第11話 幸せの星空

 遊園地の入り口で、大智だいちが立っている。


「ごめーん!お待たせしました。」


遠くから美緒みおの声がした。

声の方に目を向けると、いつもと雰囲気の違う美緒が、こちらへ駆けてくる。

少し息を切らして大智の目の前で止まった。


高校生にしては少し大人っぽいメイクに、色気をほんのりただよわせるスカート。

いつも見る制服姿とは違って、とても新鮮味がある。


大智は、つま先から頭にかけて美緒を見つめる。



「ねぇ、見過ぎじゃない?」


「あ、ごめんごめん!つい…。私服って初めて見るからさ。」


「そう言われてみれば…そっか。」


美緒は大智の目を見つめる。

すると、急に恥ずかしくなり赤面する。



「い…いこっか。」



「お、おう。」


2人は遊園地の中へと入っていった。



どうしてこんなことになっているかと言うと…


2日前


『俺は由乃よしのが好きだ。』


『………え?』




………



ええええええええ!?



『今…なんて言いました?』



『だから……好きだって。』


照れてる…。


なんか…こっちまで恥ずかしくなる。


やば。熱い。


『日曜日さ…。空いてる?』


『え?うん!空いてる!』


あれ?

私、テンションおかしい。

いつもこんなトーンじゃないよね?


『良かったらさ…遊びに行かない?』


『え?』


『俺さ、もっと由乃のこと知りたいんだ。学校じゃまだ少ししか話せてないから。』


高倉くん。


こんなに真剣に考えてくれてるんだ。



…でも。



『あのー、高倉くん。』


『ん?』



『私ね、その…男の子と2人っきりで遊んだ事とかなくって…こういう時、どうしたらいいか分かんないや。』


『そうなの?』


『私も高倉くんのこともっと知りたい。もっと知って、自分の気持ちを確かめたい。』


由乃よしの。』


『高倉くんの気持ち…嬉しかった。だから、返事はそれからでもいいかな?』




 5月にしては気温も高く、天気が良い。

ジェットコースター、メリーゴーランド、お化け屋敷にコーヒーカップ。


休む間もなく遊園地を駆け回った。


園内を満喫した2人は、ソフトクリームを食べながらベンチに座っている。


「ねぇねぇ!次観覧車乗ろうよ!」


子供みたいにはしゃぐ美緒を見て、ほっとする大智。


「良かった。楽しんでるみたいで」


大智の言葉に、自分が思った以上にはしゃいでいることを悟った美緒。


「あ、いや…遊園地って久しぶりだから。」


照れ笑いする美緒。

ソフトクリームを頬張る。


「美味しい?」


「うん!美味しい!」


ベンチに座る二人の絵は、恋人の様だった。



 あっという間に日は沈み、園内の電飾が光り始めた。

2人は観覧車に乗っている。


「わー綺麗。もう少しで頂上だよ!」


窓の外を眺めていた美緒は、笑顔で大智の方を見た。

しかし大智は、何も言わず窓の外を見つめている。

不思議そうに見つめる美緒。


「高倉くん?どしたの?」


「え?あ、いや!なんでもない!」


すごく焦っているかのように見えた。


すると美緒は、顔を少しにやつかせ、大智の隣の席へ移った。


「わっ!」


「うわぁー!」


驚く大智。


「もしかして…高所恐怖症?」


「…うん。」


恥ずかしそうにする大智を見て嬉しくなる。


「大丈夫!落っこちたりしないよ!」


その瞬間、二人の目があった。


笑顔だった美緒の表情は真剣な顔になる。



「ありがとう。由乃よしの。」


「え?」


「今日はすっげぇ楽しかった!」


高倉くん。

そんなの…


「私も…今までで1番楽しい遊園地だった。ありがとう。」


観覧車の席は、2人が座るのがやっとで、距離が近い。


「俺さ…やっぱり由乃が好きだ。」


体を正面に向けた大智。

その瞬間、左手が美緒の右手に当たる。

一瞬驚いたが、美緒はそのままにした。



大智をそっと見つめる。


触れる指先から、大智の鼓動が伝わってくる。




「俺と付き合ってください。」




そのまま10秒くらい、見つめあった。


聞こえてくる鼓動は、どこか心地よかった。




「私も…、高倉くんが好き。」



美緒は触れていた手をぎゅっと握りしめた。



そして、そのまま吸い込まれるように、

ふたりはそっとキスをした。



ゆっくりと離れるふたり。



「あっ!」


突然美緒が叫ぶ。


「どうした?」


「頂上、過ぎちゃった…。」


窓におでこと手をつき、張り付くように外を眺める美緒。


「はは…あははは!」


それをみて笑い出す大智。

美緒は振り返り、大智を睨む。


「もう一回!」


「…え?」


「もう一回乗る!」


大智「ええええ!」




『その日の夜は星が綺麗で、眠りにつくのが惜しいくらいに幸せな夜だった…。』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る