第24話 俺、三つ巴のバトルを制する

『ウォーターガン!!』


 羽化した女王アリは、呪法を使う。

 強烈な水のビームみたいなのがぶっ飛んできて、俺は慌ててこいつをブロッキングした。


「うおー! ダメだこれー!! HPが減ってるのが分かるぞー!」


「オクノくん回避! 回避!」


「オクノくん回復! 回復! 癒やしの水!」


 ルリアが無謀にも真横から突っ込んできて、俺を蹴っ飛ばしてウォーターガンの攻撃から外してくれた。

 かなり最適な角度の蹴りだったみたいだな。流石は運の良さ!!

 そしてアミラが即座に俺を回復する。


 うむ、女王アリ舐めてたわ。

 背後では、豊田が女王アリのビームを受け止めている。

 その間に、五花が他の女たちに命令を下しているようだ。


 女が三人に、豊田と五花か。

 女ども、何を考えてるのか俺たちに向かって攻撃を仕掛けてくる。


「美浦の仇! 死ね、多摩川!! スプリット・ファイアボール!!」


 女の一人が、頭上に巨大な炎の球を呼び出す。

 女王アリと挟み撃ちであれを食らうとやばいぞ!


「イクサ、ちょっとだけ後ろを攻撃頼む! その、明らかに飛びそうな烈空斬れっくうざんで!」


「そう読むんだな!? ありがたい。行くぞ、裂空斬!!」


 飛翔斬ではない理由は、背後の連中はイクサの真空斬をいなしたからだ。

 恐らく、ある程度強力な技でなければ仕留められない。


 イクサの剣が空を切り裂き、縦一文字の巨大な真空の刃を作り出す。

 それが猛烈な勢いで飛翔し、炎の球を今にも俺たちに投げつけようとしていた女に到達、縦一文字に両断した。

 炎の球が消滅する。


「よし、セーフ!! ナイス、イクサ!」


「イクサくん、やるぅー」


「闇の障壁!! ちょっとみんな、そういうの後にして! 女王アリの攻撃がシャレにならないんだから!」


 闇の呪法で俺たちの前に壁を作り、女王アリの攻撃を防いでいるラムハ。

 とても怖い顔で怒られてしまった。

 ちなみに、背後からは悲鳴とか絶叫が聞こえるがまあ気にしない。


 あいつらが正気に戻る前に、女王アリをどうにかしなければ。


「わたしにいい考えがあります」


「なんだって! 言ってみたまえカリナ」


「アローレインでこの辺り一帯を攻撃するので、背後の敵が対処している間に、女王アリの反対側へと全員で移動しましょう」


「頭いい!!」


 俺は彼女を称賛した。

 するとカリナは、得意げな顔になり、何やら頭を突き出してくるではないか。


「撫でてもいいのですよ」


「よーしよしよしよし」


 ぐりぐり撫でた。


「いいなー。あたしもいいアイデアだしたーい」


「ルリアはそういうの得意じゃないでしょ」


「アミラさんひどぅい!」


「闇の障壁っ! そういうのっ! 後にしてって言ってるでしょっ!! 障壁破れそうなんだから!!」


 ラムハの声がもう半分悲鳴だ。

 俺たちはすぐさま移動することにした。


「行きます! アローレイン!!」


「裂空斬!」


 あっ! イクサが勝手に烈空斬した!

 ここで、二人の間に光の線が走る。


『アロー空斬』


 矢の雨が、真空の刃をまといながら戦場に降り注ぐ。

 これには、女王アリも驚いたようだ。

 甲高い叫びをあげながら、顔をかばって腕で覆う。


 奴の視界が遮られた。

 今だ!


「移動しまーす!! 隊列を守ってくださーい!」


 俺は大声を張り上げて、仲間たちを誘導するのだ。

 幸い、背後のクラスメイトたちも、攻撃を凌ぐので手一杯でこっちに手出しをしてこれない。

 あいつら本当に何しに来たんだろうな。


 ここでようやく、女王アリの背後に回り込むことができた。

 無防備な背中が丸見えだぜ。


 ……と思ったら、アリの腹からモンスターが生まれてきているではないか。

 しかも、誕生したのはまるで甲冑を着たようなアリの兵士だ。

 兵隊アリだ。


『ギギギギギ!!』


 そいつは女王アリを守るべく、俺たちに襲いかかる。

 俺は剣を振り上げて、奴の大顎を受け止めた。


「ぬおー!! こいつっ、攻撃が重い! 強いぞー!」


 移動したばかりで、体勢が整っていない!

 つまりこれはピンチなのだ!

 ということは!


 ピコーン!!

『ベアクラッシュ』


 技名が閃くと同時に、俺は大顎を跳ね上げて跳躍した。

 剣を両手で持って、刃をアリに叩きつける。


 炸裂した場所から、周囲に向かって衝撃波が走った。

 アリの頭部が、甲冑みたいだったのにやすやすと砕け散る。


『ギギィーッ!!』


 そう一声叫ぶと、兵隊アリの胸から上が粉々に粉砕され、飛び散った。

 すげえ威力だ!

 あと、武器の技はやっぱり殺意が高いな!!


