誤魔化し、襲撃

「なんでわたしのこと、いつも守ってくれるの?」


 ドキリと心臓が大きく跳ねた。なんで、なんで急にそんなこと聞くんだろ。もしかして私の気持ちがバレてる? それとも疑われてるの? 今日のデートっていうのは建前で、私の気持ちを見極めようとしてたのかな。や、やばい、思いっきりはしゃいじゃった。


 やだ、好きとか、お礼のチューにドキドキしてるの、バレたくないよ。気持ち悪いとか思われたらどうしよう。せっかく、少しずつお喋り出来るようになったのに。魔法少女じゃない時にも、こうやって遊びに来られたのに。そういうの全部なしになるなんて、やだよ。


「あ、あおいちゃんは、この世界のクサビ? だから、その、守らないとダメだって、お姉さんが、あ、えっと、お姉さんっていうのは――」


「そっか」


 ……あ、間違った。


 あおいちゃんの表情を見て、言葉が詰まった。

 そっか、ってあおいちゃんは笑った。続けて「いつもありがとう」って言った。でも、違う。ちっとも嬉しそうじゃない。それに、いつも私の話を「うん、うん」ってゆっくり聞いてくれたあおいちゃんが、私の話を遮った。


 これ以上聞きたくない、ってことだ。

 何がいけなかったのかわからない。でも、私の言葉は、あおいちゃんの欲しい言葉じゃなかったんだ。


「ご、ごめん、ちがう、違うの、私」


 ――――――――――。


 慌てて訂正しようとした途端、甲高い悲鳴が静かな水槽の間を駆け抜けた。反射的に声のした方を振り返ると、巨大な影が窮屈そうにのったりのったりと細い通路から現れた。


 それは多分、クジラを模しているのだと思う。

 シルエットだけならここで見たセミクジラに似ている。けれど下顎をぱっくりと開いたその中から、イソギンチャクのようにうぞうぞと伸びた触手がクジラ型のシルエットの全身を絶え間なく這い回り、目と思しき部分は真っ赤で、左右に8つずつぎょろぎょろと別々の方向へ向いて蠢いている。

 ヒレはクジラのそれより大きく、極太の触手が手のように広がってズリズリと巨体を引きずって動いていた。


「あ、ぁ」


「逃げて!」


 咄嗟に動けずにいるあおいちゃんを反対側の通路に押し込む。こんな大きな怪物は見たことない。それに今までは屋外での遭遇ばかりだったけれど、今日は狭い屋内であの巨体。いつものように機動力で翻弄するのは難しい。


 ……最悪、この場ではあおいちゃんを守りきれないかもしれない。


 よろよろと覚束ない足取りながらも、逃げ惑う人々に流されるようにあおいちゃんが通路の向こうへ消えていくのを確かめて、私は変身する。

 全身が光に包まれて、すっかり馴染んだ衣装にチェンジする。手には、扱い慣れた長槍がもう握られている。


「絶対、通さないから」


 私は、あおいちゃんを守るんだ。たとえ、あおいちゃんが私を見限ったとしても。私は、あおいちゃんが好きなんだから。大好きなんだから。

 私は身を低く、槍を構えた。

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