首のない男

 意識はどこから来るのか。中世ならいざ知らず、そんなことは今時の小学生なら誰でも知っている。脳の電気刺激によって生み出されているだけだ。


 俺は『首のない男』、現代科学によって作り出された化け物だ。首がない?カエルだって首がない。ヘビは何処が首なのか分からない。って、俺はカエル人間でも、ヘビ人間でもない。首から上のない男なのだ。


 IPS細胞を培養することで生まれた金持ちの臓器移植用交換部品。やれ怪我をした。飲み過ぎて肝臓を痛めた。タバコの吸い過ぎで肺がんになった。などなど。俺の遺伝子を提供した金持ちが病気や怪我をすると俺の出番だ。体の部品を奪い取られる。


 それまでは、この培養プールの中でのん気に思考するだけだ。脳の代わりに、全身に貼られた低周波発生器が定期的に作動して、筋肉を鍛えている。首から上が無いのは、俺が人間であっては倫理的な問題が生じる為だ。あくまで交換部品の寄せ集めでなければならない。


 あれっ?俺、意識があるじゃん!脳もないのに。ってか、目も耳も無いのに、この知識はどこからきたんだ。意味がわからない。わからなすぎて眠くなってきた。てことで寝る。


・・・・・。


「手術は成功だ!」


 俺はベッドの上で目覚めた。奇妙な夢を見ていた気がする。


「山田さん。起きてください!もう、体は元通りですよ。いや、首から下は全て新品ですよ」


「うーん。えっ、山田?誰の事だ」


「こりゃあ、まいったな。体がグシャグシャになるくらいの大事故だったから、脳にも後遺症が残ったのかな」


「俺は首のない男だ!」


「何を言っているんですか。ほら、ちゃんとあるじゃないですか」


 鏡を見せられる。


「これが俺の顔?」


「そうですよ。思い出しましたか。山田さん」


「老人じゃないか」


「そうですよ。山田さん。八十五歳じゃないですか」


「ようやく思い出した。でも、体は二十歳の青年だぞ」


「そりゃー、まあ、新品ですから」


「頼む!首から上もIPS細胞を使って作ってくれ。金ならいくらでも出す」


「それはちょっと。法律で禁止されてますし・・・。そうだ、良い知らせがあります。山田さん、事故に合わなければ百歳まで生きられる体の持ち主だと判明しました。丈夫な新品の体で、まだまだ生きられますよ」


「それのどこが良い知らせなのだ!首から上が百八十歳になってやっと体が百歳。化け物の姿で生き続けろと言うのか」


「山田さんが望んだことですから」






おしまい。

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