お前は誰だ!
高級住宅地。先進的なドーム型のデザインの家々が建ち並ぶ。俺は玄関の前に立って、ドアノブに手を伸ばした。
ガチッ。
何だ。開いているじゃないか。全く不用心にも程がある。きついお仕置きが必要だ。
俺はそんなことを考えながら静かに玄関を抜けた。リビングのドアを開けよとして、ドアにはめ込まれた細長いガラス窓の奥でうごめく人影を認める。
んっ?緊張が体を駆け巡る。テレビ台の横にある収納棚を漁っているように見える。体の大きさから見て男に違いない。俺は玄関に戻り、置いてあったゴルフクラブのケースからドライバーをそっと引きぬく。
リビングに戻り音を立てずに男の後ろに立つ。
「お前は誰だ!」
後ろから声を掛けられて男はピョンと飛び上がるようにして驚いた。すかさずジャンバーの胸ポケットに手を差し込もうとする男。俺はドライバーを大きく振りかぶって男の二の腕を思いっきり叩いた。
バシッ!
ボキッ。
「あうっ」
ドスン。トン、トン。
男の手からすべり落ちた包丁が大理石の床に転がる。怯えた顔で腕を押さえ、浅い呼吸を繰り返しながら痛みに耐える男。強く打ち過ぎて骨にヒビでも入ったか。この男、宅配便の制服に身をまとっているが、土足の上に包丁迄隠し持っているとなれば証拠は十分だ。
「貴様、泥棒だな」
俺はゴルフのドライバーを大きく振り上げて男を睨みつける。
「玄関が開いていたもので・・・つい。出来心で・・・」
「包丁を隠し持って、何が出来心だ」
俺はヤツが落とした包丁を拾い上げる。うまい具合に置いてあった梱包用の粘着テープ見つけて男に放り投げる。
「それで自分の脚をグルグルに巻け」
男は苦虫を噛み潰したような顔を俺に向けながらも渋々従う。
「よし、次は両手を合わせろ」
俺は男から粘着テープを奪い取るとすかさずヤツの手に巻きつけた。
「真っすぐ立て!」
ヤツの包丁を男の背中に押し付けて、手足の自由が利かない男をバスルームへと追い立てる。男はピョンピョンと飛び跳ねながらバスルームへと向かう。バスルームの扉に手をかけて開く。
「なっ、何だこれは?」
中にはピザの配達員の格好をした男、ガス会社の検査員の姿をした男、聖書を手に持つ男、町内会の回覧板を抱えた男、郵便局員の制服を着た男。五人が手足を粘着テープで拘束され、口を塞がれた状態で倒れていた。
「貴様がやったのか?」
「最後のヤツ以外は俺じゃない」
「・・・」
俺はヤツの口に粘着テープを貼り付けて、バスルームに思いっきり蹴り込んだ。
「おい。お前は誰だ!動くんじゃない」
振り向いた俺が見たものは、拳銃を手にした警官だった。くそう、見つかったか。運が無い。俺のスーツの胸のポケットの所に国営放送の身分証が揺れている。まだ、何とかなる。
「お巡りさん。丁度、良かった。大変です。玄関のドアが開いていたので不用心だと思って家の持ち主に知らせようとしたら・・・泥棒と鉢合わせしてしまいました。何とかやっつけたところです」
「黙って、両脚にこの粘着テープを巻きつけろ」
「・・・?」
しまった。こいつも同業者か!くそっ。何て偶然だ。拳銃を突きつけられては仕方がない。俺は先ほどの男と同じ顔をして、自分の脚に粘着テープを巻いた。警官の制服を着た男が俺の両手と口に粘着テープを貼る。その直後のことだった。
「オイ。オマエタチ ウゴクンジャ ナイ」
体にピッタリな銀色の服を着た子供?が、手に奇妙な銃を持って構えていた。サングラスかと思った大きすぎる黒い瞳が動き、俺達をジロリと睨んた。
「ソレ デハ シュッパツ ダ」
ドーム型の先進的なデザインの家の床がグラグラと揺れる。脱衣場の横の小窓から覗く風景が下へと流れる。口をモゴモゴさせていたら、粘着テープが剥がれる。
「お前は誰だ!」
「ワルイ ニンゲン シンデモ カマワ ナイ。ケンキュウ ノ タメ カイボウ スル」
おしまい。
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