ぼっちでニートなひきこもり生活

 籠の中の囚われの鳥。生まれたときから籠の中。美しい歌声で鳴き、仲間に見せることなく散らす美しい姿。世の中に数多くの仲間が存在すると言うのに一人ぼっちのひきこもり。果たしてこの鳥は幸せなのだろうか。


 枯らしが吹きすさぶ窓の外。黒く垂れこめた雲の下、電線に止まるカラスさえ凍えている。床暖房が完備されたぬくぬくのフローリングに寝転び、部屋の天井から吊るされた鳥かごの中を見上げてふと思った。


 美しい羽で着飾った鳥はオスだと聞いたことがある。メスを求めて鳴く姿は哀れだが、この南国の生まれのペットにとって、外の世界は地獄その物だろう。自由に羽ばたけんなて言われても無理ってもんだ。温室育ちは温室で一生を終える。それ以外では生きられない。


 仲間も恋人もできないが、安全で快適なひきこもり用住居が保証されている。衛生的で栄養満点、その上、美味しいグルメ三昧。無理をして外の世界に飛び出すことなんて何一つない。暖かいなー。眠くなってきた。


 外は真冬でも中は春爛漫。眠りを誘う心地よさが永遠と続く。外に出て、イジメや差別などと言った厳しい現実と向き合うより、ボッチでニート、引きこもりとさげすまれても気にしなければなんてことない。


『荒波に揉まれてこそ成長が成し遂げられる』とか『厳しさに打ち勝ってこそ、真の自由が得られる』とか、大人の戯言(ざれごと)にしか聞こえない。生物の本質は怠け者なのだ。日がな一日、部屋に引きこもって遊んで暮らせるのだからそれでいいじゃないか。


 高い金を使ってまで、俺様の健康を気遣ってダイエット器具とか運動器具を買ってこられても邪魔なだけだ。俺様はそいつらを足でけって部屋の隅へと追いやった。


 大人の女はこれだから困る。ふとって何が悪い。デブでぶよぶよこそが引きこもりの証。今更、モテたいとも思わない。ボッチで十分。テレビを見ながらつまめるジャンクフードこそ、俺様達、ニートの生きがいなのだ。


 それにしても、あの鳥。気になる。ある意味、俺様と同じニート仲間。丸々と太ってうまそうだ。心の奥に追いやった野生の本能を目覚めさせる。たまらない。


 俺様は運動不足の体に鞭打って、床から椅子へ、椅子からテーブルへと飛び乗った。更に吊り下げられた鳥籠に向かって渾身のジャンプ。あと少し、あとほんの一センチ高く飛べたら・・・。


 俺様の太った体は、万有引力に引き寄せられて床へとまっしぐら。受け身をとるとか、アクロバティックな空中一回転着地とか無理。自由落下に逆らう手立ては俺様にはない。


「ニャン!」


 ゴキ。頭蓋骨が砕ける鈍い音。失われていく意識の中で思い出した。吾輩は猫である。名前はまだない。






おしまい。

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