 次々に生まれる兵隊アリには、イクサが烈空斬を放って対抗している。

 そうこうしている間に、女王アリがこちらへ振り返ろうとしていた。


『わらわの子供たち! 人間を皆殺しにせよ!!』


 女王アリが吠える。

 兵隊アリが一度に生まれ、一斉に俺たちへと飛びかかってきた。

 そのうちの一匹が、アミラに向かおうとしたときである。


 ピコーン!

『ディフレクト』


 カールの剣が勝手に動いたように思ったが、多分そんなことはないぜ!

 剣は兵隊アリの攻撃を弾き返す。

 ブロッキングと違うのは、反射した時に相手の部位を切りつけてダメージを与えてるっぽいところだ。


 これ、使えるな。

 後でイクサに継承しよう。


 そして、どうやら俺は兵隊アリの攻撃を見切ったらしい。

 全ての攻撃を、一人でディフレクトする。


『ギイッ!』


「ディフレクト!」


『ギギィッ!!』


「ディフレクト!」


『ギギギギギーッ!!』


「ディフレクトって言ってるだろうが!!」


 あらゆる兵隊アリの攻撃を弾き飛ばす。

 その間に、仲間たちが弾かれたアリに攻撃を飛ばすのだ。


「二段突き!」


「連ね射ち!」


「闇の衝撃!」


「二連打ち!」


「裂空斬!」


『二段連ねの二連斬』


 二段が連ねて二連とか、どういう意味だってばよ。

 だが、言葉の意味はよくわからないがとにかく凄い威力だ。

 雨あられと降り注ぐ、槍と矢と魔法と鞭と真空の刃が、一瞬で兵隊アリたちを一掃した。


『わらわの子らが!! おのれ、許さん!!』


「許さないのはこっちよ!! 開拓地のみんなを返せ、ばけもの!!」


 アミラが叫んだ。

 その辺は同意だな。

 やっていいのは、やられる覚悟があるやつだけだぞ。


 ということで、今からやっつけます!!


「幻獣術!」


 俺は傍らに、双頭の魔犬オルトロスを作り出す。


「またお願いしますよ……」


「ワンワン」


 オルトロスは、任せておけ、と言うふうに頷いた。

 初めての連携を生み出した時の、俺の相棒である。


 かくして、俺たち六人と一匹が光に包まれる。

 駆け出すオルトロス。

 続くのはカリナの弓。

 ルリアの槍。

 アミラの鞭。

 ラムハの魔法。

 イクサの剣。

 そして、俺が手にしたカールの剣が輝き出す。


「わおーん!!」


「サイドワインダー!」


「足払い!」


「スラッシュバイパー!」


「闇の炎!」


「十六夜!」


 仲間たちを繋げていく光の線の最後に、俺。

 高く飛び上がりながら、技の連続で体を貫かれた女王アリ目掛けて、剣を振り下ろす。


「ベアクラッシュ!!」


『オルトロサイド足ラッシュ闇夜クラッシュ』


 長ぁい!!

 だが、前代未聞の七連携だ!

 っていうかルリアなんでお前、足払いなのー!! ここに来て足払いするのー!!


 オルトロスの突撃で体勢を崩した女王アリに、蛇のような動きの矢が襲いかかる。その足元が払われて、転倒仕掛けて宙に浮いた女王アリを、切断の鞭が襲う。

 地面から吹き上がる闇の炎が女王アリを焼き、待ち構えていたイクサがそこを真っ向から叩き切り……。


 俺の叩きつけた一撃が、女王アリの頭へと炸裂した。

 衝撃波が周囲に広がっていく。

 なんか、女王アリの後ろでクラスの連中が衝撃でぶっ飛んでいったのが見えた。


「なんでじゃーっ!? なんじゃこの威力はーっ!?」


 のじゃロリな感じの呪法使いも混じってた気がするな?


 そして、女王アリはこの連携に耐えきれるはずもない。


『ウグワ────────ッ!!』


 叫びながら、連続攻撃の衝撃で砕け散っていく。

 最後は衝撃波に飲まれながら、女王アリは消滅した。


 気がつくと、更地みたいになったフロンティアである。


「……これはやりすぎたのでは?」


「ううん」


 アミラの声がした。

 彼女が後ろから、飛びついてくる。


「ありがとう、オクノくん!! カールの、みんなの仇を討てたよ!! ありがとう! 本当にありがとう!!」


 最後は涙声になって、俺をぎゅうぎゅう抱きしめる。

 大変気持ちよくていけない。

 俺の中のいけないモンスターが目覚めそうだ!!


「ラムハ、助けてくれえ」


「アミラの好きにさせてあげるわ。だけどオクノ、ちゃんと自制なさいよ」


「ひぃ、鬼、悪魔、ラムハ!」


 かくして、開拓地を襲ったモンスタースタンピートは解決した。

 しかしまあ、なんで女王アリはあんなに強かったんだろうなあ……。


「ねえねえ、次はどこ行くの? みんなと一緒にいると、あたし退屈しないなー。あのずーっと暇だった村とは大違い!」


「次? そうだなあ……」


 ルリアの脳天気な声を聞いて、俺も次なる目的地を考え始めるのだった。

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