文具発明家のリベンジ
私は文具発明家。と言っても、一人でちょぼちょぼと文具をいじっているマニアに毛が生えた様な存在。極貧発明生活を強いられる女の子です。
そんな私でも過去に大ヒットを飛ばしたことだってあるんです。それは『スリムノートさん』。気になる人は前作『文具発明家』を読んでください。
皆さんも一度は使ったことがありますよね。一行しか書けない鉛筆サイズのノートさん。今では他社製のパクリ品が、私の大好きなホームセンターで堂々と売られています。
「あふー。お腹が空いたよー。キミたち整列しなさい」
私は過去に生み出した文具さん達を机に並べる。
モフモフクリップさん。書類を止めるクリップに今、大流行のモフモフの毛を生やしたもの。この愛くるしさが分からないなんて、世間は遅れている。小さなモンスターみたいだ。
「モフモフモンスターさん!どうして、あなたはちっとも売れないの?」
私はクリップのえをつまんでパクパクさせる。
「それはねー。大事な会議の緊張感を無くすからですよ!」
「そんなー。会議の書類以外にも、キミの活躍の場所は沢山あるでしょ」
「もう見ないけど捨てられない書類を束ねるくらいです。僕も机の中に入れちゃんでしょ。モフモフの意味ないじゃん」
一人芝居。
「モフモフモンスターさん、ごめんなさい。キミのお仲間は全員机の中でした。はあー」
ため息をついて別のものを手に取る。
「キミはどうなのよ!キラキラスティックのりさん。キミ、素敵だよ」
私はキラキラステックのりさんの頭を出してノートに押し付ける。
「ほら。キラキラ光ってかわいい」
「はり合わせたら僕のキラキラが隠れちゃうー」
一人芝居。
「あっ!大切なアイデアノートがくっついた。はあー」
二度目のため息をついて次のものを手に取る。
「三度目の正直!これは間違いなく売れる。キミは地味だけど『スリムノートさん』に続くスターになるのよ。擦ったら消える朱肉さん。ハンコって角度がずれたり、かすれたりイライラするのよね。その点、キミは消せるから何度でも押し直せるじゃん」
私は朱肉ケースのフタをパクパクさせる。
「消せないから証拠になるんです。僕、世界一信用できない朱肉です」
一人芝居。
「そうだよねー。でも、ほら証拠隠滅とか・・・。はあー」
そろそろ、フリマアプリに注文が!・・・。きてないよね。うぶー。全滅じゃない!こうなったら新作を開発するしかない。私は負けない。大手なんかに負けるものか。
「あっ!スリムノートさんを造るのに使ったカッターナイフ。こんにゃろー!直ぐに切れなくなるし、折ったら短くて使いにくいし。この裏切り者!あんたのおかげて手にマメできたじゃん。この、うつけ者」
「閃いた!やっぱり私は天才。うふふ」
私はペンを立てていたマグカップの裏のザラザラしたところで、カッターナイフの刃を研いだ。
「包丁が研げるんだからもしやと思ったらやっぱり。切れ味復活!紙やすりの角度を調節してカッターナイフの刃の出口に装着。これなら刃の出し入れのたびに先が研げてスパ、スパーッて滑らかな切れ味。キミ、最高よ。復活カッターナイフさん。キレッ、キレじゃない」
ほおが緩む。
「大金持ちも夢じゃない!うふふ。特大ステーキにしゃぶりつける」
あっ、涎が垂れた。私はすかさず工場に売り込みの電話をかけた。
「あのですね。そんなアイデアを出されたら困るんですよ。替え刃を売って儲ける商売なんですから!」
担当者は声を荒げ、電話はプツリと切れた。
おしまい。
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