第19話 俺、フロンティアへ向かう

 フロンティア。

 セブト帝国とユート王国の間あたりにあって、この二国がある大陸……その名も、世界の名前をそのまま使ってキョーダリアス大陸。そこの南端にある。

 熱帯雨林が近いところにあるので、向かうほどにだんだん蒸し暑くなってくる。


「あづーい」


 ルリアが胸元をパタパタしてたので、俺は「ウォッ」と発してガン見した。


「あっつぅーい」


 アミラも胸元をパタパタして、こっちはルリアよりもボリュームが優れるので、俺は「ファーッ」と発して背伸びして見た。


 ちなみにカリナは自分の胸元を触って、悲しげな顔をしただけだった。

 未来があるぞ。


「なるほど、暑くなってきたな。だが上着は脱がんほうがいい。虫が出るからな」


 冷静なのはイクサである。

 こいつ、おバカなのだが知識がある。

 フロンティア近辺は、病気を媒介する蚊のたぐいも多いのだとか。


「あ、そうそう。だからね、ある木の枝を燃やすと、蚊が寄り付かないお香になるの。お姉さんフロンティアで暮らしてたから詳しいのよ」


 アミラがそう言って、周囲の木々を見回した。


「ああ、あれ! イクサくん、お願いしていい?」


「構わん。蚊や毒虫から身を守らねば、いざという時に正義を成せんからな。飛翔斬!!」


 イクサの斬撃が飛んで、枝が落ちた。

 そいつを拾って、俺の幻炎術で燃やしてみる。

 水分が多いせいか、あまり燃え方がよろしくない。


 ちょっと臭い感じの煙が上がり始めた。


「ひっどい臭いねえ」


 ラムハが顔をしかめる。

 なんていうか、納豆を燃やした感じの臭い。

 俺は納豆は苦手ではないがそこまで好きでもない。


 そんな俺がちょっと臭いと思うのだ。

 みんなはさぞや辛かろう。


 だが、臭いだけあって枝を燃やし始めてから、虫が全く寄り付かなくなった。

 これはいい。


「大体家の外で燃やしておくのよね。この臭いを扉や窓につけておけば、もう虫は入ってこないから」


「生活の知恵ってやつだなあ」


 アミラの説明に、俺はふんふんと感心した。

 この世界、ゲームっぽいくせに、こういうところはちゃんとファンタジーしてるのだな。

 俺たちはこの妙な臭いを漂わせながら、フロンティア最前にある村へやって来た。


 到着したら、村と言うかキャンプだった。


「みんな、久しぶり!」


 アミラが駆け出すと、キャンプにいた人たちも駆け寄ってきた。


「アミラちゃんじゃないかい!」


「実家に戻ったはずだけどどうしたんだい?」


「あのね、強い人たちと一緒に来たの。これで、カールの骨でも拾って来られたらと思って……」


 あのいつもお姉さんぶっているアミラが、子供のような表情を見せている。

 キャンプのおじさんおばさんたちは、アミラの親代わりだったのかもしれない。

 あと、旦那さんカールっていうのね。


 で、おじさんおばさんたちの顔は曇る。


「やめた方がいい。スタンピートは収まったけど、モンスターどもはまだまだフロンティアをうろうろしてるんだ。今じゃ、王国の兵士だってそこの道を越えては行かないよ」


 指し示されたのは、森の中へと通じる道だった。

 獣道っていうよりはもうちょっと整備されている。

 これが開拓者たちが通った道で、スタンピートの後は難民たちが逃げてきた道なんだろう。


 で、開拓地を諦めきれずにギリギリのところでキャンプを張り、村になってしまったのがここらしい。


「大丈夫だよ。私は絶対にカールの骨でも、思い出でもなんでもいいから取り返すの。そうじゃないと、私歩き出せないもの」


「そうは言っても……」


 アミラの気持ちは分かるが、おじさんおばさんたちの気持ちも分からないでもないよな。

 さて、どうしたものか。



1・「大丈夫です、アミラは任せてください。危険なことはしませんから」

2・「フロンティアからモンスターを、一匹残らず駆逐してやるッッッッッ!!!」



「フロンティアからモンスターを、一匹残らず駆逐してやるッッッッッ!!!」


 俺が吠えたので、キャンプの人たちがみんなビクッとした。

 すごくびっくりさせてしまった。

 うちのパーティの面々は慣れたものである。


「ということで、俺たちは強いので大丈夫。六欲天も倒したので!」


「へえ、あんたがアミラの? 随分若いようだけど……って、六欲天!? どういうこと!?」


「私がやりました」


 俺が正直に名乗り出ると、おじさんおばさんは目を瞬かせた。


「ええ……伝説の六欲天を、本当に……!?」


「とても信じられない……」


「本当なのよみんな! オクノくんは凄いの。だから、大丈夫だから……!」


「アミラちゃんが言うなら嘘じゃないだろうなあ。俺たちに嘘をつく理由なんかないし」


 おっ、どうやら信用されたようだぞ。


「俺、俺も協力したが?」


 おいイクサ、自己主張するな。

 アミラは苦笑して、言葉を継いだ。


「彼も強かったわ。六欲天を倒した時、そいつが住んでいた地底湖が崩れたの。囚われていた人たちを助けたのだけど、とても逃げられないところだった。だけど、イクサがそこを助けてくれたわ」


「ほう! 彼も!」


「あら、こっちの方がいい男じゃない? アミラちゃん、あんたの新しい旦那さんは彼じゃなくて?」


「ちょ、おま」


 俺をスルーか!!

 確かにイクサが美形である事は認めよう。

 俺は冴えないぼっちの男であることだし? 最近筋肉がかなりついてきたが、それといい男は関係が無いのかも知れない……!


 それから新しい旦那とは一体……?

 俺のことですかな?

 グフフフフ……。


「オクノくんがすごく悪い笑みを浮かべてる!! その顔は駄目だよ!」


「フガッ」


 俺の鼻にルリアの指が突っ込まれた。

 ええい、おのれ!


「訂正させてください。まだ決着はついていません。わたしと、アミラさんと、ルリアと……今のところはリードしてるラムハさんで、誰がこの人の妻になるかは決まっていませんから」


 カリナが進み出て、おじさんおばさんたちの言葉を訂正した。


「ちょっと待ってカリナ! ルリアお姉さんでしょー。なんであたしだけ呼び捨てなのかなー? ねー、カリナちゃーん」


「ルリアに敬称はいらないでしょう? 敬称をつけてほしいなら、実力でわたしを上回ってからにしてください」


「むきぃーっ!!」


 真っ赤になって憤慨するルリア。

 ははは、仲良きことは美しきかな。

 というか、俺を巡って女同士のバトルが勃発していたのか。


 これはもしや……モテ期……!?

 たはーっ!!

 参ったな、モテる男は辛いなー!!


 俺がニヤニヤしていると、ラムハが手を打ち鳴らした。

 いきなりのことで、誰もが驚き、ラムハに注目する。


「話はこれで終わり? じゃあ、フロンティアに向かうわよ」


 彼女は俺にウィンクして見せた。

 俺としては頷くしか無い。


「じゃあ、そういうことで! アミラ、行こうか」


「ええ!」


 アミラが駆け寄ってきて、俺の腕を取った。

 うおー!

 二の腕に柔らかい感触が! めちゃくちゃ柔らかいんですけれど!!


「あーっ!! アミラ! 抜け駆け!!」


「厳重に抗議します!!」


 ルリアとカリナにぎゃーぎゃー騒がれつつ、俺たちは一路、フロンティアへ。

 ここからはのんびりできないぞ。

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