、イクサの技は通らなかった。

 五花の呪法か……!


「ここからが本番だ。僕たちが正しいことを認めさせてやるよ、多摩川奥野!!」


「ほいほい! じゃあ、こっちも陣形……青龍陣! 中心は俺! カリナが外れて後方支援!」


 こちらも陣形を組み直し、いよいよ決戦だ……!

 あ、いや待てよ。

 本来の目的はこいつじゃないよな?



────────

お知らせ


42話で第一部が終わります。

その後、五日ほど充電してから再開の予定です。


(その間に書き溜めを行います)

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