序章

B

 目を開けた先は、また闇だった。いつ振りの覚醒だろうか。今や、自分が現世にいるのかどうかさえ曖昧になっている。

 わずかに血の巡りを知覚する。感覚などとっくに捨て去り、生きているとも死んでいるともわからない我が身だが、それでも熱を感じることがある。意識の深奥、記憶の彼方にある拭い難い、人であった頃の残滓……。

 取り戻したくもない感覚に苛まれる。いつからこうなったのだろうか。ああ、思い出した。あの者だ。あの者と対峙したころより、私の中でなにかがくすぶり始めた。平凡にも満たない、取るに足らない、芥のような一人の子供。それが、なぜ、私を……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る