マンネリ

 現役女子高生の私は、日常の出来事を自分目線で恋愛小説にまとめ上げ、細々とネットにのせていた。日記に毛の生えたようなお話だから当然読者も少ない。数人のファンと戯れる程度の趣味だった。


 ところがある日『女子高生目線が初々しくて新鮮!』と小さなSNSに書き込まれた。そこから火がつき、マスコミに注目されて『天才女子高生作家』などと言う肩書をつけられて、知らない内に注目されることになった。


 気か付けば私のネット小説のページビューは、一気に億単位に跳ね上がり、出版社から山ほどのメールが舞い込んだ。こうして私は華々しく文壇にデビューを飾った。


 しかし、人生経験が少ない私にとって引き出せるエピソードはそれほど多くない。古くから紙媒体で活躍する作家さんたちは、私の作品をどれも同じと酷評し、焼き直しなのだから一冊読めば十分と決めつけた。


「ねえ、酷くない。このおっさん作家のコメント!『ネット作家なんて日本語もちゃんと知らないような幼稚な集団だ。こいつらの存在が日本の文学界をダメにし、ひいては日本人をアホにさえしている』だってさ」


 高校の帰り、クラスの友達が私にスマホニュースの記事を見せてくる。彼女は、私が当のネット作家の一人であることを知らない。私はただただ答えに窮する。返すべき適切な言葉が思いつかない。


 はぁー。日本語もちゃんと知らないかー。だよね・・・。


 戸惑う私に彼女は告げる。


「このおっさんの小説。あり得るはずもない設定で、小難しいばかり。結末の無い様なエンディング。さっぱりわかんないんだよ。悔しいから、一回読んだけど最悪だった。頭、腐ってるわ。立ち上がれ若者よー!とか、あほらし」


「へー。ちゃんと読んでみるんだ。意外」


「まあね。こいつの作品は二度と読まないけどさ。ねっ、ねっ。酷いこと言われているけど、こっちのネット作家の作品、面白いんだよ!私は共感できるし、癒やされる」


 彼女が見せてくれたスマホの画面に表示された作家の名前を見て、私は息を飲む。


 あっ!私のペンネーム・・・。


「で、でもさ。この作家、マンネリのネタ切れだって・・・」


「そこがイイのよ。人生、そんなドラマティックな展開なんてないでしょ。そんなの望んでないし。マンネリ、けっこう。毎回、ハッピーエンドだよ。安心して読めるってものよね」


「そっ、そうなの?」


「大事な時間を使って、わざわざ疲れた上に気分が悪くなる作品なんてナンセンスよ。ほら、私の好きなこの作家の小説のユニークユーザー、二千万人だよ。東京都の人口よりはるかに多い。このおっさん作家の作品なんて、たった二千部で絶版だわ。一万倍よ!桁が違うっちゅーの」


 気恥ずかしい。だけど嬉しい。


「だっ、だよね。実は私もその作家の作品、好きなんだ」


「えー。そうなんだ。知ってたんだ。私たち気が合うよね。でさー。この作家の作品に出てくる設定って、うちらの学校によく似ているんだよね」


「そっ、そうだっけ」


「この小説の主人公。学園のアイドル、鹿島君にそっくりだもの。名前、一文字しか違ってないし」


 うっ。ネタバレしている。ヤバッ。


「でさ、実はね。ここだけの話。私、この小説に励まされて、昨日、鹿島君に告白したわけよ」


「うそっ。それで」


「えへへ。付き合うことになった。ほんと、この小説、神だわ」


 ガーン!そっ、そんなー。私の伝えられない思いを小説にしてたのにー。鹿島君に彼女が・・・。


「あのさ。その小説のエンディングはきっと、バットエンドだよ。ほら。『マンネリ、打破するぞー!』って書いてあるもん」


 私は、そのネット作家がたった今更新した最新ブログをスマホに出して彼女に見せた。







おしまい。

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