ゲノム編集食品
高級なバーカウンターに、身なりの良い紳士が一組並んで年代物のワインを酌み交わしていた。
「最近、何かと『ゲノム編集食品』なるものがマスコミで話題になっているが、あれは本当に安全なのか」
「まあな。安全と聞かれれば安全だろう。我々は食べ物を胃や腸で消化・分解して摂取しているから、遺伝子、つまりゲノムをいじろうが何しようが関係ない。どうせ、体の中で分解されてしまうからな」
「おいおい。ちょっと待てよ遺伝子とゲノムは同じものなのか」
「細かい定義はあるがこの場合は同じと言って問題ない」
「なら『遺伝子組み換え食品』と対比して『遺伝子編集食品』で良いではないか」
「『遺伝子組み換え食品』で『遺伝子』のイメージがとてつもなく悪くなったからな。『ゲノム』と置き換えて消費者を煙に巻くつもりなのさ。賢い者は考えることがセコイ」
「ズルくないか。それ」
「まあなー。でも、病気や害虫対策で猛毒の農薬を使ったり、生産性を上げるために成長促進ホルモン剤をドバドバ使うより余程安全だ。その上『ゲノム編集食品』なら体に良い成分を強化したり、逆に毒などの悪い成分を取り除くこともできる」
「成程、頭ごなしにダメと決めつけるのは良くないと言う事だな」
「そうとも。地球には七十五億人も人類がいるんだぞ。安全な食糧を提供するのだって限界だ。このままだと、折角増えた人口が減ってしまう」
「まっ、まさか人類も『ゲノム編集』されてたりしないよな」
「しているに決まっているじゃないか。じゃなきゃ、七十五億人も増えたりしない。年中発情して無制限に増える高等生物などこの宇宙には存在しない。そろそろ地球に到着するぞ。最初の人類、そう確かアダムと言う名のオスとイブと言う名のメスのつがいだったか。『ゲノム編集』した家畜を送り込んで二十万年、ようやく収穫の日が訪れたんだからな」
「七十五億人かー。我々の星の一年分に値する食糧だな」
「ああ、缶詰じゃない生の人間を味わえるなんて久しぶりだ」
「そうだな。楽しみだ」
窓の外には、数万もの巨大な捕獲宇宙船が地球に向かって進行しているのが見える。頼もしい限りだ。二匹の紳士は人類を地球に送り込んだ記念日、二十万年ものの年代ワインで祝杯をあげた。
おしまい。
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