ネットショッピング

 今やスマホ一つで何だって買える時代だ。スーパーや百貨店が近くにない田舎でも、話題の商品はポチッとするだけで手に入る。珍しい品物だって、売ってはいけない怪しい品物だってネットの世界をくまなく探せば手に入る。ネットショッピングは流通のスタイルを大きく変えた。


 僕は、とあるユーザーに向けた会員制のネットショッピングサイトを経営している。もともとは普通のネットショッピングをしていたのだが、ある日、あるお客よりメールで依頼があり、そちらの方が、効率が良かったのでビジネスを転換した。


 今日の注文のメールは・・・。


 僕は毎朝のようにメールをチェックする。


 ふーん。子供向け絵本と風船。竹トンボに水鉄砲か。昭和の世代の品だが、ネットを探せば新品がないこともないかー。あっちの世界にはないんだろうなー。顧客は小さな子供のいる母親だろうか。


 パソコンでネットをまわり、数分で予約注文した。正直、簡単だ。


 えっと次は・・・。トロにイクラ、ウニにカニ。高級な寿司ネタばかりだな。未来では滅んでしまうと言う事か。相手は食いしん坊か。せっかくだ。最高級品を注文しよう。


 ネットで最高級寿司屋を探し出して出前を依頼する。


 今日のランチは思わぬ贅沢ができそうだぞ。次は旧作映画のDVDとプレーヤー。何だこりゃ。映像データくらい残っていそうなもんだが。データを失うような大規模な事件が起きるってことか。


 僕は独りで納得しながら新作DVDと最新ゲーム機を発注した。彼らの注文とは違うがゲーム機はDVDの再生もできるので問題ないだろう。次のメールを開ける。


 サバイバルナイフに拳銃か。ちょっとやばい感じになってきたな。なーに、直ぐに処分すれば問題ない。美味しい商売に闇はつきものだ。


 僕は裏ネットを回って、それらを注文した。割と簡単に見つかる辺り、この国は大丈夫なんだろうかと、少しばかり心配になる。大きなお世話か。


 酒にタバコ、うほっ。大麻とコカインかよ。まーなー。未来では禁止されるよなー。って、大麻とコカインは今でも違法なんだけど・・・。


 だが、これもほどなく注文できてしまった。現代日本、病んどるわ。


 午前中に注文したものは午後には送られてくる。窓の外にはネットショッピングの品を運ぶドローンが何十機も飛び交っている。おかげでカラスもハトもいなくなった。いい気味だ。


 話がそれたが、僕は届いた品を次々とスキャナーにかける。そう、これは未来から送られたきた設計図をもとに僕が作ったお手製のスキャナーだ。入れたモノを分子レベルで解析し、データを作り出す。


 僕のネットショッピングの顧客は未来人。タイムマシンは不可能だったが、データだけなら時空に小さな歪みをつくってやり取りできるらしい。未来の物理学は理解できないが、僕がスキャンした注文品はデータの形で未来に届き、未来の3Dプリンターで再現される。


 スキャンした現物は僕の手元に残り、高級なお寿司は僕の胃袋に収まった。代金分の数字がネット口座を潤す。といった仕組みだ。


 今度の注文は・・・。健康な人間?何だこれ。未来人は生物学的に進化でもしたのだろうか。


 僕は、自らスキャナーに入って自分のデータを送った。どうせ本体はこの時代に残る。向こうの世界で偽物がどうなろうが知った事か。


・・・・・・


 僕は白く輝く箱の中で目覚めた。どうやら僕は、僕が送ったデータから作り出されたコピー品らしい。オリジナルは過去の世界にいると言うか、年老いて確実に死んでいる。文句も言えない。


「あのー。僕に何か用でしょうか」


 扉らしきものが音もなく開いた。僕はそこを通って外に出る。


「んっ?カエルさん!」


 黒い巨大な瞳、大きな口。毛のないヌメっとした緑色の肌。アマガエルを大きくした生物が、白衣を着て何人もそこに立っていた。物珍しそうにこちらを見ている。


「キミが人間ケロ!毛のない哺乳類とは正直不気味だケロ」


 くっ。大きなお世話だ。ってか、未来人はカエルなのか?どんな進化をしたらそうなるのだろうか。


「キミたちの星に我々みたいなのはいるケロ?」


「ああ。夏になるとグア、グアとうるさいくらい」


「そうケロ。キミのおかげで人類のことを理解できたケロ。感謝するケロ」


「あなたたちは未来人じゃないのか?」


「我々の祖先はキミたちのようにキモくないケロ。時空の歪みを使って、地球のネットワークをハッキングするケロ。人類が作った兵器を乗っ取って人間を殲滅するケロ。我々の祖先と同じ小さな種族を開放するケロ。地球の未来人は、何れ進化した我々の種族になるケロ」


「そんな侵略の仕方って・・・」


「何百万光年も移動せずに済むケロ。我々は合理的だケロ」


「ここは、地球から何百万光年も離れているのか・・・」


「キミは人類の唯一の生き残りだケロ。キミの送ったものと合わせて、我々の博物館に保管するケロ」






おしまい。

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