あなたのための魔法少女

「大物だったねぇ」


 尻尾の先から光に包まれて消えていく怪物を横目にお姉さんは「はーやれやれ」と首を振った。


「ちょっと警戒が甘かったな。こりゃあ連中も本腰を入れてきたっぽいね」


 とはいえ――と意味深に言葉を区切って、お姉さんがニヤニヤと目元を緩めて振り返る。思わず私は目を逸らした。


「へへ、えへへ、かえでちゃん……ふへへー」


「あ、あの、あおいちゃん、お姉さんが見てる」


「だめ、今はちゃんとわたしを見てー」


「いや、そういうのじゃ、なくて」


「みーてー」


 にまにまととろけきった顔で私に頬ずりするあおいちゃんが、私の腕にひしっと抱きついて離れない。耐え難いほど嬉しいけど、今はちょっと遠慮して欲しい。お姉さんの手前、とても気まずい。


「こりゃあ「力」の方は心配なさそうだね」


「うぅ……ま、まぁそう、ですね」


 正直、こうしている今もまだ気持ちが昂ぶっていて、私は魔法少女の衣装のままだ。溢れ出る「力」を抑えきれなくて、変身が解除できない。気を落ち着けるためにも、あおいちゃんには一度離れて欲しいんだけど。


「あの、あおいちゃん、離れ、て」


「…………っ、ぐす」


「い、いい。そのままがいい、な」


「ぐす、へへ、えへへ」


 ううう、離してなんて言えないよぅ。


「仲良しで大変結構。その調子で頼むよー」


 お姉さんはひらひら手を振って、さっさと立ち去ってしまう。一応、この場で起きたことは「力」を持つ私と、楔であるあおいちゃん以外の記憶からはまるっと消えてしまうらしい。なので、程なくこの場所にも当たり前に人が戻ってくるだろう。


「…………」


「…………」


 その束の間の静寂を、怪物が現れる前と同じように並んで座って過ごす。


「……なんで、嘘ついたの」


 ぽつりと、そう口を開いたのはあおいちゃんだった。


「え、と?」


「わたしを守るのは、わたしがくさび? だからって、嘘なんでしょ」


「あ、れはその、わ、私に好きとか、言われても困るかなって……その、嫌われたりしたら、やだなって思って」


「あんなにたくさんチューしたのに……」


「う、で、でもあれは、お礼だったし」


「ただのお礼で、誰にでもチューしないよ」


「……うん」


「でも、私もちゃんと言わなかったから、おあいこね」


 そう言って、あおいちゃんはこてっと私の肩に頭をあずけてきた。


「これからは、ちゃんと言うからね」


「……うん、私も、誤魔化さないで、言うよ」


「楽しみにしてる」


 言うなり、あおいちゃんはくいっと私の顔を引っ張って唇を押し付けてくる。はむはむと唇を唇で甘噛みされるくすぐったい感触に、私もはむはむして応えた。

 顔が離れるとあおいちゃんは真っ赤で、私もきっと真っ赤だ。


「あおいちゃん」


「ん?」


「私、私は、あなたのために戦うから。他の誰かのためとか、みんなのためとか、世界のためとかじゃなくて、あおいちゃんを守るために戦うから」


「うん」


「だから、あおいちゃんも、その、私の」


「もちろんだよ。わたしはもう、かえでちゃんのもの。かえでちゃんも、わたしのものだから」


 言おうとしたことを先回りされたのが気恥ずかしくて、だけど通じ合ってるみたいで嬉しい。でも、通じ合ってるから言わない、はナシだ。わかっていても、伝わっていても言葉にしたいことがある。


「私は、あなたのための魔法少女、だから」


 ――世界で一番個人的な魔法少女はいま、大好きな子の隣でとても幸せです。



******


あとがき


以上でおしまいです。最後までお付き合いいただいてありがとうございました。


中盤からちょっと駆け足だったかなーというのは若干の心残りなんですが、お読みいただいた皆さんはおわかりのように私は戦闘描写が非常に下手くそでありまして、また怪物のビジュアルについても非常に適当な設定しかできておりません……このお話が長くなるということは必然的にそれらの描写も増えることになるので、アイデアの時点で「やるなら短編かなぁ」となりました。

ただ、本当はもっとゆっくり二人には仲良くなってもらって、もっと致命的にすれ違ってもらって、そしてダイナミックなキスで決着して欲しかったのも本音であります。いつかもう少し長いお話にリメイクできたらいいなと思いつつ、今回はこのへんで失礼します。


もしも本作を気に入って頂けましたら、私の他の作品も覗いて頂けると泣き叫び五体投地して喜びと感謝をお伝えする所存です。

では、ご縁がありましたらまたどこかで。

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あなたのための魔法少女 soldum @soldum

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